記憶は鮮明で、口にだしてもいえるくらい完璧に覚えていた。
だが頭がぼへ〜っとしているわけで、あれは夢だったのかと俺は思う。
寝ていたにしては追体験は生々しかった。
現におなかのあたりにごっぽりとした水分の余韻があるし、背中も少し痛かった。
「さて、そろそろ帰るか」
「そうだね〜、そろそろ帰らないとバスなくなっちゃうし」
「う〜、名残惜しいよ〜」
昼下がりのなんともいえないかったるい空気に流されるがまま、俺たちは境内を後にする。
賑わいも次第に下火になってきただけに頃合だろう。
「あっ――」
石段を逸れた辺りで雑木林の方向で佳乃は突然思い出したかのような声をだした。
「……どうした?」
「ううんっ――何でもないよ。 ちょっと懐かしいこと、思い出しちゃって」
「にはは、デジャヴュだね、えっへ〜ん。 わたし賢いです」
違う――と思う。
「なぁ、観鈴、佳乃――先行っていてくれないか。
ちょっと忘れ物しちまったみたいだ」
――佳乃と、観鈴が下へ、どんどん小さくなって行くのを見つめ、俺は雑木林の中へと没入した。
チチチ――……と鳥の囀りが聞こえる。 というかそれ以外は俺の足音くらいしか聞こえない森閑さだ。
防音壁が敷かれたように静かな場所を俺はひたすらに歩いた。
そして、辿りつく。
相変わらずにがらんっとしたバスに乗り込み、次第に膨れるバスの乗客を眺めつつ……。
俺たちは町へと戻った。
「なぁ――佳乃、正直に答えてくれ」
「……? どうしたの? 祐一くん、そんな顔して」
「マジな話なら、俺だって真剣になる」
「――」
観鈴は、帰りはバスに乗って帰っていった。
晴子さんが途中まで送ってきてくれたので行きはそうではなかったのだが、
帰りはそうはいかない、と観鈴は申し訳無さそうに言っていたが……。
俺と佳乃は2人きりで帰路を歩いていた。
そして、俺の顔はとても真剣だ。
よくわからない過去との対峙――さっぱりわからない結末。
「やっぱり――思い出しちゃったのかな」
「――ああっ。 多分な。 佳乃があそこへ俺を連れていったのはソレが理由だろ?
観鈴はあくまでもカムフラージュだ。 どうだ?
違うか?」
「――ううんっ、違わない」
ふっ――と佳乃は顔を上げて夕暮れの空を見た。
俺は佳乃を見る――。
「約束――覚えてる?」
「ああっ――思い出したぞ。 青臭いかなりこっぱずかしいな」
「うんっ。 あの時、わたしすっごく嬉しかったんだぁ〜……。
子供だったからね。 何でも通っちゃう。 ここに越してきたのは偶然だよ。
縁日だって、別にそういう下心があったわけじゃないんだよ。
ホントだよ。
祐一くんにまた、会えたのも――」
「俺は、しんみりした気分になるのは飽き飽きなんだよ。
どうだ? これからウチにこないか? かなり人が居ると思うぞ?」
「うんっ」
俺の提案に佳乃は頷いた――。 すごく、嬉しそうに……。
「ただいまー」
「おじゃましまーす」
バタバタ……。地鳴りでもしたかと思う階段を下りる音と共にみちるは下りてきた。
その後を幸せそうな顔の名雪が追う。
「こらっ! 相沢 祐一! みちるを置いて出かけたなぁ!!」
「こらー、祐一。 わたしにお土産買ってきてくれたかな〜?」
・・・・・。
「すまない、佳乃」
「ううんっ、全然いいよ〜」
「へっ? 佳乃ちゃん!?」
ぼんっ! と名雪の顔は真っ赤になった。
変な因縁をつけられたあとなのですごく心地がいい。
名雪のやつ、きっと俺だけだと思ってふざけてやったにきまってる。
かえって裏目に出た結果か……。
「と、みちる、ただいまな、遠野とかはもう来てるのか?」
「ううんっ、さっき病院を出たってお母さんから電話があったから、もう直ぐ!
