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第4話
暗転――、祐一が目を覚ますと、そこは真っ暗な世界だった。
右腕の無い祐一はアンバランス。
ぐらっ、とよろめきながら、立ち上がると、祐一は自分の所在を模索した。
――また、ここか……。
聖刻の使用過多に陥ると、何時もここにたどり着く。
漆黒の空間、ここは望まないものにのみ訪れる死後の世界。
やり残したことがある、 だからここは真っ黒け。
俺はあっちの世界に未練がありすぎだ。 死は、まだ望まない。
取り合えず、ここでは常連なので、顔見知りの管理人にさっさと俺を起してもらわねばな。
城島 司、たしかそれがあいつの現世での名前だ。
一箇所だけ、スポットライトのような月明かりが白のハイネックシャツを着た青年、城島
司を照らしていた。
典雅なつくりの椅子に腰掛ける司は自分に近づいてくる祐一を見てやんわりと微笑む。
「その、笑い方、かまっぽくてきもいぞ」
「そうか?……僕は嫌いじゃない」
司は体を竦めると、起立した。
「まったく、君も懲りないな。 能力なんてそうやすやす燃料切れしないものだが……」
ついて来い、といわんばかりの真剣な眼差しを祐一に振ると、司は歩き出した。
黙って祐一も歩き出す。
この空間には、管理人といわれる人物が存在する。
司はそれにあたり、祐一やこの世界に迷い込んだ人間の精神を叩き起こすという役割を担っていた。
「なぁ、」
帰路へと向かう道、祐一の声に先を歩く司は立ち止まる。
「どうした?」
祐一は頭をかきつつ、司に言った。
「城島、お前、いつからここの管理人やってるんだ?」
「? もう3年くらい前からだが、どうして、そんなことを……」
「さ、3年もここに? おいおい、退屈じゃねえのか?」
「退屈――、そんなことない。 ここは天国さ。
何にも考えなくていいからな」
「はぁ……、死んでもいね〜のに、」
良くこんなとこにいて可笑しくならないな、と言おうと思ったがやめた。
少女がこっちへ歩いてきたからだ。
祐一は訝しげな視線を少女に送るが、司は手招きし、こちらに少女を呼び寄せた。
――、?
祐一はどこかで見たことがある、という印象を少女から憶えるも、その少女はあまりにも幼かったので、質問はやめておいた。
だが、違和感はのこる。
「やぁ、みずか」
「こんにちは、司」
その容姿とは裏腹に、みずか、と名乗る少女は祐一などより遥かに大人びている。
祐一は少し冷や汗を書きつつ、かの少女の悪態との差異を頭の中で比較していた。
「こんにちは」
「んっ? ああっ」
「わたし、みずか。 この空間の管理人さん。
偉いですので、以後、よろしく」
「あ……」
歯に衣着せぬ態度は似ているかもしれない。
祐一は少し訂正を加え、少女と視線を合わせる。
「ねぇ、司、この人、新しい住民?」
「違う、みずか、彼は漂流民だ」
「ちぇー、違うんだ」
小さな唇を尖らせ、みずかは 「がっかりしました」、と言わんばかりの不満を体で示す。
「でもね、ここはなーんにも考えなくていいところなんだよ、機会があったら是非引越してきてね。
あなたみたいな可愛い子ならわたしは大歓迎だよ」
大人びた微笑をうかべ、みずかは駆けて行った。
「……」
「さぁ、行こうか」
「ああっ」
その小さな穴からは光が漏れていた。 現実世界へと放浪者を連れ戻すための穴、
それがこの穴だ。
真っ暗な空間に光、というのはどこか変だ。
この空間の光は人を照らす以外、こういうものしか存在しない。
もっとも、司に言わせれば、決して真っ暗じゃあない。
この空間を受け入れれば、自分の理想郷が見えるとのことだ。
そんなこと、祐一は知る由も無いし、ここに長居することもない。
どうでもいい話だ。
「じゃあ開放するから、後は適当に帰れ」
「ああっ」
「また、来いよ」
「ぜってー来ねえ」
「そう言って何回来た」
くくっ、とお互い苦笑を浮かる。 司が穴に手をかざすと穴は次第に拡大した。
管理人は、迷い込んだ人間の意志に沿って行動するらしい。
祐一はこの空間を望んではいない。
だから、司もそれに応じるのだ。
辺りに光が零れる。
「じゃ、あばよ」
「――、祐一お前は……」
帰り際、司は今までより明らかに真剣な口調で祐一に語りかけた。
「独り言だ、気にしないで行ってくれ」
「?……ああっ」
祐一は不審に思うものの、先を急ぐことにした。
「くっ……」
全身がだるい。 祐一は嫌悪感を覚えつつも目を開けた。
シンプルな灯りが白い天井から差し込んでくる。
「ここは、どこだ?」
自分の住処じゃない。 それは灯りがついているのを見れば解る。
まさか、水瀬家か?思わず祐一は起き上がった。
「――違うな」
「何がよ」
――えっ?
