「ぐうぁっ――」

 俺を襲う朝ごはんという偽りの名を保守する新種生命体は、何の前触れも無く現実の元に晒された。
 
 朝っぱらから俺は危機である。

 生命反応は十分に乏しく――何だか胃はとてもむかむかする。
 ごてごて――そんな中華ソースで彩られた料理の数々。 マーボーナス、かに玉、餃子、それと野菜スープ。
 な、なんだこれは……匂いにつられて降りてきてみれば、即座撤退もありうる朝ごはんさまというより晩御飯さまがいらっしゃる。

「にはは……祐一さん、もったいないオバケ」

「――えっ?」

 にこっとはにかみを浮かべ、しばしの間の同居人、神尾 観鈴は俺の前に姿を現した。
 
 ピンクの生地にカスミソウのアプリコットが可愛らしい、エプロンは秋子さんのものかもしれない。
 小柄な観鈴には少しだけ大きめにすら感じられる――。

 だが、今ここにいる観鈴に俺はそんなことは思えなかった。
 可愛い顔して、結構やるじゃないか、というか、なんというか……。

『にはは……祐一さん、もったいないオバケ』

 俺は再度、食卓に乗せられた晩御飯級の奴らと対峙し、そして――たじろぐ。

「ふむぅ、観鈴……もしかして怒ってるのか?」

「全然違う」

 すまして観鈴はそう言うと、席についた。

「祐一さん、御飯残さないでね。 捨てるの勿体無い」
 
 止めを刺され、俺も仕方なしに席に着くことになる。 本当ならば食べたくはないし、願わくば春眠に溺れたい。
 それだけ、外は好い天気で、網戸から流れてくる風もまた、格別に気持ちよかった。

 それでも、収拾はつかない。

「「いただきます」」

 今朝から数えて2回目になるこの行事、さすがにちょっと変だな、という気持ちもちらほらとあるが、それ以上に1人ではこういう感覚は味わえないな、という楽しさと、野郎とでは別格だ、という華やかさは確かにあった。

「――」

 



「「ごちそうさま」」

 何で、俺は憔悴しきっているんだ?
 朝ごはんってそんな大層なものだったっけ――秋子さんの作る朝食を思い描いてみた。

 名雪のリクエストはイチゴジャムのほんのりと香る食パン、いわゆる洋食。

 あゆは、以外に味噌汁とか好きだから和食派らしい。

 真琴は――朝から動物性たんぱく質なんていうものを摂取できる猛者だった。

 そんな3人は温泉旅行。 旅館に泊まったというからきっと和食メインなんだろう。
 いいなぁー汗、流したいなぁ、温泉で、と昨日入ったか。 銭湯だが。

「なぁ、ところで、観鈴は朝は洋食はなのか? 和食派なのか?」

「……が、がお、今、御飯食べたばっかりだよ? 祐一さんって胃、強い方なの?」

 ……これは失敬。

 気難しそうな仕草で頭を軽く一掻き。

「いやな、ふと、皆のこと、思い出してな――。 それで、
 名雪は洋食派、あゆは以外に和食派」

「にはは、真琴さんは何となく想像がつくよ」

「ハハッ、惨めだな、真琴」

 思わず、俺は真琴に同情した。 今頃、くしゃみでもしてなければいいんだが……。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

「ぶえっくしょん!」

 あぅ、聞いてないわよ! 温泉たまごにりゅーこーせいかんぼーしょーの元がはいってるなんて〜。

「あらあら、真琴、折角の浴衣、汚しちゃって……」

 真琴がくしゃみをして、服を汚したら秋子さんはすごく温かい腕でわたしのゆかたの汚れを拭いてくれた。
 秋子さん……ううん、お母さんは手際がいい。
 卵は匂いが強いからって消臭スプレーまでかけてくれた。

「……真琴ちゃん、そのくしゃみ、きっと噂だよ」

「あぅ、噂?」

 うんっ、あゆは頷いた。 噂、といわれても、――祐一しかいないじゃない!!