みちる、名雪と遊んであげてたんだよ?」
「そっか――ごくろうだったな」
先ほどの幸せそうな顔をみれば、名雪が満足したのも理解できる。
遊ばれてたとかいうのは別として、名雪は楽しかったようだ。
一まず俺と佳乃は靴を脱いで、リビングへと向った。
「あらあら、祐一さん、お帰りなさい――あらっ?」
やはり、というかなんというか。
秋子さんは佳乃の顔を見て驚きとともに懐古するような笑みを零したのだった。
どどどどどどっ――!
「――秋子さん! 何かお手伝いする事ない?」
俺と佳乃そして名雪とみちるがソファーに座り何気なくテレビを見ているとき、
夕食の調理をしている音をかぎつけたか、あゆは大慌てで2階から降りてきた。
「あゆちゃん、こっちで一緒にテレビ見ようよ」
今日ばかりはみちるの虜となってしまった名雪も秋子さんの手伝いをしない。
もっとも秋子さんにしてみればそういうのはあまり関係ないのかもしれない。
ただ、嬉しいのは確かなんだろうなぁ〜……。
などと思いつつ、テレビへと視線を移した。
じぃーーーー。
「……? どうした? あゆ」
「……へっ、だって知らない顔がいるなぁ〜、て思って」
「――ああっ」
ちなみに、俺の右にみちる、左に佳乃は座っている。
みちるは名雪にあやされてそれなりに楽しそうだった。
そういうわけで、モクモクとテレビを見ている佳乃は浮いた存在になった。
さすがに、その辺あゆでも気がつくのだろう。
――ちょっと酷い言い草か、とはにかむと、あゆは俺を睨んだ。
感づかれたっぽい。
「紹介するよ。 こいつは、俺の昔馴染みの霧島
佳乃」
「へっ? 祐一くん、呼んだ?」
――……。
「うぐぅ。 新たなる昔馴染みの登場かぁ〜」
何だかあゆは感慨深そうに佳乃を見つめる。
「あれ、あれあれれ?」
佳乃は思いっきりその顔に困惑を示していた。
「――佳乃、まぁ落ち着け。 こいつは同じく昔馴染みの月宮
あゆ。
一応そこで喜悦満面の名雪の妹だ」
「へぇ〜。 よろしくだよぉ〜。 かのりんって呼んでくれると嬉しいなぁ〜」
「!!、佳乃ちゃんよろしく」
通じ合うものがあるのだろうか。 満足そうにあゆは佳乃に手を差し伸べた。
「はっ……そうだ。 秋子さんのお手伝い!!」
佳乃と握手するとあゆは本来の目的を思い出し大慌てだ。
……面白いやつ。
くくっ――と思わず俺は笑みを零した。
ぴんぽーん。
「あっ、きっと美凪とお母さんだぁ〜〜」
ベルが鳴る。
みちるは反射的に言い、玄関へと走り出した。
「みちるがお世話になりまして――」
「あらあら、いいんですよ」
みちると遠野のお母さんはとても感じのいい人だった。
なんでも、アンティーク店は仮の姿、その実は……という人らしい。
まぁ、2足のわらじどころの人じゃないらしくそれも器用にこなせるのだ。
正直秋子さんも驚くほど、良くできた女性なのだった。
「……みちるがお世話になりました」
「? んっ――ああ。 どういたしまして」
「……それは、どうも」
――なんだか微妙に的外れ、ときた。
美凪はちょこんと俺に頭を下げた。 その隣には笑みを崩さないみちるがいた。
小学生、というだけに、生意気な口は聞こうともやはり――幼い。
孤独には弱いのだろうし、子供、という言葉が付きまとうのだろう。
プレッシャーから解放されたといってもいいのかもしれないな。
