第10話


「なぁ、川澄さん、どうやって脱出したんだ?」

 一息つくと、志貴は尋ねた。

「――道がないなら、道を作る。 それだけ」

 さも、当然、と言わんばかり、しれっと舞は答えた。

「ねぇ、遠野 志貴、祐一もここから潜れば助けに行けるの?」

「た、多分な。 ただ、祐一がどこにいるか分からないと何とも……」

 ガシッ

「な、何?」

 舞は志貴の肩を強く握る。

 その目は、「祐一に何かあったの?」 と言っている。 何やら威圧めいたものがあり、
詰問に近い、少なくても志貴はそう感じた。

 ごくっと唾をのむ。 志貴は口を開いた。

「あの、な、祐一が川澄さんと同じ状態になっちゃったんだ」

「……どいて」

「えっ」

 ズンッと舞は志貴を振り払い、一歩踏み出す。

「か、川澄さん、ど、どこに行くんだよ」

「……遠野 秋葉を懲らしめる」

「なっ」

「あっ、わたしも手伝おうかな」

「ま、待って、落ち着いてくれ」

 振り返った舞は志貴を睨めつける。 その光景は傍から見れば蛇に睨まれる蛙
――強烈な蛇睨みに志貴の背中冷や汗がを じわっと流れる。

 ヤバイ、という意思が30回くらい志貴の脳裏を突き抜けた、がそれが収まったときには舞の姿はそこに無い。

「あ、アルクェイドさん、」

「えっ? わたしにふっても解んないよ?」

「あああっ、どうしよう」

 志貴はことの重大さにただ、困り果てる。












 「はぁ……、兄さんがあそこまで落胆するなんて思わなかったわ」

 「ホントですよ。 秋葉さま、だから志貴さんに話してからにしようって言ったんです」

 「……志貴さま」

 非行にだけは走らないでほしい、と翡翠は祈っていた。

 秋葉たちもなんだかんだ言って志貴が心底、心配なのだ。 ただ、秋葉は捻くれたところがあるし、
琥珀にしても翡翠にしてもあの場では・・・言える筈がなかった。

 3人は志貴を探すため庭へと歩みを進める。 

 やがて、3人は門の前までやって来た。しかし、門の鍵はロックされたままだ。
あの状況の志貴が、ここを通り抜けて行くだろうか?
 秋葉は顔を顰め、考えた。

――それは、否ね。



「ううっ、わたしというものがありながら……」

 どうしても、気分は沈んでしまう。 だから、琥珀は場を和ませようとした。

「それは、わたしの台詞よっ!」

「……姉さん、冗談を言ってる暇なんてないです」
 
 形相を変え、翡翠は反応した。 秋葉に至っては髪が逆立っている。 

 たしかに、志貴は琥珀に堕ちた。 でも、秋葉も、翡翠もまだ、諦めていない――。

 志貴のことを、忘れたかのように3人は無言で睨みあった。

 



 そんな3人の修羅場をいざ知らず、正装――、黒いロングコート型の僧衣を纏った潤は高みの見物に入り浸っていた。

 だが、少し、様子が違うようだ。 愛用の4の刻まれたナイフには血のりがべったりとこびり付いている。
明らかに戦闘の最中に抜けてきた――そんな感じだ。

「やれやれ」

 ブロンドの髪を滴らせ、潤は下に下りた。



「っ――、あなたは」

「えーっと、修羅場中悪いんだけど、ちょっとこっちも事情があってな」

 潤は秋葉を見たことが無い。 だが、人目でわかった。 偉そうだったから、というのが正答。

「今頃、のこのこと、何様ですか?」

「まっ、色々あってな」

 作り笑顔で愛嬌程度に誤魔化すと、潤は口を開く。

「あんたが、遠野 秋葉、だな? 遠野志貴のところに案内してやろう――っと、川澄先輩も隠れてないで
出てきてください」

 藪がゆれる。 水滴を纏った舞は不満げに潤を睨みつつそこに姿を現した。

どうやら、秋葉と1対1の対決を望んでいたらしいのだが、見ての通りの修羅場、まだ余韻が残っていたため、完全にタイミングをはずしてしまい、出るに出れなかったようだ。

「あーっ、緊急事態発生。 緊急事態発生、ってところかな」

「北川 潤、ふざけている暇はあるのかしら?」

「ない。 それに事実だ」

「……」 

「秋子さんを狙って、追求者の中でもたちの悪い強硬派が街中を徘徊してる。
川澄先輩、どうしてここにいるか、知らないけど、協力してくれないか。 ……できれば秋葉さんにも」

