「祐一くん、また、出かけるの?」
「悪いな、あゆ。 お前の方も聖刻02のデバック任せたぞ」
「うぐぅ……、それくらい言われなくても解ってるよぉ――」
不満なのかあゆは頬を膨らませ抗議した。
祐一は薄暗くなった商店街へと足を運ぶ。
アルクェイドを探すためだ。 既に、3日こんな地味な作業を続けているが姿はおろか、名前すら聞かないのが現状で、祐一もさすがに焦っていた。
「ふぅ」
夜半、公園のベンチに座る祐一の顔に落胆の色が浮かんでいた。 今日も収穫が無かったのだろう。
もしかしたら、既にアルクェイドは秋子さんの下に行ってしまったかもしれない……そんな不安が祐一にしつこく付きまとう。だから、折角買った缶コーヒーもあまり美味しくなかった。
「はぁ、しっかりしろよ俺」
「うんうんっ、まったくだよね」
「っ!?」
はっと顔を上げると、ひらひらと手を振り、少女・・・折原みさおが立っていた。
![]()
第2話 <祐一君大走査線1>
「何だ? 春ならいらないぞ?」
鬱陶しそうに祐一はそう言った。
「春〜? 何のこと? わたし、あげるよりもらう方が嬉しいなー」
「……、知らないならいいんだ。 夜中にこんなとこ歩いてたら能りょ……、強姦魔にあうぞ?」
「そうなのよー。 わたしだって天野さんが体調壊さなければ見回りなんてしないで良かったのに……」
唇を尖らせつつみさおは文句を吐く。 祐一は眉を寄せそんなみさおをぼうっと眺めていた。
結局、みさおのお喋りは祐一がコーヒーを空にするまで続いた。
「なぁ、お前、名前は?」
みさおが話し終わってすぐの事だ。 祐一がその場を立ち去ろうかと思うと、「どうしてわたしのこーしょーな話をただで拝聴してのこのこと帰れるの?
あ〜、熱く語りすぎて喉が渇いたな〜」と、腕を組んで祐一に催促してきた。
眉を寄せて文句の一つでも言おうとすれば、「怒らないで下さい、わたしはただ……」と、なみだ目で祐一をじっと見つめてくるのだ。
最悪の虫に集られた、と祐一は諦め、 みさおに緑茶を買ってやった。
そして、今に至る。
「わたし? わたしは折原みさお! 好きな言葉は唯我独尊っ!」
「――、お前らしいな」
「やっぱり? 意味は知らないんですけど、天野さんに”あなたは唯我独尊を絵に表したような人物だ”って言われて響きが良かったからわたしの決め言葉したの!」
「天野……?」
「ところで、です。 濃緑男さんは何でこんなところで道草してるんわけ?」
「人探しだよ」
――つけたすなら、すっごくめんどくさい。
「すっごーいっ!!、まだ肌寒い小道を風に打たれながら恋人を探す――なんてロマンチスト!」
「はっ!?」
何を誤解したらそう取れる、と突っ込みたくもなるが、みさおのペースに入り込む隙などなかった。
「きょーりょくしますよ! 濃緑男さんっ!!で、どんな外見なんですか!?
うわ〜、見つかったら濃厚なキスシーンでも見せてくれるのかしら?