俺はみちるの素を見ているだけに、こっちの方が落ち着いて感じられた。
「うぐぅぅぅ〜〜」
キッチンからあゆの悲鳴が聞こえた。
「な、なんだろうな。 佳乃」
「祐一、わたしのことを先おいて佳乃ちゃんといちゃいちゃしたいんだ。
ふーん。 わたしとの17年間なんて所詮は今日一日に比べれば……」
名雪はちょっとイジワルだ。
「えっ、えっ――そのぅ。 うわ〜、照れちゃうよぉ。
祐一くん誇っていいのかな?」
…………。
「お前も真に受けるなっちゅーの」
そんなことよりも、あゆが心配だ。
秋子さん、キッチンをあゆに任せるなんて殺人行為をしないでほしい。
俺は席を立ちキッチンへと駆け出した。
「……あゆ、随分と派手にやってくれたなぁ」
あまりのおばかさ具合に、もう声もない。
なんていうか、真っ黒い煙がボヤみたいに上がっているという具合だ。
これは、ヒドいぞ。
「――あゆ。 反省はしているよな?」
「うぐぅ……ボク、ちょっと温めようとしただけなんだよ。
そしたら」
「やれやれ、いい訳はいい。 とにかく秋子さんに謝ってこいって」
「――」
しょぼんっ、とあゆは首を落とした。
「わかったよ――」
と、あゆは弱弱しくキッチンから去って行く……さてどうするか。
「おそらく、これ、厚焼き玉子だったんだろうなぁ〜」
それは、周りに丁寧に盛り付けられたお刺身や酢飯で把握できた。
そう、きっとこれは手巻き寿司に違いない。
厚焼き玉子に関しては立ち居地は人によって様々だろう。
ただ、好きな人は好きだ。 無くてはならないと思う。
――秋子さんはこれを作った。
つまり、秋子さんはあの厚焼き玉子を毎度作っているのか。
はぁ〜……。
感心している場合じゃない。
「ていうか、なんだよ。 この黒焦げた物体は。
あゆには早すぎますよ。
秋子さん――」
「呼ばれちゃってきちゃったよ〜! 祐一〜、何すればいいの?」
「名雪! よしっ、それじゃ、早速だが厚焼き玉子を作ってくれ」
ぴくっと名雪は一瞬固まる。
「おい」
俺は名雪の目の前に開いた手をちらつかせてみた。
はっと名雪は我に帰る。
「ご、ごめん――祐一」
「ああ、厚焼き玉子、作れるのか? 結局」
「う、うっ、わたし、オムレツなら作れるんだけど」
「安心しろ、原因はあゆだ。 お前はあいつより料理の腕は達者だろ?」
「うんっ――」
「俺、今から秋子さんに聞いてくるからフライパン洗って使えるようにしておけよ」
「――祐一〜」
俺は微笑んだ。 ま、困った時はお互い様。
あゆが悪いわけだし。
名雪は俺に抱きついてきた。
「はい、おしまい」
俺は名雪を剥がす。
そして、リビングへと足を伸ばした。
「祐一〜ありがと〜」
「はいはい」
「祐一さん。 確かに、由々しき事態ですね」
神妙な面持ちで秋子さんは俺をみた。
何しろ口元に手をあてて、やたら真面目に応えられたため俺はびっくりした。
「――そ、その、なにが由々しいんですか?」
思わず俺は尋ねた。
「いえ、別に大したことじゃありません。 その、ですね」
「はい」
「お砂糖、切らしちゃったんですよ」
「――」
買ってきてくださいますか、と秋子さん。
「名雪。 それじゃ、お砂糖を買いにコンビニに行ってくるから。
大人しくあゆを慰めてやっていてくれ」
「わかった。 祐一も、気をつけてねー」
「はぁー。 何か抜けてるよな。 秋子さんってたまにさ」
「そうかな? お母さんは色々考えて動いているよ。
