カノエア!
第4話
「観鈴、そんなにあれが気になるのか?」
「にはは、そ、そんなことないです」
ウソだな。
帰り道、観鈴はまた、ショウウインドウに釘付けだった。
言っても、そわそわ。
「なぁ、天野、こういう場合はどうしたらいいんだ?」
「……そこで話を振らないで下さい」
天野でもだめか――。
結局、家に帰るまで上の空で観鈴は上の空だった。
ジュワーッと揚げ麺の香ばしい匂いが部屋中に漂いだしたのは、
観鈴と天野が料理に取り掛かってすぐの事だった。
天野に手伝う事はないか? と聴いたら、一言邪魔です。 だ。
――どうやら女2人で盛り上がりたいらしい。
「わっ、天野さん野菜の切り方が天才的っ!」
「当然です」
「にはは、わたしも揚げ麺は天才的!!」
「そうですね」
・・・揚げ麺に上手も下手もあるのだろうか?
とにかく楽しそうだ。 やっぱり女同士だと打ちけるのが早いのだろうか?
と、言われるとそうでもないかもな……舞とか真琴とかいる訳だし。
――天野のほうが積極的だったらおもしろいかも。
んっ? メールか?
俺は懐から携帯を取り出した。 差出人は、栞だ。
――教えた覚えないんだが……。
そういえばその昔、携帯変えたとき調子に乗ってクラス中にメアドばら撒いたっけ。
ま、それはさて置き、内容くらい確認してやろう。
『玄関開けてください』
「はっ?」
意味不明だぞ、栞。
玄関、じゃなくてドアだ、ドア。
ドアを開けると、栞の顔がある、そう思った俺は現実とかけ離れた光景に愕然とした。
そこに立っていたのは”お前だれだ?”と言いたくなるほど爽やかな笑顔の香里だったのだ。
はっきりいって怖かった。
「ゆーいちさん♪」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
香里をすり抜けるかのような華麗な身のこなしで、栞が眼前に現れた。
そして何故か落胆した。
対照的に香里の顔はどこか勝ち誇った冷ややかな笑顔に戻っている。
「取り合えず、驚いたみたいね。栞、今日の夜ご飯はあなたが作りなさい」
「えぅ〜、祐一さ〜ん、どうしてアレくらいでぇー」
「だって、香里があんな顔したら名雪ならば泣くぞ」
「はい、私も同感です」
どっちだよ。
要するに、俺は賭けの対象だったらしい。 しかも0ゲームの。
「ま、遊びに来たんだろ、あがれよ。 天野とかがいるけど」
「あっ、それは知ってます」
もう一言ある。 そんな気配を漂わせたが、栞はそこで口を閉じ、香里と敷居を跨いだ。
「どうぞ、召し上がってください」
「にはは、たくさん作ってよかった」
昼飯がまだだった栞と香里も交え、俺達はかたやきそばを食した。
観鈴&天野合作かたやきそばは、美味い。
「ううむ・・・」
やはり、観鈴は料理上手だ、思わず唸った。
ま、佐祐理さん、天野、意外なとこで北川、はなんか天才の域だし、
舞と栞もまぁ、料理のいろはぐらいは心得ているだろう。
……どういうわけか、香里は家庭科関係は発展途上なのだ。
強いていうなら、塩と砂糖は白いから同じくらいなレベル。
”香里の玉子焼きは甘いか辛いかどっちかだよー”と我が従姉妹も言っていた。
「にはは、祐一さん、おかわりどうですか?」
「ああっ、もらっとく……」
俺は皿を渡すと、嬉しそうに観鈴はキッチンへ走っていった。
「相沢さん」
「んっ、なんだ?天野」
「今、すっごく観鈴さんとの受けかわしが微笑ましかったです」
「はっ?おかわりシーンが、か?」
「ええっ、そうね。あたしもなんだか心が和んだわ、そう仲のいい幼馴染、みたいね」
よくわからない。 まぁ、概ね、2人にはそう見えたらしい。
だったらそれでい――
「祐一さん、おかわりいかがですか?」
「……いらない」
「えぅ〜」
なんか悲壮じみてる栞はほっといて、観鈴からお代わりを受け取ると、おいしく頂いた。
そして夕方、香里は玄関にへばりつく栞をひっぱって帰っていった。
友達の家、てのは居心地がいいもんだ。 栞もそうだったとしたら――
――まったくこどもだなぁ・・・。
「何、1人黄昏てるんですか?」
「――人権はこういうところでこそ、適用されるべきだ、と俺は思った・・・
てのはだめか?」
「ええっ、それより、帰り送っていってください」
「はっ?」
「相沢さんはうら若き女子高生を1人夜道に歩かせるような人ではない、
とはまぁ、信じています」
さも当たり前、とばかりの言い草だ。 まぁ、真琴の話でもしながら送っててやるとしよう。
「相沢さん、ここまで結構です」
「ああっ、じゃあ、写真のことは適当に誤魔化してくれ」
「はいっ。 コレクションとして大事に保管させてもらいます。
しかし、相沢さん、真琴がいないとああも人格が変わるんですね」
「はっ?」
「いいえっ、気にしないで結構です。 ・・・じゃあ、観鈴さんに宜しく言っておいてください」
「あっ……」
「どうかしました? 相沢さん」
「――ああっ、じゃ、また今度な」
俺は踵を返し、一路、家へ向かった。
観鈴を忘れていた。
家を出る辺りの動作があまりにも自然すぎたのが原因だ。
マズい。 いや、男としても最悪、ていうか愚行だろ・・・。
ものでつるのは好きじゃないんだが――。
いそいそと家に帰ってみると、観鈴はキッチンで食器を洗っていた。
なんか、馴染みすぎだ、おまえ。
取り合えず、ソファに座って大人しくテレビを見て待つことにした。
「にはは、祐一さん、お帰りなさい」
「ああっ、よく待ってたな」
「えっ?だって――」
じれったいのでさっさとその袋を観鈴に向かって軽く放った。
「わっ、」
それを観鈴は両手でキャッチした。
「なにかな?……あれっ?」
現れたのは、まぁ、ショーウインドウに飾ってあったぬいぐるみの小型版。
お値段2000円なり。 天野からの収入がなければ無理だった代物だ。
「祐一さん、これ、どうしたの?」
「いや、お前を完全に忘れてた、ということで謝罪の意を込めてだなぁ」
「が、がお…、えっと、こういう時は、何ていえばいいのかな?」
「はっ? 」
「えっと、えっと、あの、わたし、男の人からプレゼントなんてもらったことないから……」
なんか、耳まで赤くなって照れてるぞ。
おまけに少し上目遣い。 どうやらヒントが欲しいらしいのだ。
・・・ありがとうか? 違うだろう。 だって俺が悪い訳だし――。
困った。
「まぁ、許してやろう、とかは?」
「それじゃあ、わたしが極悪人」
「……まっ、春休みの宿題ってことで。 そんなことよりお前、帰るんだろ?」
「……どこへですか?」
「家」
当たり前だ。 観鈴には帰る家があるわけだから、戻らなくてはいけないだろう。
まぁ、晴子さんがいないんだから1人だが。
――1人か。
「あの、祐一さん?」
俺が耽っていると申し訳なさそうに観鈴は尋ねてきた。
「わたし、ここに暫く泊まれってお母さんに言われてた」
「―――」
そんなの聞いてません。
続く
あとがき
長ったらしくも本題に入れたぁ・・・。
こんなssでもいろいろやってみたいことはあるんです。
でもラブラブ路線にする気はないです。
ええっ、まったく。
次回は多分、舞と佐祐理さん登場。