正直めっちゃくちゃ気が重い。
 おまけに、佳乃を部活に勧誘できるように説得しておいて欲しいらしい。

『うちに入ってくれれば全国も狙えるよ!!』

 あんなに目を輝かせた名雪は久しい――。 いいのか? お前は。
 妙に未成年名くせ、企んでいそうな名雪がちくっと怖くなってくる。

「あっ、佳乃、待たせたな」
「ううんっ、べっつに待ってないよ〜♪」



「祐一、ふぁいと、だよ!!!」



「――」

「あ、アハハ、祐一くん、あの人、祐一くんの従姉妹さんなんでしょー?
 それじゃ、祐一くんの従姉妹さん=女の子のお友達さん1号だよー」

「観鈴はどうしたんだ?」

「観鈴ちゃんは親友さん1号なんだよ」

 と、いうかなんというか――。
 やたら機嫌のいい佳乃、どうやら俺を昼飯に招いてくれるらしい。
――と、いうかそれが佳乃が待っていた目的らしかった。

 殊勝な心がけに俺は感心し、少し嬉しくなったので自転車を引きながら歩き出した。

「そうだ、秋子さんに電話をしておかなくっちゃな」


――了承。

「……」

 電話越しの秋子さんの解答は一瞬である。
 かくして、俺は霧島診療所へと向うのであった。







「とうちゃーく、わっ、祐一くん大丈夫〜?」

「ああっ――プライドはズタズタだがな」

 詳しく言っちゃえばスプラッターヨロシクなくらいに気分はバッドだった。
 あの後、学校を去ると、佳乃を自転車の荷台に載せる羽目になったのだ。

 理由は特に無いのだが……要するに佳乃が足を挫いたらしい。
 それで、仕方なく、プライドを殺して俺は佳乃を助けた。

 
 あっ、ポテト忘れてたような――ま、いいか。



「たっだいま〜お姉ちゃん」
「ああっ、お返り、佳乃――と、いつぞやの」

「じゃーん、祐一くんだよ〜!」

 場違いなテンションで佳乃は喋りだした。
 この白い、清潔感を匂わせる診療所には何故か特有のアルコールのにおいがしない。
 
 はたして、ここでは治療はアルコールなしでやるのであろうか?
 その代わりとは言ってはなんだが、とても芳醇な香りがしてきた。

「どうも、こんにちは、えーっと、聖さん、この匂いは……・?」

「相沢くん、君は佳乃とどういう関係なんだ?」

「はっ――?」

「はっ? じゃない――。 どうして患者でもない見ず知らずのような男を、
 ああ、少なくても私はだが。 佳乃がつれてくる?」

 わなわな、とした邪悪な気配を聖さんの背後から感じ取れた。
 逃げてしまえば悪効果なので正直に話すべきだろう。

「佳乃が昼食をごちそうしてくれるそうなので、来ました。
 別に佳乃のいうところの友達1号なだけです――」

「・・・・・・・。 君は正直だな。 そして礼儀正しい」

 ――何か親近感の欠片も無い男を標準に俺を天秤にかけているようだ。
 聖さんはほんっとうに素で俺への気配を和らげていくのが解る。

「まぁ、いい。 私も正直な男は嫌いじゃあない。 君は顔立ちもいいからな」

「そ、そういう問題っすか?」

「いいじゃないか。 一緒に朝飯を食った仲なんだし」

 微笑して、俺は微苦笑して――聖さんは踵を返し、台所?へ、
 俺はようやく玄関に上がることに成功した。

「今日はお姉ちゃんが料理担当なんだよ〜」

「それは、本当によかった……」

 事前知識が無ければ、こんなことで胸を撫で下ろさないだろうに。
 そんな俺を佳乃は不思議そうな視線で見つめていた。







 聖さんが料理を作っている間、その時間は今に思えば重要な時間であった。
 翌々日。 即ち、春休みも最後というその日に俺はこの日の出来事を思い起こす。

 つまりは、霧島 佳乃という1人の少女のお話。

 そんなことにも無頓着な俺は気がつかなかった。
 はぁー……。


「なぁ、佳乃、夢をみたんだがな?」

「えっ? 祐一くんが夢、みたの〜? どんな夢?」

「ああっ――佳乃と、聖さんが出てきた」

 ……軽く沈黙。
 佳乃は唇を尖らせ困った表情を浮かべていた。
 
「話していいか?」

「えっ? いいよ? でもね、なんだか少し変な夢のような気がするなぁ……」

 まったく怪訝そうにも無くそう応える佳乃に俺は失笑する。
 ああ、そうか、と答え、一応承諾を得た事も?あり話を始めた。

「――佳乃がな……、
 で、聖さんが……」

 

 ……。

「ぜっ、んぜん知らないよ〜〜〜」
 
 全言撤退の佳乃のアプローチは俺の誤診を確信させた。
 ああ、よかった。

 俺は表情を和らげる。
 過去にみるのはやはり自分のことだけが正確。 俺に予知夢の力なんて皆無なんだ……。

「すまないな、ツマラナイ話しちゃって」

「まったくだ――ランチが冷めてしまう」

 いつも間にか現れた聖さんは佳乃に即座に料理を皿に盛るように指示をだす。

 佳乃は去っていった。



「……さぁて、相沢くん。 まったく私と佳乃の夢をみるとは隅に置けないよ」

「す、すみません。 どうも、――気になったもので」

「いや……そ……何でもない」

「はい?」

 動揺? 聖さんは一瞬だけフイを踏んだかのように俺から視線を逸らし、らしくない苦笑を漏らす。

「さぁて、佳乃は盛り付けは上手だから、期待していいぞ。 相沢くん」






「知らなかった――佳乃は足が速かったのか」

「はいっ。 従姉妹の名雪は陸上部部長です。
 それを颯爽と抜き差っていったんですから、驚きですよね」

 フムフム……聖さんは感慨に耽るかのような仕草でパスタを口に含んだ。
 生パスタはソースと程よく絡み合い、まさかインスタントとは思えない。

「さすが佳乃だ。 お姉ちゃんは本気で嬉しいよ」

 つぅっ――と聖さんの頬を雫が――。

「わあっ、お姉ちゃん、そんなおおげさだよ〜」

「い、いやっ――、佳乃、随分成長したじゃないか。 そうか、リレーで一番……」

「ああっ、まーすますワカラナイんだが」

埒が空かない。 そう思った俺は取り合えず、ごちそうさまをして、俺は霧島診療所を去った。









どんっ――。