第6話



「……ねぇ、祐一? あなたはわたしを思っていてくれる
そう、みさおから聞いたけど、思うって何なのかな?」
 
 一応、役目を果たそうと、祐一があたり構わず緊張を張り詰めていた時のことだ、アルクェイドが祐一にそんな質問をしてきた。

「思うっ……ねぇ。 じゃぁ、なんで俺をお前の部屋に休ませたりしたんだ?」

「そうねっ、それが、わからないから困ってるのよね……」

 怪訝な目つきで祐一はアルクェイドを見据える。 みさおの言った意味を鵜呑みにしているどころか、理解すらしていなかったらしい。 祐一もそういうとこを説明するのは苦手だ。 取り合えず、「自分で考えろ」とだけ言っておく。

「解らないわよ、それじゃ」
 
 案の定、不満たらたらなアルクェイドの返答が帰ってきた。 祐一はそれをさらりと受け流す。

「寝てばっかりいるからだ」
 
「ねぇ、祐一?」

「あっ?」

「じゃあ、あなたは――っ」  

 道が開け、大通りの交差点にでた辺りだった。 夜遅い、ということもあり、若者の数が圧倒的に多いこの通りでアルクェイドの表情は急激に険しくなる。
 祐一に言おうとした言葉も静止し祐一をおいて、ザッ、ザッ、と1人アルクェイドは人ごみの中に埋没していった。

「おいっ、待てって」

 慌てて祐一はアルクェイドを追おうとするも、まるで自分を邪魔するかのように人ごみは祐一の進路を阻んだ。

「くそっ!!」

 やがて、アルクェイドの姿は祐一の視界から消える、すると、嘘のように人ごみはおろか、辺りの人の姿も霧消した。

「なっ」
 
 きょろっ、と後ろを向くも、そこには人は居ない。 まるで夢でも見せられていたかのようにぽかんっとする。



「ちっ、」

 目の前に長髪の男が立っていた。 忌々しげに祐一はその男を睨め付けるとそれに呼応するかのように男は下賤な笑いを浮かべる。

「お前が、アルクェイドの言っていた能力者、か?」

「連続殺人犯の片割れは確かに俺だ。 だったらどうするよ」

「アルクェイドに頼まれてるんでな」

 祐一はふっと一度呼吸を整えると、聖刻を解放し、男目掛けて駆け出す。 男も”雷陣”を備えた左腕を振りかぶった。
 感、それが相応しい。 祐一は男の左腕を間一髪かわし、感電を防ぐと、空いたわき腹に膝蹴りを喰らわせる。 その勢いで踝が砕けるほどの強烈な足払いを応酬し、バランスを崩したところ男の後頭部に肘鉄を叩き込むと、男はコンクリートにその顔面を叩きつけられる。
 そして、コンクリートに沈んだ男を仕留めるが如く祐一は右腕を振りかぶった。

 が、

「――っ、ぐあぁ」

 30万ボルトのスタンガン相当の電気ショックが祐一の右腕を支柱に全身に流れる。 その衝撃で祐一は男から距離を置かざる得なくなった。

「くっ!」

「がはぁ……、ちっ、一般人のクセにっ!!! 余興の分際でェっ!」

男は右足を庇うように左足で立ち上がると、悔しそうにうめいた。 鼻は拉げ、口腔を切ったのか大袈裟なくらい血が垂れている。
 
 なんとも無様だ。

「こっこの電気うなぎっ!人間発電機!鬼畜っ! 人でなし……と、知り合いなら盛大に批判してくれるだろうが、
俺はそんな腐った心魂はしていないんだ」

「構わねェ……、前座と男は大ッ嫌いだ、お前みたいのは、特になっ!!」

 走り出したのは同時だ。 ただ、祐一の足は尋常ではなかった。 男が振りかぶるより早く、跳躍し、男の顔面に膝蹴りを展開、拉げた鼻からはもはや鼻血とはいえない墳血、一気に畳み込もうとすると、また”雷陣”によってそれを阻まれ、一進一退、元の位置に退き、男を見据えた。

「おいおい、どうした、もう、止めかよ」
 
 余裕など、あるはずが無いのだ。 それでも男は醜く腫れあがった顔で祐一に下卑な笑いを浮かべる。 多少火傷を負ったものの、傷は無いに等しい祐一とでは、その差は歴然……、

 ふと、祐一はブルゾンを着ていないことに気付く。 お陰で聖刻の状態が丸見えなのだが。 聖刻は大分薄れている。 何だかんだいってムキになっていた、と祐一は反省した。

「っていうか、寒っ、」

 お陰で、この場の寒さに気付く。 そして、さらに祐一を驚かせる事態が空に起こっていた。

「雪?」

「ふふっ、フリージアだ、……アルクェイドを殺して、俺に加勢に来たかっ!!」

「……」

 季節はずれな雪と、男の叫び声にも奇声にも聴こえる声に祐一は眉間の皺がよる。

 雹粒とともに、フリージアは祐一と男の間に現れた。




「行きなさい、相沢 祐一」
 
「はっ?」

 仮面の女性は祐一にアルクェイドの元に行くように促す。 祐一の眉間の皺は更に深くなる。

――おいおい、訳わかんねェぞ?

