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第5話
「粗茶です……」
あゆは祐一が何時帰ってきても良いように、と思い一日中起きていたのだ。
だが、それも今日の昼までが限界だった。裏路地に射し込む麗らかな春の日差しがあゆを眠りへと導く。
熟睡していたため、秋葉の来訪に気付かなかった。
手前、あゆはばつが悪い。
あゆは内心びくびくしながらも冷静な対応で秋葉と琥珀にティーカップを渡す。
「そんなに気にする事ないわ。 何の連絡も入れなかったこっちにも非があるのだから」
社交なれしているのだろう。 秋葉はあゆの緊張を解すように穏やかに言った。
あゆは顔を紅潮させ、一礼すると、そそくさと秋葉に向かい合うようにソファーに座った。
いざ向かい合うと、あゆにとって遠野 秋葉、という人物はどのように見えたのだろう。
その艶やかな黒髪、、町では知らない人などいない名家、遠野家の当主にまさに相応なきりっとした顔立ち、スレンダーな体形は御割愛だろう。
そんな秋葉にあわせようと目元を張り、静止性になった。
「……、あなたは相沢 祐一の何なのかしら?」
「はいっ、ボクは祐一くんの友達兼、サポーターです」
「? サポーター? 能力者だから?」
一瞬あゆの目の色が変わった。 凡そ理解はしていたが、”やっぱり”と思う。
「すみません、祐一くんの助力が必要、というのであれば、他を当たって下さい。
祐一くんにそう言われてますので」
「――」
「ですから、申し訳ありませんが、お引取り――」
「勘違いしないで下さりません?」
まるで、祐一を嘲うかのような言い方だ。
あゆは黙って秋葉に反論する。
「じゃあ、何でここに来たんですか?」
「あら、言っていいのかしら」
「……っ」
何だろう、 どこまで秋葉は知っているのだろうか、
祐一の”存在理由”を……。
――ま、まさかね、 この人が、知ってるはずが……。
まるで、試されているようで気分が悪い、とあゆは嫌悪を憶える。
ただ、それ以上に秋葉の口から今すぐにでも吐き出されそうな一言の方が数十倍怖かった。
サアッと顔を青ざめ、あゆは項垂れる。
「……、用件だけ、言って言って今日はお引き取りください」
「ええっ、そのつもりよ。 相沢 祐一を3日後の遠野家主催の晩餐会に招待します。
誰を連れてきても構いません
ただ――、琥珀」
「はいっ」
琥珀があゆに差し出したのは電話アドレスの書かれた名刺だった。
宛名には琥珀の名が記されている。 些か疑問に思うも、あゆは丁重に膝元にそれを置いた。
「見送りは結構です……、失礼します」
研ぎ澄まされた完璧な身のこなしで秋葉は席を立ち、その後を琥珀がついて行く。
その姿を亡羊と、あゆは眺め続けた。
例の連続殺人犯の片割れ、 アルクェイドの言うところのロアの残党は今は使われていない廃屋で一人、いや、一匹はかたかたと身を震わせ、しゃがみ込んでいた。
皮膚は爛れ、 ところどころ腐り落ちた肉体からはすかすかの骨が除く……、ただ、口元から見える鋭利な牙だけは人間と違う、ということを如実に証明している。
「アルクェイド……、ぶリゅんすタっド、あるくぇイド・ブリュンすたっど、アルクェいど・ぶりゅんすたっど……」
「やれやれ、かつて死徒、とよばれた君も落ちぶれたものだね」
入り口から1人の、長髪の男が入って来た。
彼がこの男のグル、だというのならアルクェイドの言うところの能力者と見て間違いない。
男は口元を緩めると、哀れむかのようにロアの残党、死徒”遠野
四季”を見やった。
ロアは死んだ。 遠野 秋葉の手によって。 しかし、記憶は残る。