わたしなんかじゃやっぱり敵わないなぁ〜」
にこにこと名雪は笑った。
俺は肩をすくめる。 そして軽くはにかみ、キッチンを後にした。
「あっ、祐一!」
玄関には先客がいた。
「真琴――お前、今頃出てくるなよ」
「……それは禁句よ。 ねっ、祐一、あたしの買い物に付き合いなさい」
「はっ?」
「はぁ〜、じゃないの! 付き合いなさいよぉ〜」
どうせ、漫画だろう。
そういえば今日は真琴の愛読している月刊誌の発売日だったか。
やはり、商店街まで行くしか無さそうだなぁー。
「となると、時間かかっちまうなぁ〜」
俺はちょっと投げやりにそういった。
砂糖だけならコンビニで賄えるのに――。
「だから、明日じゃだめか?」
「だめ! 阿野万我香(あの まがか)が先月引き伸ばしを計ったのよ〜。
おかげで一ヶ月どれだけ苦い思いをしたか、祐一解ってる?」
阿野万我香――どうでもいいが、俺が真琴に売れている、と説明した漫画家だ。
ネーミングセンスの素敵さと、ストーリーの巧さで受けているらしい。
ちなみに、女性なのに、80年代テイストのタッチのイラストで勝負しているあたりある意味チャレンジャーとも言えた。
まぁ、真琴と俺の共通の話題でもある――。
「ああっ、そういえばそうだったなぁ〜」
「なに、呑気に構えてるの!」
「食いつくなよ。 しかし、やっぱり由々しき事態だなぁ〜……車でも在れば別なんだけど」
「なに言ってるの! 甘ったれないの! 自転車でいくの!」
「めちゃくちゃだぞ、おい」
もっとも、真琴の言ってるのは正論だ。
取り合えず、これ以上も停滞は皆に迷惑がかかってしまう。
何よりいい加減腹が空いてきた・・・・・。
「それじゃ、行くか!」
って――おい!
折角、意気込んだのに既に真琴は玄関を飛び出していた。
はぁ――。
はぁ――。
「ま、マジ、疲れたんだが」
俺は額の汗を拭う。
じょ、冗談じゃない! 誰が2人乗りで行こうなんて考えた。
……真琴だ。
「うふふ、淑女たるもの男をこき使うのよ」
「はぁ……取り合えず、俺、食品売り場に行ってくるからさ、
さっさと買ってこいよ――それと、くれぐれも立ち読みするなよ」
俺は念を押して真琴にそう言った。
「な、なによ! そんなことするわけないじゃない!!」
「……ほぅ?」
嘘だろう。 だって、真琴だもの。
にやり、俺は口元を緩めると真琴はちょっと狼狽気味になった。
こう、捲くし立てると真琴は行動が3倍速になる。
とても便利だし、この言い回しもなんていうか陳腐ながらに愛着があった。
第一、真琴が行動を3倍になることは不可能ではない。
普段余計な事に力を入れすぎているからとろいんだ。
――俺ってば、中々の策士ではないか。
「――ふんっ! みてなさい。 真琴さまの足元にも及ばないわよ!」
真琴は大分人いりの減ったスーパーをかけていった。
ちなみに本屋は3階である。
で、誰に対抗意識を燃やしているんだろうか?
「さて、買い物終了。 と」
「ぜぇ、ぜぇ……祐一のバカ。 膝がくがくよぅ」
本当に息を荒げた真琴が後ろに立っていたときには驚いた。
舌までだして驚きを表す始末。 やればできるじゃないか。
「凄いな! 真琴。 感心したぜ! 明日肉まんおごってやるよ」
「あぅ――その手には乗らないんだから」
「あれ?」
「そんなこと言って祐一、あたしをかいじゅうするつもりね!
