俺の携帯が勢いよく鳴り響いた。
 ――朝だ。

「はいっ――」

 節々が痛いのは床が固いからだろう……。

「えっ――? 佳乃」

『ゆーいちくーーーん、でぇとしよ〜〜〜!』

 ……プツンッ。

 ツーツーツー。
 
 最後の方、聖さんの入れ知恵かなっと俺は思った。








「秋子さん、おはようございます」

「あら、おはようございます。 祐一さん。 あらあら、どこかへお出かけですか?」

「はい。 ちょっと山登りです――」

 佳乃に指定された場所は、駅から電車で数分。
 何でも特別?ゲストを招待して、ちょっとハイキングをしたいらしい。
 ちなみに、聖さんは仕事があるため諦めたようだ。

(泣く泣くだろうな?――予想である)
 俺は思わず秋子さんと聖さん双方へ苦笑いを向けた。

「夕方、遠野さんがいらっしゃるそうですから早めに帰ってきてくださいね」

「はいっ、了解しました〜」

 かくして、俺は水瀬家を後にし、待ち合わせの駅前へと向った。



○



 ガターン ゴトーン……。

 この辺りの踏み切りは最近開発に伴い舗装され、2車線になった上、歩行者用通路まで設けられていた。
 そこで、知った顔と遭遇する。

 大きめのバスケットをうんしょ、と支えピンク色のワンピースで着飾った観鈴だ。
 そういえば昨日あってい無い、というだけなのに随分久しぶりに感じてしまい寂しかった。

「お〜い、美鈴っ」
 
 取り合えず、挨拶だけしておこうか?
 観鈴は俺の掛け声にちょいっと顔をあげ、にぱぁ〜っと微笑んだ。
 勇み足にと歩く俺と観鈴は調度踏み切りの真ん中辺りで重なった。

「お前、そんな荷物抱えて、どこへいくんだ?」

「にはは……実は祐一さんを待ってたんだよ」

 照れたような顔をして観鈴はこっちを見つめてくる。
 
「そぅか……佳乃の言ってたのはお前だったのか」

「うんっ、だからわたし、待ってたんですって」

「まっ、それじゃ、佳乃を待たせないように行くとするか〜」

「にはは、しゅっぱ〜つ」

 かくして、俺と観鈴は佳乃が待っているはずの駅へと歩みを再開した。







「あっ、祐一くーん、観鈴ちゃーん、こっちこっち〜」

 大きく手を振る佳乃は今にもこっちへ駆け寄ってきそうなほど元気がいい。
 やれやれ〜、朝から元気だな、と俺は肩を竦めつつ佳乃に小さく手を振り返した。

 観鈴は、というとこれまた嬉しそうに手を振り返していた。



「あのね、祐一くん、次のバスがあとちょっとでくるんだよ。
観鈴ちゃん、楽しみだね」

「うんっ、わたし、こういうのに誘われるの初めてだから嬉しい」

 嬉嬉満面とした観鈴と佳乃――。
 
「ところで、佳乃、どうしてハイキングなんて思いついたんだ?」

「えっとね〜、じゃーんっ!」

 なんというかごわっとした感じの広告を佳乃はフロントポケットから取り出した。
 ……なになに?
 ”春休み、最後の花見大会=露店もでるよ!=”

「佳乃」

「何〜? 祐一くん」

「お前、露店目当てか」

「わっ、」

 目が大きく開かれ驚きをアピール、そしてフフッと表情を戻した。
 いや、緩めた? か???。

「正解〜、おめでとうさまですっ! 祐一くんにはかのりんマスター3級の称号を……」

『お客さん、乗らないんですか?』

 ――。

 いつの間にか来ていたバスに薄情な観鈴は乗り込んで苦笑いを浮かべている。
 
「わっ、わっ、わ〜〜ごめんなさ〜い」

 タタタッ! と佳乃はバスの階段を駆け上がった。
 うん、やっぱりふくらはぎの筋肉、しなやかだよなぁ――。
 名雪もそうだけど、とか思いながら、俺はあえてゆっくり、運転手を焦らすように階段を昇った。




バスは終点まで走り、片道1時間半の乗車は思いのほか早く終わった。

 終点につくころには俺たち3人しかおらず、もはや地元の祭りなんだなとおもう。
 それに明後日から始業なわけだからそうおちおちしても居られないんだろう。

「よっと――、 ついたねぇ〜」

「うんっ! 楽しみだよ〜。 お祭りだ〜」

「やれやれ――」

 
 眺めのいいアスファルトの坂道がぐんぐんと流れていった。
 桜道を歩いているとどこか不思議な気分だ。
 近所の桜は散ってしまったし、何よりここは少し冷える。
 結構山の奥なんだろうか?

「へへっ、実はね、わたし、むか〜〜しここに遊びに来た事があるんだよぉ〜」

 半ばまで来た辺りですごく嬉しそうに佳乃は言う。
 ぶんぶん手を振るものだから巻きつけていた黄色いバンダナは風邪に揺れる。

「それじゃ、ここはお前の知り合いでもすんでたのか?」

「ん〜、分からない。 どうしても思い出せないんだよ〜」

「おいおい、」

「にはは、よくわからないけれど、わたしもそういう経験あるよ?」

 記憶、なんてものは曖昧だから、俺にもあるのかもしれない。
 
 ようやく、人の声が響き渡ってきた。
 つまり、俺達は会場である神社に辿りついたのである。







 むか〜〜〜〜し佳乃が訪れた事があるという神社のお祭り、
 それは結構近隣では有名なものであったらしい。

 大勢の人 人 人……、というほどでもないが、あながち嘘でもない賑わいだった。

「シートをひく係りは〜……じゃんけんだな」

「それじゃ、いくよ〜、じゃーん け〜ん、ぽんっ!」

 観鈴のおんどで俺と佳乃はじゃんけんをする。
 俺は1人パーを出して惜敗を喫した。

「ぐっ――」

「それじゃ、祐一さん、わたしと佳乃ちゃんで買い物に行ってきます。
 よろしくお願いするね」

「ああっ――」

 
 
 とはいうものの……分かれて直ぐ事情の難しさを知った。
 人、多すぎ。
 俺はちょっと辟易感を覚えるも佳乃に渡されたシートを片手に徘徊した。



 あった――。

 見晴らしはまぁまぁ、及第点な桜の木の下、俺はようやく人の垣根に隙間を見つけた。
 よっと越しかけると、一片、桜が俺も肩に落ちる――。

「粋だなぁ〜……」