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第3話
祐一の瞳に再び混沌が蠢く。
能力にしろ、魔法にしろ、祐一の聖刻にしろ、今だ、解明不能な点は多い。
実際、祐一の目は聖刻を発動すると、眼の色が淀んだ草木灰のような色に変色し、
その代償として力を得ている。
身体的負担及び、変化、どうやら云々はさておき、
多岐にわたる力の代償にはそれがつきもののようだ。
「ぜーっ、ぜーっ」
呼吸を乱した祐一は立ち上がる。 そのブルゾンは少し焦げていた。
恐ろしいスピードで飛来する投剣、結界のせいだろうか、祐一の動きにはムラがある。
そのせいで、数本の剣が祐一の体を掠め、一本は突き刺さった。
ぼとっ、と祐一の臓腑を貫いた剣が地面はと落ちる。
悔しそうに歯噛みして、祐一は女性を見やった。
「思ったよりはりがないんですね。 それで、48の王などという二つ名を持っているなんて」
「知るかよ、んなの世間が勝手につけた事だろ?」
懲りない人。と女性は思った。
祐一のブルゾンがじくじくと黒く滲む。 苦い息を吐き捨て、祐一は立ち上がった。
「まだ、 死ぬ訳にはいかないんだよ」
「知りません」
「かわいくねー」
くくっと祐一の頬が緩む。 愛想のない奴だ……、そんな奴もいたか?
人間死が近づくと昔のことを思い出す。
走馬灯、という奴だ。 祐一に死が近づいている、というのは本人も何となく察している。
紙一重の勝負だ。
祐一は取り合えず、アルクェイドにまだ寝るな、みさおに名前覚えてもらったか?という心配をした。
まだ、余裕があるのか、その姿は非常に楽観的だった。
女性が寛容ならそこで許してくれそうだが……世の中そんなに甘くない。
「神は、不浄なるあなたでもきっと救済の手を差し伸べてくれます」
「この、偽善もの」
ふっと女性の目が釣り上がった。 が、祐一は脅威を振り払うかのように邁進し、僧衣の胸元目掛け、フック気味の
ブローを放つ。
「ちっ!」
危険と察知したか、祐一のブローをバックステップ気味で避けた女性の髪が数本ふわりっと宙に浮いた。
ちっと舌打ちすると、祐一は走りをとどめることなく、膝蹴りを繰り出す。
結界がはられ、これを辛うじて剣でなぎ払い
事なきをへた女性はほっと一息つこうと思った。
そこへ祐一のヘッドバットが叩き込まれるまでは。
グシャッ・・・
頬骨にヒビでも入ったかもしれない。 鈍い音が祐一の耳に忍び込んだ。
「らあっっ!」
祐一の肘鉄は怯んだ女性の即頭部を掠めた。
間一髪、女性が体勢を持ち直したためだ。
しぶとい、と祐一は思った。 ペッ、と女性は血塊を吐き捨て、祐一をきつく睨んだ。
「なかなか、やるじゃないですか」
「俺はスロースターターなんでな。
ふぅ……、1つ聴いていいか?」
「お断りします」
一体どこに隠し持っているのだろう。 何本ストックがあるのだろう。
祐一は女性の手に新たに握られた数本の細身の剣に半ばどうでもいいような疑問を増やされた。
女性の視線は先程より明らかに険しい。
余程祐一に一杯食わされたのが悔しいのか、自分の剣にばっかり目をやって視線を合わせようとしない祐一が苛立たしい。
「ぼうっとしていると黒鍵で焼き殺しますよ?」
女性が発するのほぼ同時に黒鍵は展開された。
「はぁっ……」
飛来する黒鍵、その残影に祐一が先程負った傷は疼きだす。
どぷりっとブルゾンから濃い鉄の臭いが広まった。
「まったくっ!濃緑男もとい、相沢祐一はいつまでトイレにいる気っ!?
ねぇ、返事くらいしなさいよっ
なんなら中入るわよ? ノックするわよ?」
自分の十数メートル先で祐一が謎の僧衣の女性と戦っている、
ということは女性によって展開された結界によってだれも気付くことはない。
もちろん、みさおもだ。
みさおは男子トイレの前で近所迷惑など考えず、祐一の名と脅し文句を言い続けた。
この場に祐一がいたらさぞかし腹を立てることだろう。
居れば、の話だが。
「あーっ!もう、相沢祐一が出てこないのが悪いんだからねっ!