引っかからないんだから!」
「――」
俺はちょっと考えて、真琴に分を持たせてやろうと思った。
「むっ、やるじゃないか。 真琴。 それじゃ、ま、帰るとしよう」
自転車を跨いだ時だった。
「ねぇ、祐一」
「なんだ?」
「さっきの話なんだけど」
「あぁ、肉まんのことか?」
「やっぱり奢って」
……。
「ぷっ、ぶははははっ」
俺は思わず噴出した。
「あ、あぅ〜、わ、笑うんじゃない!!」
「よしよし、真琴可愛いなぁ〜」
「ま、真琴を侮辱すると極刑〜」
「ハハ、了承、了承」
ぷんすか怒っている真琴を無視しつつ、ペダルを踏む力は一層強くなる。
ふぅ〜……おなか一杯だ。
満足、満足。
晩御飯、正直大人数にも程がある。
それくらいの大所帯でご馳走になったからかなりにぎやかだった。
満腹になった俺は一まず自分の部屋に戻る。
とくにあそこにいても邪魔だろう、と思ったからだ。
なんというか、秋子さんと遠野親子が異様な空気で話を盛り上げていた。
だから、いづらくて、俺は退出したわけだ。
「――ふぅ〜」
ごろんっ。
「はぁ〜、ごちそうさま〜」
ごろん。
「う〜、祐一! おなか一杯で痛い!」
ずでんっ。
「わっ、真琴ちゃんあぶないよぉ〜っっ」
上から順逆不動に、あゆ、真琴、佳乃の順に俺の部屋に屯している。
――。
――いい眺めだな。
「そういえばさ、名雪は?」
俺は尋ねた。
「みちるちゃんとお風呂だよ」
「っ、ははは、なんだよ。 すっかりみちるも手なずけたのか、名雪は」
「う〜ん、どうだろうね。 でも、祐一くんのいない間。
ボクは秋子さんと本屋に行って、秋子さんと参考書を買って、
秋子さんとお昼ごはんを一緒に食べたからわからないよ」
……。
「ごめんなさい」
「ううん、全然気にしてないよ」
ちくりっ、と胸が痛む俺。
「あぅ〜、祐一、名雪、すごく努力してたのよ〜。
真琴みてたもん。 みちるがわーきゃーいって聞き分けがなかったの、
名雪、部活休んでまでお世話してたんだから」
どうも、気まずい。 あゆと真琴の視線が痛い。
俺はいない間に誰かが苦労していた、なんて申し訳ないじゃないか。
「取り合えず、明日1日あるし――埋め合わせはするさ」
「あの、祐一くん、その、そのね」
「? なんだ? 佳乃」
「明日、街の散策、手伝ってもらえないかなぁ〜、て思ったんだけど、
無理なら問題ないよぉ〜」
「ふぅん」
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」
真琴、長すぎ。
――――。
「勘違いするなよ。 俺と佳乃は昔馴染みだ」
「それじゃ、今度ボクも隣まちの散策にでも付き合ってもらおうかな」
あゆは冗談まじりに笑って言った。
「なぁ、佳乃―― 一応聞いておく」
佳乃を家まで安全に送って行くように秋子さんと電話越しの聖さんに念押しされた。
俺はウムを言わず佳乃を送って行くこととなる。
秋子さんが車で送っていけば……というのは禁句らしかった。
「うんっ? どんとこだよぉ」
「ああっ――なぁ、佳乃? お前、今日楽しかったか?」
「・・・・・。 すっごく楽しくて、すっごくうらやましかったかもしれないなぁー。
だって祐一くんはたくさんの人たちに囲まれていたから」
「そうか――」
「でもね」
佳乃は満面の笑みで俺をみる。
「わたしにも、自慢のお姉ちゃんがいるから。
全然寂しくなんかないよ」
「――――そうか」
ぽんっと俺が佳乃の頭を軽く叩くと、佳乃は――
「うんっ!」
と元気に応えた。
「祐一くん」
「?」
「明日、約束だからね」
「――ああっ、守るさ」
俺は頷く。
霧島診療所にて、俺と佳乃は別れた。
そのまま、まっすぐ――まっすぐ――帰路へと俺はついた。