脳を壊滅状態に追い込まれた四季はロアの本物の記憶、”アルクェイド・ブリュンスタッド”の名だけしか口に出すことの出来ない、ただの木偶の坊となり、生きながらえていた。
だが、そんなこと男には関心のないことだ。
彼にとっては四季は自分の使い勝手のいいコマでしかない。
おもいっきりわき腹に彼の能力”雷陣”を溜め込んだ蹴りを食い込ませると、四季はくの字を描き横に飛んだ。
「が……がぁ」
もがき苦しむ四季を無理やり立ち上がらせると男は言った。
「狩の時間だ」
と。
四季はひたひたと地面を這いずりながら廃屋を出て行った。
「思ったより、あの男、早くいかれたな。 そろそろ、どうでしょか、”フリージア”?」
男の背後に絶対零度の雹粒が集約する。 それが人型になり、やがて仮面をつけた青髪の女性、フリージアが姿を現した。
この廃屋にはもったいないほどの神々しさを醸し出すフリージアは言葉を紡ぐ。
「確かに、そうだろう。 そろそろ頃合だ。 彼に搭載したステルスシステム、及び、死臭浄化システムは全てオフに
しておきます。 ……最後ぐらいアルクェイドに殺させてあげましょう」
「そして、あんたがアルクェイドを殺す、というわけか?
くくっ、俺あんたのそういう矮小なところ好きだぜ」
「私語は慎め」
ひゅうっと極寒の風とともにフリージアの姿は消えた。
「そんな楽しい事、仲間はずれにされてたまるかよ」
「祐一、 祐一……」
「んっ、名雪、お前が俺を起せるはずが……」
「祐一、名雪って、友達?」
「――従姉妹だ」
うんっと背伸びすると、祐一は起き上がった。
やはり、起きるとアルクェイドは祐一の眠るベッドに腰掛けている。
ただ、すごく冷めた目で、だが。
「んっ」
祐一はそれを誤魔化すかのように右腕をみる。
思えば先程寝たときより格段に体調がいい。
聖刻の復活がその証拠だ。
「半分以上戻ったな」
「そうね」
「?」
アルクェイドは浮かない顔している。
「ま、精霊の秘薬を飲ませたんだもの、良くなって当然かな?」
「精霊の秘薬それで俺を?」
「そっ、だって祐一が寝たままじゃ、協力してもらえないじゃない?
フェイント気味だけど、
まっ、いいかなっ――て」
屈託無く、唇をカーブさせ、アルクェイドはそう言った。
「協力? 何をだ?」
「うんっ、ちょっと死徒と能力者を始末したいんだけど、いいよね」
祐一は売られた喧嘩はある程度買うが、自分から喧嘩を売る、なんてことはめったにしない。
そんな似非哲学を領有する祐一の顔は険しくなる。
不満なのだろう。 アルクェイドも眉根を寄せて応戦した。
そのままの顔でじいっと見詰め合う事数分、祐一はその間、義、というものを考えていた。
ぶっ倒れた自分をベッドで仮眠させ、さらにはまぁ、望んではいないにしろ精霊の秘薬なる胡散臭いもののお陰で祐一の体はまがいなりにも動けるまでに至ったのだ。
――他人の私事に巻き込まれるのはもっと嫌いだが……、この際、”仕方ない”か?
「協力してやるよ。 ただ、何をすればいいんだ?」
「死徒探し。 人間ってわたしに無い第6感みたいなものがあるのよね。
自分がそう思わなくても、見たり、感じたりできるみたいだし」
「すっごく抽象的だな……、わかった。 やってみる。
多分無理だろうが」
お互い曖昧な返答をしあった後、祐一を先頭に2人は外に出た。
ちなみに、祐一はこの時、初めてここが近所のマンションであることを知った。
あとがき
嘘予告じゃないんです。5話が長引いたので分割しちゃったんです。
6話もよろしければ見ていってくださいませ。
感想とかもらえると嬉しいです。
とっぷ