「うぐぅ、祐一くんかなぁ」

「そうよっ! そうに決まってるんだから! もうっ、帰ったら覚えてなさい!!」

「うーん」

 あゆはどうして考えるのに一間置くのかしら。 そんなゆっくり加減が気に入らない。 これで真琴のお姉ちゃんを気取るのもちょっと気に入らない。

「あっ、真琴ちゃん、頭に皺寄せちゃダメだよ」

「なんでよっ!」

「あのね、真琴ちゃん。 若いうちからそういう風にしわ寄せばっかりしてるとね、
 三十路の頃には皺がね……」 

 かちーん。

「もうっ! バカあゆ!どーして朝からそんな午後○な話するのっ!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーー。
 んなこといったら秋子さんでも怒っちまうぞ、あゆ……。

 そんな光景が俺の脳裏に鮮明に彷彿させられる。

「あっ、祐一さん、ちなみに、わたしは和食派です」

「そうか――俺はどっちつかずだから、まぁ、明日からは特に気をつかわないでいいからな」

「にはは、りょうかい」

 観鈴はぶいサインして、笑う。
 ふぅ――と俺は片付けをするため、席を立つことにしよう。






「っ――なぁ、今日はどこか行きたいところあるか?」

 春休み、ということもあり、とにかく暇だった。
 とにかく、観鈴のいる間は観鈴の意見を尊重しよう、と昨日の夜決めたのだ。
 だから、俺は尋ねてみる。

「えっ、今日、ですか? 取り合えず、駅と学校までの道を完璧にしたいな。
 祐一さん、手伝ってくれますか?」

 まぁ、当然だな……。

「かまわない。 そうだな。 新学期から」

「三年生!」

 その瞬間、俺の目が点になったのは言うまでも無い。 なんというか唖然。 

 
「ほ、本当なのか、それは――」

 俺はらしくなく動揺し、らしくない台詞を口にする。
 あれで俺と同い年――。
 俺の懐の広さとは裏腹に何かが、多分プライドかそんなところか、が音をたてて崩れて行くのが解った。

「――? 祐一さん、どうかした?」

「どうかした。 お前、どうして俺とタメなんだ?」

 その容姿は見ての通り幼く、(といってもちょっと幼いくらいか)相応じゃあない口ぶり。
――いかん、いかん、よく考えればあゆも俺と同い年だったか。

「何だか、解らなくなってきた」

 おもに、自分とか。 そういったものが、なのだ。
 屁理屈を言っても始まらない。 現実を見据えられないのは事情の痴態。
 無知と頑固というジレンマすらも今となっては古いの一言で片付けられるんだ……。

 うやうやしくしていては次第に、俺は置いていかれるのではないか?
 あゆや、観鈴を偏見とは言わずとも、侮っているのは如何だろう。

 ――ああ、ややこしい!

「とにかく、観鈴、お前のことを侮辱したのは悪かった。 あゆには黙ってろよ!」

「? ど、どういうことかな? わたし頭悪いから、わかんない」

 はぁー、俺は溜息をはいた。
 そういえば、同じような事を仰って一流大学にいった佐祐理さんというお方がいたのを思い出したからだ。

「――」

 んっ――二の句が思いつかない。

「……と、取り合えず、駅まで歩いてみるか? その後学校に行こう。
 ちなみに、しばらくの間、主導権はお前だ、観鈴……。
 ちょっと、自身が無くなってきたから、俺はしばらく水先案内人を気取ろう」

 観鈴は一瞬、何を言っているのか解らない様子だった。
 数秒、ぱちくり、とした瞬きのあと、観鈴はうんうん、と満更でも無さそうに頷く。

 ……俺達は今更ながら、パジャマでいたことに気がついた。
 互いに管理してくれる存在がいないと、こうだから、情けない――。
 苦笑いで向かい合い、俺は自室へ、観鈴は荷物を置かせてもらっている名雪の部屋へとダッシュした。


 さて、何を着ていこうか? ささやかに、俺は悩む。
 と、まぁ、近所なんだから、Tシャツにジーンズというラフなスタイルでも構わないし、いっそ気取ってカッターシャツなんかも悪くない。
 見栄えとか重ね着とかそういう洒落たことを近所でやるのはとても億劫なお年頃、それが今の相沢 祐一の本性だった。