キャッチフレーズは運命の再開できまりね!!」
「……、さいですか」
その気迫におされ、祐一はやむなく了承した。
「さっ、デバック完了、あとは祐一くんを使ってテストすれば完成だよ〜」
聖刻02のプログラミングも一段落しデバック作業も無事終了、
すっかり朝方に戻ったあゆはふぁ……、と軽い欠伸をし、パソコンから離ると、鼻歌交じりの流行歌を歌いつつ、ソファーに向かった。 しばらく仮眠でも取るつもりなのだろうかソファーに座り込むと、あゆはごろんっと横になった。
ガタッ
「っ!!」
突然の物音に跳ね起きる、見知った顔がそこにあった。
「わたしだよ。 あゆちゃん」
「・・・な、名雪さん?」
せめてノックぐらいして欲しい、とあゆは思った。
この家に電気はない。 あゆのデスクトップパソコンも蓄電器を使用だ。 だれも来たがらないようなこの家に名雪と名乗るボリュームのある青い髪の少女が入って来たので、あゆはさすがに蝋燭に火を灯してもてなした。
「いらっしゃい、名雪さん。 でも、祐一くんなら不在だよ」
「……へぇ。 そうなんだ。 折角会いに来て上げたのになぁ」
「ごめんね」
申し訳なさそうにあゆがそういうと、名雪は苦笑を浮かべ、少しの沈黙が流れた。
「ねっ、秋子さん、元気?」
「お母さん?うんっ、すっごく元気だよ。 でも、祐一が出て行ったときすっごく落ち込んだんだよ〜」
「うぐぅ、ごめんね。 でも、祐一くんにも祐一くんなりの考えがあるんだよ、だから……」
「ねぇ、あゆちゃん」
名雪の顔を蝋燭の灯りとその影であゆはあまり良く見えなかった。
質問を吹っかけられ、うぐぅ、と返答する。 名雪は独白でもするかのように呟きだした。
「もし、あの時、聖刻の本を読んだのが、あゆちゃんじゃなくて、わたしだったら、祐一のそばにいられたのにな……、
ってわたし思うんだ。 あゆちゃんはそう思うときってある?」
「? 良く解らないよ。 確かにあの時、聖刻の本を読んじゃったけどお陰で四十肩なんだよ、ボク。
はぁ、まったく祐一くんったら年寄りくさいって笑うんだよ。しっつれいしちゃうよね」
あゆは頬を膨らませ怒ったふりをした。
「そうなんだ。 わたし足以外あんまり筋肉痛になったことないから良く解らないけど」
「解らない方が幸せだよ……」
軽く肩を竦ませ、あゆはひょいっと立ち上がった。
「お茶いれるよ、何がいい?」
「イチゴミルクティー、まだ残ってる?」
「ちょっとまってて」
先にガスコンロの火を着け、 いくつか重ねられた箱の中を穿り回しあゆはようやくあと数回分あるイチゴミルクティーのパックを発見した。
「あったよ、名雪さん」
あれっ、と思ったが、あゆは気にせず自分の呑む雲南茶の準備に取り掛かった。
「お待たせ、さっどうぞ」
「うんっ、ありがと……」
名雪はマグカップを手に取ると、軽くイチゴミルクティーを口に含み味を確かめると、満足だったのか、めい一杯幸せを顔で表現したので、あゆもつられて雲南茶を飲むも、別に甘くはない。 「そうだよね」と切なげに呟き、また、自分のマグカップを口に含んだ。
「ごちそうさま、それじゃ、失礼するね、あゆちゃん」
「うんっ、暗いから気をつけてね」
名雪を玄関まで見送ると、ふと、大事な事を思い出した。
べトレイヤーのことだ。
べトレイヤーからの情報はネットを通じてパソコンに届く。 電話も繋がっていない家にどうしてネットが繋がるのか、について、かつて祐一がたずねたが、黙秘らしい。 決して口を開こうとはしなかった。
あゆがパソコンを立ち上げ、メールソフトを立ち上げると、4通の業者メールと1通の匿名メールが届いていた。
宛名、用件はおろか、アドレスすら明記されていない真っ白なメール。
ドラッグすると、文字が反転して見える仕組みのメールなのだが、それには端末的ながらも秋子たちに関しての情報や、追求者の暗躍などが記されていた。
「まったく、どこの物好きなんだろうね〜、何々、遠野秋葉、帰国……だれ、それ」
みさおの論理は破綻気味だ。 自分が正しい、そう信じて疑わないのが、みさおの長所でもあり、短所でもある。
おかげで、祐一の話には耳を傾けず、自分の想像で勝手に捜索を展開。
収穫らしい収穫もなく、 時間だけが無常に過ぎていった。