「……北川、祐一も」

「はっ?」

「祐一もここに来てる」

「まじっすか? どうりて……」

「わたしも北川が代行者だったのは初耳」

「ああっ、すんません」

 潤はぽりぽり、と申し訳なさそうに頭を掻く。

 胡乱げに、秋葉はその姿を見据えた。

 秋葉が潤を招待したのは、祐一や、舞とは少し意味合いが異なる。 後先を考えての友好的な和約、それが目的だった。

「そんな、嘘みたいな話に、わたしが手を貸す? バカらしい」

 それが、秋葉の答えらしい。 潤は僅かな落胆を見せる。


「北川、祐一も連れて行く。 祐一はきっと手を貸してくれるから」

「ああっ、でどこにいるんだ?」

「……ここ」

 舞は地面を指し示した。











 
「兄さんっ!!」

「秋葉、琥珀さんに翡翠も――どうかした?」

 志貴は平然を装う。

「どうかしたの? じゃないわ、折角心配してきたのに、これじゃ大損じゃない」

「――心配、してくれるのは嬉しい」

 でも、と言うと、志貴は俯く。 無言、その沈黙があたりに漂う。

「俺は、相沢 祐一を助ける。 お前や琥珀さんや翡翠が止めても、無駄だよ」

「――、ガキッ」

 はっと秋葉は後ろを向く。 そこに、自分の後ろをつけてきた潤の姿は無い。

「なっ」

 くしゃ・・・

「うわっ、――北川 潤?」

 北川は笑う。 そして、志貴の髪をもみくしゃする。

「がき、がき……遠野 志貴――お前のバカっぷりいいぞ。 だがな、相沢にお前の手は必要ないな。
あいつは、お前なんか比にならねぇおおバカやろうなんだから」

 ふいっと潤は顔を横に振る。 そこに立っているのは勿論、アルクェイドだ。

「何で、あんたがいるか、とかは聞かない。 取り合えず、手を貸してくれないか?」

「また? わたしはそういうの興味ない」

「――、なっ」

 ヒュンッ

 黒鍵だ。 アルクェイド目掛けて放たれたその黒鍵を、当の本人は右手であっさり弾き黒鍵はバランスを崩しながら
孤を描き、宙を舞い、地に突き刺さった。

「何? こんな大衆の面前で、わたしと一戦やりたいの? シエル」

 反応したのは志貴だ。目を大きく開き首を旋回させん勢いで宙に向ける。

 シエルが音も無く地面に着地した。 もっともその視線は志貴の知る穏やかなものではなく、殺意を露にした危険なものだった。

「せ、先輩、どういうことだよっ」

「はぁ、……潤、のんびりしてる暇は無いです。 こんな青二才集団放っておいて先に行きますね」

「青二才っ!?」

 ヒステリックに秋葉が吼えた。

「そうです、青二才も、菜っ葉もへたれもありません」

 癪にさわる。 秋葉の髪は黒から、朱へ……。

「あ、秋葉、止めろっ!!」

「いいえっ、止めませんっ!!」

 秋葉の朱なる髪、遠野 秋葉の能力である檻髪がシエルに襲い掛かる。 木を介して展開される檻髪は真っ赤なくもの糸、
怪しく、そして、美しい。 とても青二才の技ではない、少なくても潤はそれを認める。

「動けば、どうなるか――分かっていますよね」

 シエルは、ただ、鼻で笑う。




「ねぇ、北川だっけ? シエル、やけに苛立ってるわね」

「んっ? ああっ、あいつ、祐一に負けていらいああなんだ」

「ふーん、こんな時、祐一が帰ってきたら大変ね」

「へえっ、お前が人間の話をするのなんて以外だな、シエルは人間としてみなければ、の話だけど」

「まぁ、あいつといると、話の話題には困らないわ」

「ほうっ」

 潤はニタニタとちょっとエッチぽい顔で笑う。 さっぱり分からないアルクェイドの顔には疑問符が浮かんでいた。

 そんな呑気な話とは裏腹に、目の前では、女の意地の張り合いが展開されている。 秋葉の檻髪を黒鍵で数本ずつ絡めつつ、
確実に、シエルは秋葉に近づくが、後一歩、というところで檻髪がそれを妨げた。

 そんなこんなで一進一退、急速かつ緩慢だ。

「さてっ」

「どうかした? 北川」

「そろそろ、行くぞ、シエル」

「邪魔、するんですか?」

「上司げんこつ」

 檻髪、それを二丁のナイフでばっさばっさと切り裂き、シエルの元へ近づいた潤の一撃が、シエルの脳天に叩き込まれる。

 見計らうかのように、志貴はシエルのもとに近づいた。

「先輩」

「痛っ……、たくっ、この強姦魔、なんてことしてくれるんですかってっ、あれ?
遠野くんっ!!」

 間抜けなシエルに秋葉は戦意を喪失、髪は集約され、黒に戻った。
 
 一方、シエルは目をぱちぱち、口をぱくぱくさせ、混乱する。 自分の正体が知られたのが、相当まずいらしい。

 はぁ、と潤は溜息をはいた。 呆れて、声もかけられない。 数秒、シエルは落ち着く。

「先輩、何なんだ? その格好――」

「そのっ、僧衣です」

「はあっ、志貴、話なら後でゆっくりしてくれ、ナイトキャップ代わりに使ってもいいぞ?」

「ええっ!?」

「さて、シエル、相沢が帰ってくるまで、こいつらは動かない。 先に行ってよう」

 いまだ、混乱ぎみのシエルに潤はそう催促した。

「あっ、わ、わかりましたよ。 じゃ、遠野くん、また、学校で」

 志貴では到底追いつけそうにない速度で、潤とシエルは駆けていった・・・・・・・。





あとがき

 次回は祐一くん蘇生編。

 なんだか、ほんと、キャラがいっぱい出てきてしまいましたね。
 月姫ヒロイン全員何気に出ました。
 これにカノンヒロインである舞は馴染んでいるのかな? 感想聞きたいところです。
 さて、ホントの予告。
  いよいよ追求者が攻めてきた。 そのとき、主人公たちのとった行動は?

第10話 そして、檻髪と聖刻は衝突す。



 

 
 
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 とっぷ