 結局、適当に着替えを済ませ、名雪の部屋でうんうん、と服装に悩んでいる観鈴に先に玄関で待っていることを懇意も無くさらりと告げる。
 足早に俺は2階を後にした。

「が……がお、わたし、スンゴクピンチ」

「……ハハハッ」

 観鈴は長袖の明るい色の襟なしのTシャツに長めプリーツスカートといった姿で俺の前に現れた。
 別に悪くは無いのだが――観鈴にとっては問題らしい。
 羽織る上着が問題だった。 ジャンパーにするか、カーディガンにするか。

「祐一さーん、わたし決められないよ。 どうしよう」

「困ったな」

「あの〜、それで、何だけど祐一さんが決めてくれませんか」

「――なぁ、観鈴、どっかの貴婦人はパンがないならケーキを食べろ、と言っただろう? 上着に迷うなら着なければいいんだ。
 今日、何だか温かいみたいだしな」

 ・・・ちょっとだけ観鈴は考えるような素振りをした。
 だが、納得が言ったらしく、とととっ、と踵を返すなり、階段を昇っていった。
 上着を置いてくるのだろう。 やれやれ――これで外に出られる。





 商店街まで歩いてきた。
 以前飾ってあった恐竜の人形も衣替えらしく、真新しい子供向けのお姫様だかの人形に変わっている。
 それが、どことなく名雪に似ているな、とか思ったのはまぁ、黙しておこうか。

 ただ、観鈴がそのショーウィンドウの前で俺に微笑み返してきたのにはさすがに恥ずかしかった。
 俺も随分とキザな真似をしてしまったな、と少し後悔しておく。


「と、駅に着いたな――」

「にはは、ここが、この町の駅かぁ。 わたしの住んできた町より電車の本数が多いんだぁ」

 と、感心している観鈴に俺は指摘の1つでもしようかと思った。
 この駅は張り合えるほど、本数は無い。
 路線は上りと下り、そう、2本しか電車走っていないんだが――観鈴のところは1本なのだろうか?

「ふむっ――」

 俺は探偵じゃないんだから、こんなことを深読みするのは間違っている。
 そういうのは専門家に任せればいい。

「まっ、好いか、次は学校だな。 大した学校じゃないけど、設備はしっかりしてるし、
 何より、俺はまだ、あそこの内部を知り尽くしていない」

「にはは……、祐一さん、だめだめだね」

「お前に言われたくない」

「がお……ショック。
 えーっと、 あの、とにかく学校の案内よろしくお願いします」

「はぁー」

 折角主導権を引導してやっても使いこなせない観鈴の正確にちょっとだけ俺は好感を抱く。
 今日は”平日”なのだから、先生も何人かいるのではないか?
 と、なると少しは観鈴を学校案内できるかもしれないな――。

「じゃ、学校行くか」

 仕方無しに、いつの間にか立ち直っている俺は観鈴を従えて、学校へと移動することにした。
 
 
 
……おかしいな。

 俺は頭を傾げ、ちょっと考える。
 今日は公の教師にとって”平日”でもおかしくないのだが、何故か職員室には人影どころか、照明すら射していない。

 しんっ――。 それだけでも、ここに教師がいないのは明らかだ。
 ……俺は観鈴の方を振り返った。

「?、どうしたの、祐一さん」

「んっ、ああ、見てのとおりでな――教師がお留守で中に入れなさそうだ」

「えーっと、わたしどう反応していいのかな?
 別にそれは気にしなくていいよ」

「むっ、すまん」

 観鈴は本当に気にも留めていないらしく、平然とそう言った。
 んー、何だか俺が納得いかない。 俺の思惑が居た堪れないのだ。

「だからね、その〜、今度はわたしの家に向って欲しいんだよ」

「俺、お前の家の場所、知らないんだが」

「それくらい案内するって」

 何が可笑しいのか、観鈴は微笑む。
 まだ、家を出て1時間も立っていないだけあって、外は次第に暖かくなってきている最中。
 ここに立っている俺はとてもその気温が肌に心地よかった。