「早く行かないと、……殺してしまいそう」

「ど、どう言う事だっ! フリージア、お前は――」

 だが、男は祐一などより遥かに困惑ぎみで、すでに錯乱状態、勢いで、フリージアに詰め寄った。

「相沢 祐一、行きなさい。 この男は――」

 「あなたの足かせにもならない屑です」 確かに、祐一の去り際にフリージアはそう言った。 仲間割れか? と祐一はお構いなしで走り出す。

 

 「どういうつもりだっ、フリージアっ!!!」

すでに雪は止んだ。

 激昂する男にフリージアは手を翳す示した指の本数は1本

「ごめんなさい、でも、私あなたはあなたが嫌いなの。 大事なものを傷つけた、あなたが」

 男の顔色は豹変する。 踵をかえし、逃げようと思うも、先程祐一に破壊された踝が激痛を発しついにはその場から歩くことすら出来なくなり、膝から崩れ落ちた。

「ロアも、あなたもいえ、人間も変わらない。 私も、ただ、力が、無かっただけ。 あなたは生きる価値が無い
わたしはそう決めた以上、あなたに生きる資格など――ない」

 その場に理も何も無い。 あるのは一人佇みフリージアの思考のみだ。 なおも這いずりまわろうとする男のその姿は四季と重なり、滑稽、
フリージアもそれに気付いたか、肩を震わせ、笑った。

「無駄よ、ほら、あなたの腕はもう壊死しているじゃない、目だって見えないんじゃない?
可哀想、せめて最後ぐらいは――」

 私が、とフリージアが呟くと、地面に臥して動かなくなった男の肉体を一瞬にして幾千にも微塵に粉砕した。

 フリージアの能力”冷棺”の真骨頂、ともいえる愚なる裁きは男がこの場所に居た事すら忘去してしまいそうなほどの鮮やかなものだった。フリージアが姿を消すと、そこには、僅かな水滴のみを残すのみだった。






 



「アルクェイド?」

 虚無、祐一が見つけたアルクェイドはまさにそんな感じだった。

「祐一、か。 ねぇ、わたし、本当にやることが、なくなっちゃたんだ――、でも、すっごくもやもやする」

「――」

  アルクェイドは知らないのだ。 自分を表現できない。 大方の知識は身につけたはずだが、やはり、全てうまくいくはずが無い。

 何も無い。 まさにそうだ。 アルクェイドはほんの数分前、四季……最後のロアの片割れを自らの手で始末した。 やる事がなくなったのだ。
何をすればいい、自分はどう生きればいい? それは数日前に決着したはずなのに、現れてしまった。

「ばかか?お前」

 祐一はアルクェイドのおでこを軽く弾いた。

「――っ、何するのよ」

「探せばいいだろう、それくらい。 暇吸血鬼なんだから。 ――、なんなら手伝ってやろうか?」

 突然の申し出にアルクェイドは驚く。 人を家に泊めたのは、成り行きだ。 でこをひっぱたかれたのは呆れられたからだ。 なおも手を差し伸べるこの人間はなんなのだろう? 生まれて初めて、アルクェイドは混乱した。

「ふぅ、まっ、俺は家に帰る。 待ち人がいるんでな」

「……、同行していい?」

「はっ?」

「決定ね。 祐一、わたしも同行するわ」

「へっ?」

「だって、初勝利だよ? 祝勝会くらいあげようよ」

 懇願するようなで目のアルクェイドはそういった。

祐一は肩をがくっと落とし、言葉の大切さや、アルクェイドという生命体の意義をつくづく、深く考えた。

空には満月より少し欠けた月が煌々と輝いている。

 そんな月を眺める祐一は、一言、「俺のバカ」と呟くと歩調を速めた。   
    


あとがき

 アルクェイド戦闘シーンはカットしました。 3行もかかんなそうだし。

 そして、アルクェイド仲間になっちまったという話。 初勝利、とはコンビを組んで、てこと
組んでないけど(汗)

 次回は幕間(昼間)
 kanonキャラからも新しく登場させようか、と構想中です。


 感想とかもらえると嬉しいです。





 とっぷ