「誰だ?」
「アルクェイド・ブリュンスタッドよ」
「はっ?」
冗談だろ? といいたげな祐一、自分の寝ているベッドの横に腰掛けるようにして、アルクェイドが座っていた。
「……」
言葉もない。 沈黙だ。 幼馴染の女の子が自分を起してくれる――、の逆ばかりしていた祐一に目覚めの衝撃がはしる。
ばっちり目が覚めた。
「本物か?」
「むっ、――何なら試してみる?」
「いや、やめておく。 それより、みさお――、あっ、連れのやかましい子はどこだ?」
「ああっ、帰ったわよ。 学校があるとかで」
「なるほど――それじゃ、俺はこれで……」
祐一がベッドから起き上がろうとした、が何故かアルクェイドに腕をつかまれそれを阻止される。
アルクェイドの表情はどこか険しい。
「な、何か悪いことしたか?」
イントネーションがやたらいい加減な緊張した声で祐一はそう言った。
疲労困憊であまり動きがとれない祐一に向かいあうのは最強の種族と謳われる吸血鬼、アルクェイドだ。
粗相のないようにさっさと撤収しようとしたのだが……。
「祐一、自分の体がどんな状態かわかってるの?」
「へっ?」
「もうっ、余計な気使わなくてもいいのに」
「はっ?」
わけが解らない。 祐一はここが、アルクェイドの家なのであろう、とは理解した。
だが、何故アルクェイドが自分のことを
心配してくれるのだろうか? 夢でも見ているのでは?
と空いた手で頬を抓ってみる。
――夢じゃ、ない。
祐一は少し今とみさおが忌々しく思えた。
「だって、祐一、わたしのことを思って何年も探してくれてたんでしょ?」
――ま、まさか……。
祐一の脳裏にみさおの顔が浮かんだ。
「ええっと、何か誤解してないか?」
「ああっ、もう話は後でいいわ、まだ完全な状態じゃないんだからゆっくりしてて」
――ここはアルクェイドに従おう。
祐一はベッドに横になると聖刻の使用過多の疲れのせいであっさり眠りについた。
―ええっ、ここで臨時のニュースをお知らせします。
3日前起こった殺人事件にまた、新たな被害者が出た模様です。
……被害者はみな、失血症状による即死、
もしくは極度のショック症状による突然死……、これで、被害者は3日
間でのべ10人……。
アルクェイドは民放のテレビを食い入るように眺めていた。
祐一の住処にはテレビやラジオが無く、あゆも使用方法不能のネット環境なため、そういった情報は希薄だ。
だから、町で起こった連続殺人事件など知る由も無かった。
「ロアの残党と、――」
アルクェイドの視線がちらっ、と寝ている祐一に向いた。
「ロアの残党と、そして、能力者ね」
ロア、ことミハイル・ロア・バルダムヨォンはみさおの話を聞く限りではアルクェイドの因縁の敵らしい。
3日前、夜この民放を見たためにアルクェイドはまだ、この町にいたのだ。
しかし、狭い範囲にも関わらず、今だ足取りがつかめないでいた。
ロアの残党、というだけあってアルクェイド
対策は万全なのだろうか? それほどにまで巧妙に雲隠れされ、日々ニュースでこのことが報じられると、
アルクェイドは激しい不快感を覚えた。
「ここね、琥珀」
「はいっ、間違いありません、秋葉さま」
夕方、性格のきつそうな顔立ちの長い黒髪の女性、遠野
秋葉と、それに従うように割烹着を着た女性、
琥珀が人気のない祐一の住処へと続く裏路地に入っていった。
あゆが外出中なのか、数度ドアをノックしても返答は無い。
「こっちから訪ねてさし上げたのに、いい度胸だこと」
どこか腹だたしげに秋葉はそういって踵を返す。
「帰るわよ、琥珀」
「はいっ」
2人が後ろへ数歩踏み出したその時、ドアが開く音がした。
あとがき
必殺予告間違え。 はい、すみません、ちと、伏せん引きました。
次回はアルクェイドと吸血鬼とか退治。 能力者対決もよていしてます。
あっ、祐一は能力者じゃなくて、聖刻の使用者ですのであしからず。