 そんなぬくぬくとした気配の中、俺はふと、自身を反省した。
 やはり、俺はちょっと身勝手な人間らしい。 観点はあくまで観鈴なのだ。
 観鈴が学校に通い、また駅に通う――。
 正直、今の今までそんなことにすら俺は気がつかなかった。

 そんなことを感づかれないよう、顔では平静を装い、そして観鈴を歩くよう促した。



 俺と観鈴が、霧島佳乃、に出合ったのは本当に、校門に差し掛かろうとした矢先だった。

「わわっ、どいて〜〜〜」

 解った、どいてやろう。 俺は身軽に体を逸らすと、カーブして青のショートカットの彼女、佳乃が駆けていった。
 その後ろを――今日は目が点デーか?
 
 俺の横を彼女についで、わたあめが走っていく。

「が……がお」

 走って行くではないか! 観鈴だって思わず沈黙している始末。
 あれは、新手の異星人ではあるまいか……気がつけば勝手に俺は推測していた。

「なぁ、観鈴、あれ、異星人だよな」

「……わたしには犬に見える」

「はんっ、そんなわけない。 あいつは異星人だっ!!」



「ごーーーっる! やったよー、ポテト〜!わたしが一番だよぉ!
 かのりんおりんぴっく金メダルはこのわたしに決定だー!」



「そうか、あいつ、ポテトっていうのか」

「にはは、祐一さん、焦点が掠めてないよ」

 ふぅ、と軽く深呼吸する。 ノリの悪い観鈴のせいであっさり興も冷めた。
 だが、どうやら、学校から去るのは少しだけ遅くなりそうな予感だ。

 それは俺、相沢 祐一がもっとも良く知っていよう。
 なぜなら、既に再度、校舎へ向い、歩き出したから――。
 そう、ポテト目指して。

「わわっ、祐一さん、わたしの家はこっちだよ!」

 ……一応、観鈴のほうを振り返って呆れ息だけは吐いておいてやった。
 思いっきり呆れた眼差しで。
 
 そりゃそうだ。観鈴の家が校庭にあるはずないじゃないか。

「も、もうっ、待ってよ〜〜」

 どうやら、観念したらしい。
観鈴の掛け声と共に、昨晩とはワケが違う落ち着いた歩調でこっちへ走ってくる足音がした。

 
 と、観鈴を置いて、先に俺はポテト――と佳乃の前に到着。

「やぁ、……その、かっこいい異星人だな」

「えっ? 異星人? 何の事?」

 佳乃は振り向く。

「……いや、その」

 俺はひたすらに、視線をわたあめに向けた。
 と、ようやく気がついたらしくああっ、と佳乃は手を叩いた。

「違うよ〜、この子はポテト、学校まで競争する相手だよ」

「――つまり、ライバル、と……フムッ」

 俺は唸る。かのりん、と名乗る彼女によってこの異星人は”ぽてと”である事が解った。
 ――で、どうしたといんだろう。

「えーっと、わたしは霧島 佳乃、最近ここへ越してきたんだよぉ」

「……誰も、聞いてないぞ。 お前の名前なんて」

「わっ、君、ポテトの名前を聞いていてわたしの名前をきかないなんてずるいと思うな」

「にはは、わたしもそう思うよ、祐一さん」

 いつの間にか追いついていた観鈴は俺の横に並ぶとあっさりと彼女――佳乃に加勢した。
 相乗で俺の意見はもみ消されかけている。 非常事態、というべきか。

「くっ、くそっ、観鈴めっ、裏切ったな」

「わっ、観鈴さん、祐一くんの見方だったんだぁ」

 ……俺はいつものように肩を落とすと、佳乃と観鈴を交互みやり、ひらひらと手を振った。

「はい、降参、降参――俺は相沢 祐一。 こいつは神尾 観鈴っていうんだ」

「……」

「……?」

「……うんっ!」

 何故か、佳乃は俺を数秒見つめ続け、その後、何を納得したか2,3頷いた。

「な、なんだ?」

 余りに気になって俺は佳乃に尋ねる。
 だが、気を溜めるが如く、佳乃は何かを口の中で構えていた。 そう、今にも何か言葉を発しそう。
 それでいてかみ殺しているような。――抑圧して堪えて、一気に発する気配。