「はぁ、収穫0、現在2:00分、と〜、まーったく見つからないね」
みさおの肩をがっくりと落とす仕草を見せる。
よっぽどのことがあると大袈裟なポーズをとるクセがあるらしいらしい。
「だなっ、そろそろ解散するか?」
「えーっ、諦めるの?」
「お前、自分の立場少しはわきまえろよ」
みさおは一応学生だ。 巡回中の警察にでも見つかれば即補導は間違いない。
と、なると祐一も巻き添えを喰らいそうだ。
――それだけは勘弁して欲しい。
「ふぅ、だいたい、親御さんも心配するだろ?」
「えーっ、秋子さんはそんなこと・・・」
「今、何て言った?」
秋子という言葉に反応し、祐一はみさおの肩を激しく揺さぶった。
「えっ、秋子さんのこと?」
「ああっ……お前」
「わたしは秋子さんのとこでお世話になっているだけ」
どうして、見回り、という言葉で気づかなかったんだろう、祐一は後悔した。
あの時聴いていればこんな時間までこの
娘とぶらぶら危険な橋を渡ることもなかった――。
アルクェイド・ブリュンスタッドだ。 秋子に世話になっているみさおならもしかしたら……祐一は一抹の期待を胸に抱く。
「なぁ、俺の探している奴……」
「はいっ、ストップ!いっちゃだめっ、ていったでしょ、あくまで匿名性でがんばるんだからっ!」
「くだらないところに熱を入れなくていい。
そいつの名前はアルクェイド・ブリュンスタッドだ。
心当たりあるか?」
祐一が次にみさおを見やると、みさおは目をぱちぱちさせて驚いていた。
「すっ、すっごい偶然、わーっ、もしかして、わたしと濃緑男さんって運命って奴?」
「さあなっ!」
否が応でも期待が高まる。 みさおは知っている! 祐一は確信した。
「どこにいるんだっ!?」
「多分、もうこの辺にはいないわ」
「?」
「あーっ、何ていうか申しあげにくいんだけど、ながーい眠りについちゃったんじゃないかな〜っと」
「そ、そうか」
みさおの話を聴く限り、どうやら秋子とは手を組んでいない。
それだけわかれば安心なのだが、 心残りはある。 せめて、3日間探した、ということを文句を交え言ってやりたい。
そんな思いが胸にあった。
「でもっ、吸血鬼と人間?の種族の壁を超えた愛……きゃー、やっぱり濃緑男さんロマンチックゥ!!」
「あっ、あのなぁ」
「もう、こうなったらやるしかないでしょ、さっ、アルクェイドのマンションまで案内するよっ!
もしかしたら……、ということでねっ!」
願わくば、マンションの住所だけおいて帰ってもらいたい、と祐一は心底思った。
もちろん、そんなことみさおに言っても無駄なことぐらい数時間ともにしてとうに理解している。軽く溜息を吐くと、祐一は前を行くみさおの後を追った。
僧衣を纏った女性は祐一に近づく機会をうかがっていた。
全開は未然に逃走される、という屈辱を味わった彼女はあのシーンを思い出すたび、眉間に皺がよる。
「こんな夜中に女の子と密会ですか、いい度胸じゃないですか」
少し感情をおびた彼女の言い方は聞き方によれば妬みだ。
よっぽど不幸な人生を送ってきたのかもしれない。
――この先は公園。 女の子と、相沢 祐一いいえ、不浄なる、48の王を別離させ、結界を展開する。
今度こそ、仕留めさせてもらいます。
「さっ、この公園を抜ければ……あれっ、濃緑男さん、どうかした?」
「いや、何でも」
何でもなくはない。 祐一はすっごく凶凶しいものを公園から感じていた。
それでも余裕を見せておくのは一種の意地だ。
あえて、祐一は公園に入った。
「――、みさお」
「何、濃緑男さん」
「俺は相沢 祐一だ」
「へっ?」
みさおが振り返ると、そこに祐一の姿はなかった。
「トイレかな?」
祐一の行動の真意など、みさおには解るはずがない。
「お前か」
「ええっ、今度は、潔く、浄化する気になったみたいですね。
相沢 祐一」
「……」
女性の腕に、数本の細身の剣が瞬きの間に出現した。
「投剣か」
祐一も右腕の聖刻を解放した。
「死になさいっ」
「こういうとき、何て言ったらいいんだろう」
「……」
ザワッと公園に茂る木々がどよめくと同時、
祐一は女性目掛け疾駆した。
あとがき
中途半端なところでお仕舞いです。
次回はシエル戦。 ・・・以上。