でてこないんだったらここら辺
一体を火の海にしてやるんだからっ!!いいっ?十秒だけ待ってあげる。
いーち、にーいさーん……」
「えっ?」
「いっただろうが、俺はスロースターターだってっ!!」
感嘆とも驚愕とも取れる声が女性から漏れた。
驚異的速度で迫ってくる黒鍵を祐一は脱ぎ捨てたブルゾンで叩き落としたのだ。
ハエ叩きを連想させる強引かつ効率的な方法は理に適っている。 ただ、視覚である程度察知する事が出来ないとだめだ。
恐ろしい動体視力。 驚く女性を他所に、祐一は冷静だった。
血に染まったブルゾンを投げ捨て、祐一はゆっくりと歩みだす。
結界の効果が時間の経過とともに薄れてきていた。
「くっ……」
祐一がゆっくりと歩みよる間、一体何本の黒鍵が消費されたか――、お互いそんなこと考えるほど余裕は無い。
「あと、一発ってところか」
次第にこみ上げる疲労感と倦怠感、女性が自分より劣る、とわかった瞬間から祐一の戦いはむしろそっちにあった。
小ざかしい女性、しかし倒せない。 感覚的に戻ってきたかな、と理解した頃には聖刻は濃い色の部分が僅かに残っている程度でしかなく、はっきりいって何時膝を崩すか時間の問題だった。
無言で投げられた、本日最後の黒鍵は祐一の右太ももを超視近距離捕らえた。
ブスリッと肉が抉れ、裂かれた血管からはおびただしい血液が噴出する。
「でも、俺の勝ちだ」
祐一はあえて右腕を握らなかった。 掌で豊満な女性の右胸にパシンッと軽く触れる。
「な、何するんですかっ、この変体っ!! ……あれっ?」
これが、祐一の聖刻の能力、機能停止だ。 全開の時なら女性は死んでいただろう。 へにゃへにゃの祐一では
女性を軽い眠りに誘うくらいの力しか残されていなかった――。
「くっ」
メラメラと燃える炎を背景に祐一は一時の眠りについた。
あちゃ〜、とみさおが反省した頃には公園中の木々に炎が飛び移って大火災となっていた。
「あ〜、どうしよう。 ねぇ、相沢 祐一、いい加減ここから逃げよーよ。
トイレで焼死なんてかっこ悪いの極みよ!」
ばたっ、と何かが倒れる音をみさおは聞いた。
「へっ?」
ここからさして離れていないこの公園の広場で祐一が倒れた音だ。
ちらっとそちらの方を見ると、すでに結界が解かれたらしい。
みさおにも祐一と、もう1人、みさおの知らない僧衣の女性が倒れていた。
「なっ、なんでそこにいるのよ!!」
自分が蒔いた種に関してはちっとも反省していない。
どうせ、消防隊が来て片付けてくれる……、そんな甘い理想がみさおの脳裏に展開した。
「こらっ、相沢 祐一、起きなさいっ!!」
まるで、死んでいるかのように眠っている祐一にみさおの懸命なばせりなど届く訳が無い。
「……ごほっ、ごほっ、マジやばくなってきたよ」
辺りは焼畑状態、もくもくと木を焼いた煙が立ちこめ、目もちかちかして視界も定まらなくなってきた。
「もうっ!――げっ、さいあく〜!!」
みさおは心底嫌そうな声をあげる。
頭にきて祐一の右ももを蹴り飛ばすと、べっとり靴に血がこびりついたのだ。
「あなた達、何やってるの?」
「へっ?」
立ちこめる煙の中、半泣きのみさおの前に現れた赤い瞳には覚えがある。
「ほらっ、相沢 祐一見なさいっ! まだ起きてたわよっ!
アルクェイド・ブリュンスタッドが!!」
あとがき
どうしてみさおは書いていると暴走してくれるんだろう……。
次回、ようやく目を覚ました自分の前に現れたアルクェイド――、
その時、祐一の取った対応は・・・?
第4話に続く…そうです。