「――」

 タイミングを完全に逸した観鈴はきょろきょろと俺達を見回す。

「ゆ、」

 ……。

「祐一くん! かのりんのお友達一号さんに決定だよぉ〜〜〜!!!」


何の脈略も無く、俺は霧島 佳乃のお友達1号さん認定されてしまった。






この学校で言うと、4時間目が終わる頃、佳乃と別れた俺と観鈴はようやく動き出した。

「にはは、勢いのある子だったねー」

「お前が言うな」

 と、指摘しておく。 観鈴はそういうなり、いつものようにいつもの口癖でしょげていた。
 ――観鈴の家の方向には、学校から大体徒歩で30分位の位置にあるらしい。
 水瀬家から比べると、少し距離があるな……。

「観鈴、お前の家の辺りまでバスとか走ってないか?」

「うーん、わたしここまで来たの初めてだから解らないんです。 ごめんね」

 携帯には、電車の時刻表は細かく載っているんだが、さすがにしがない町のしがないバス会社じゃあ、
 携帯は頼れない。

 ちょっとめんどくさいが、駅まで戻るのは一番手っ取り早いかな。
 それとも危険を顧みず行き当たりばったり、建て看板を見つけてはそこで乗り込む……。
 座右の銘が人生綱渡りのような人ならそれくらい越したことは無いかもしれない。

 俺はそういう人間じゃない――だろうなぁ。

「あーっ、取り合えず、駅に戻るぞ。 あそこにはバスターミナルがあるから、
 大抵のこの町の循環バスはお任せアレ、だろうし……、でお前の住所はどこなんだ?」

「えーっと、開発区の方。 通ってるかなぁ」

「――通ってるな。 俺が断言してもいい。 だって、この前その類のチラシはいっていたし」

 華音駅までバスで5分。 臨海都市をモチーフにした静かな夕べ、身近でリゾート気分が味わえる、壮大なロケーションはいかが?

 多少、語弊はあるだろうが、まぁ、そんな感じの説明文句とお決まりの価格が織り込みチラシには並んでいた。
 分譲マンションやら、一戸建て住宅やら――。 こんなとこに作ってどうするんだろう、と意味深な疑問を抱かずにはいられない。
 ざっと説明すれば、そんな住宅街なのだ。 あの開発区域は。

「にはは、それじゃ、もう一度、駅にいこうよ、祐一さん!」

「ああ、了解」

 俺達はまた、駅へと向った。







――ほうっ。

 とても人口とは思えない、磯の香りすら香ってきそうな雰囲気がただよう街並みと、人の群れ。
 盛況具合は決して初めてだから、とかレジャーとして、とかそういうわけでは無さそうだ。
  ここを計画した人はそれなりの現代人らしい。堅物ならば、きっと臨海都市どまりだろう。
それだけでは、利潤を吸い上げるのには向いていない。多くの人に見向いてもらおう、というわけか。
広い敷地に建てられたアウトレットモール”KANON”はガラス越しにも大盛況だった。

「にはは、このスカートあそこで買ったんだよ」

「なるほど」
 
 軽く返答しつつ、 ……あいつら帰ってきたら俺は下手すると、荷物もちに成り下がる予感にぞくっと背筋が振るえ、冷や汗が頬を伝った。


〜次は華音臨海住宅街〜、華音臨海住宅街……。



 お決まりの華音町の宣伝文句を聞き終えて、俺はブザーを押した。
 
「えーっと、祐一さん160円です。 小銭ある?」 

 俺は財布を確認する。 その時、観鈴が俺の財布の中を覗きこんできた。
 
「にはは」

 そして、意味ありげな笑みを俺に向けた。 理由は解らなくもないのだが、はっきり言って欲しい。
  かえってムカつくし。――いいじゃないか。 財布の中身が500円以下の小銭ばっかりだって。

「問題なしだ。 さっ、ついた。 降りるぞ」

「ハイ」