「祐一〜、お風呂上がったよ〜、入っていいよ〜」

「……ふぁっ」

 ――もう夜だ。

 結局なんだかんだ、俺は寝起きの速さもあってかドアの前で佇んでいる名雪よゆ早く眠気が来た。
 入りたくない――ぶっちゃけ、寝てしまいたい。

「……眠い」

「祐一、入るね」

 ノブが回され、名雪が姿を現した――。

「――ああ、名雪、お休み」

 なんだか、名雪の青い髪が印象的かな……と考えているうちにどっと眠気が押し寄せてくる。
 寝ることしか考えてい無い自分に悔いはないが誇りはあった。

 ぐぅっ。

 ――。
  
 ―――。

 ――――。

 さぁ、眠りよ、俺を夢世界へよいざなってくれ!!

「だめだよ、祐一☆」

 ドムンッ。

 なまじ、ぬいぐるみとは思えないけろぴー様の追撃が俺を突き刺す。
 名雪の手に握られたけろぴーはうっすらと湯気を上げていた……。

「な、名雪、何をした……」

「何って、けろぴーにゆたんぽつめてるんだよ。
 まだ夜は寒いからだっこして寝てるんだもん」

 ほかほか、まだ湯気の立つ髪――ちょっと艶っぽい湯上り名雪の寝巻き姿。
 そして騎士、けろぴー……。

 魔女と騎士は手を組んだか――。

「なに、うわ言いってるの? 祐一。
 あんまりふざけてると、お湯が冷めて電気代がかさむんだから、早くしてよ〜」

「なんだ、その妙にリアルな説得文句はっ」

 げんなりとしつつ、ようやく、俺は風呂場へと足を運んだ。 








風呂に入り、俺はようやく様々なことを整理し始めた。

 ――。 まず最初に浮かんだのは観鈴のことだ。
 今日はもうあっちで寝ているんだろうけど、きっともう寝ているか?

 ……そして晴子さんのことを思い出す。
 なんだかよく解らないけど気に入ってもらったみたいだ。

 正直、ホントわからないんだがな。

 続けて、今日の夢の元凶、霧島姉妹のことを思い出した。

 正直、どうして夢にでてきたのかさっぱりだが、暗示だろうか?
 俺はそんなサイキックな人間ではないんだけど。

 保留が妥当だろうな。

 あゆや、真琴のことも考えた。
 だが、考えてどうなる、とか思う。

 それに考えるまもなく仕切りのドアを叩く音がして思考は中断された。

トントンッ。

「わっ!!!」

「祐一さん。 申し訳ないんですが、早く上がってやってくれませんか?
 名雪が用事があるみたいなんですけど」

 ……なんだろうか?
 








 大慌てで髪を洗うと、ドライヤーをかけるのも儘ならないままに俺はリビングへと向った。

 名雪はほうっておくと時間で睡眠してしまうからマズい。
 1日の半分は寝ているんじゃいか? という俺と香里の研究論文もいつか報われる日も案外近いかもな。

 ……そう、思って急いできてみれば案の定。

「くぅっ――」

 糸目で夢をみる名雪がソファーでそれはそれは心地よく横になっていた。
 手に抱えているなんだかでかいのはなんだろうか?

「おい、名雪」

 ユサユサ――。
 揺すってみる。

「名雪、起きろ。 俺が風呂を上がった意味がなくなるじゃないか」

「あらあら、やっぱり」

「あっ、秋子さん、どうしましょう……」

「こういうときは……」

 助け舟を出すかのように秋子さんはゆっくりと名雪の耳元へと歩み寄った。
 そして、なにかぼそっと呟く。

「えっ? 真琴がっ!?」

 ……秋子さん、一体何を話したんでしょうか?
 なにやらがばっと起き上がった名雪ははっとして俺をマジマジと見つめた。

「ゆういちだよ……」

 そしてがくっと落胆をあらわにした。

「……秋子さん、それで、名雪、俺をまっていたんじゃないんですか?」

「ええっ、起すのに、真琴をネタに使ってみました。
 真琴がいたずらしてますよって……」

 ――いたずらしたのは秋子さんのような。

 ようやく整理がついたかぽんっ、と名雪はてを打って俺を見た。
 へへっと嬉しそうに笑って。

「祐一〜、わたし本当に悩んでお土産買っちゃったんだよ。
 なんと2500円〜」

 それは高い。 バイトをしていない名雪からは考えもつかない異常な出費。
 俺は呆れつつ、別のことを考えた。 遠くない未来の話し。

 ――お返しは7500円?

 そのでかいのを俺は見つめた。 どうやら、それがおみやげらしい。

「えへへ〜」

 ラッピングされたお土産は名雪によって開放される。
 普通、それは俺がやるんだぞ、名雪。

「じゃーん」

「……こ、これは」

 




「こ、これは……」

 そいつにはこう書かれていた”ありとあらゆる煩悩の限りを詰め込み彼女あるいは彼は願い、そして作り上げたある種貴重にして買う側としては望みもしないであろう殊勝な一品。 ち●こちょこ”

「なぁ、名雪?」

「なに? 祐一」

 眼差しは期待に溢れていた。 ……ふざけるな。

 俺は笑みを崩さず名雪の背後に回りこむと両側のこめかみに拳骨を当てる。 
 そしてシェイク!!

「だ、だぉ……」

 ぐりんぐりんっ――。
 
「どういうつもりだ? 名雪。 どうしてこんなゲヒンなものを買ってきたんだよ」

「えっ、だってさぁ……祐一の意表をつきたいなぁ〜って思って」

「俺は小学生かよ――はぁ。 こんな丁寧な包装までしてもらって、
 でてきたのは……」

 落胆の色はすぐにお互いにやってきた。
 期待はずれは双方に――。

 名雪は俺からお土産を奪い取りとぼとぼと歩き出す。

「――」

 ちらっとドアの前で俺に振り向いた。 名雪は微妙な表情で俺を見つめる。
――まさか本気でアレを選んだというのだろうか?

「はぁ――秋子さん、どうしましょう?」

「ふふっ、祐一さん、あのこだってふざけている事くらい判ってますよ。
 それより眠くなった名雪はゆうことなんて聞きません」

 つまり眠さ+期待はずれで今は凄まじく名雪は不機嫌である。
 だから下手に近づくとやられるぞ! ということか……。

「わかりました。 それじゃ、明日、あいつに謝っておきます」

「はい、それじゃ、おやすみなさい」

「ええっ、おやすみなさい。 秋子さん!」

 階段を昇って俺の部屋に着く。 名雪の部屋の明かりは消えていた。
 もう、寝てしまったらしい――早い。

 だから、俺も部屋へとたどり着くとゆっくりとドアを開けた。

 
 ガラッ――。


 ……お前は子供か?

 なんというか案の定。
 名雪は俺のベッドをけろぴーとともに占拠していたのである。
 
「ゆういひのばか〜」

 ――バカじゃないぞ、俺は。

 夢の中で俺をバカにする名雪に少しむっとしたものの、仕方ない。
 俺はリビングのソファーへ寝床を求め、階段を下りた。