第11話



 秋葉は髪を梳く。

 黒く、そして長い髪からは雫が滴り、妖艶。 だが、秋葉の顔は浮かない。

「兄さん、」

「……」

「どうして、分かってくれないんですか?」

「分かりたくも、ない。 だって可笑しいじゃないか、何の関係の無い人を陥れるなんてっ!!
・・・そんなの、俺には分からない、やっぱりワカラナイ」




「分からなくて、いいです」

「琥珀っ!?」

「――、秋葉さま、ごめんなさい、やっぱり、わたしも、翡翠ちゃんもこれ以上、
こんな志貴さんの姿見ているのは辛いです」

 くすり、と笑うと、琥珀は何やらルービックキューブのようなものを取り出す。

 クルッ、クルッ、と捻ると、地面がけたたましく振動した。

「なっ、琥珀っ!!これじゃ、相沢 祐一がっ!!」

「……秋葉は祐一や、わたしを誤解しすぎ」

 かっとなる秋葉、その後ろから、舞は極力、穏やかに語りかけた。

「祐一は、バカ、でも、秋葉は狭量。 まだ、祐一のほうがマシ。
それにわたしと佐祐理がやろうとしていることは
そんなおおそれたことじゃない。 それだけは、分かって」

 秋葉の唇から、ツウッと血が流れる。 怒りを堪え、唇をかみ続けた証拠だった。
舞の真摯な瞳に、秋葉はどう答えるか。志貴も、琥珀も、そして、翡翠も2人を凝然と見守る。


「分かったわよっ! でも、相沢 祐一にソレを問うわ、それで、わたしの意にそぐわない様な回答だったら、
 この場で、あなたも、相沢 祐一にも制裁を下します。 わたし、自身が」

「ありがとう」

 舞はコクリッ、と頷く。

 緊張から開放され、尻餅をつく志貴、そこによって来る、琥珀、翡翠。

 秋葉は、あえて、それには参加せず、祐一が現れるのを待った。









 
 
 
「死徒、ですね」

「ああっ、それも、戦闘型のな・・・」

 商店街は死徒で埋め尽くされていた。 咆哮、下手に知能をもった劣悪な、死徒は動物などより遥かに扱いやすい。
そう、判断した追求者たちは頻繁に侵攻手段に彼らを用いるという。

 大量の死徒に対し、こっちは、それのスペシャリスト、といったところだろう。

  シエル、潤はともに黒鍵を、ナイフを構える。

「行くぜっ、」

「ご自由に」

 ダッ、と2人が踏み出したのはほぼ同時。

 潤のナイフは自分に喰らいつこうとする、数体の死徒をずぶずぶと解体する。

 潤は背後を捕られる。だが、そんなの無視だ。2丁のナイフを激しく交差させ、一気に目の前の死徒を伐採。

 全速前進、それで、背後の襲撃を免れると、にぃ……、と頬が緩む。

「何のんびりやってるんですかっ!!」

 シエルは黒鍵を数体の死徒に突き刺す。 そして、発火。

「やれやれ、火葬かよ」

「だーかーらー油売ってる暇なんてないんです、」

「鬼っ子」

 潤はポツリ、と呟き、死徒の群れへと、身を埋没させる。
 




「何よ、死徒? くだらないわ、栞、さっさと蹴散らしなさい」

「えぅ〜、お姉ちゃん、不機嫌ですぅ」

「――ブリッ子やってる暇があるんなら、仕留めなさい、確実にね」

 どうして、極端なんだろう、とウェービーな姉、香里を脇目に、栞は思った。

 短い髪を翻すその手には、透明な炎。

「全焼ですっ!!」

「わたし、って親切なのよ?」

 死徒が炎上する。 跳躍しようが詰め寄ってこようが、辺り構わずぶっ放される1000度を越す炎が織り成すソナタは非道だった。 その中に、潤がいることなど、栞の知ったこっちゃ無い。

 香里は死徒の群れに手をかざし、そして、その手を軽く捻った。

 パアアァァンッ

 鼓膜が裂けそうなほどの破裂音。 栞の炎が破裂した。 

「なっ、新手かっ!?」

 豪炎と、ソレがもたらす突風がちりちりと肌を焦がす。 ようやく、事態の異常さに気づいた潤は思わず飛び退った。

「」



「あれっ?」

「北川くんっ!」

「……よお、香里、一昨日ぶり」

 ヒュンッ

 それを遮るかのような黒鍵。

 見事、炎の渦をかいくぐった黒鍵は栞の火炎放射機に弾かれ、地面に転がる。

 栞の顔は引きつる。

「な・ん・ど・言ったら・分かるんですか?せ・ん・ぱ・い?」

 死徒なんか目じゃない、と潤は思う。 鬼気迫るシエルはやっぱり怖い。

 だが、潤のもとに香里と栞がやってくると、緊張は解れた。

「あらっ、北川、こちらは?」

「ああっ、俺の正妻予定の美坂 香里と愛人予定の美坂 栞です」

 ぽんっと栞は潤の肩を叩く。

「笑顔で冗談言えるって、素敵ですね」

 なんとなく、潤は栞にサムズアップした。



「北川くん、あたしはそういう冗談嫌いって、知ってるわよね?」

「――っああ」

「まっ、このツケは後でたっぷり貰うわよ」

 どこか含みのある喋り方、そして、笑顔。

 北川は香里に関してはまんざら嘘ではないのだが、場を和ませる程度の冗談だったことは否めない。

 

「ここは、あと、100ってところでしょうか」

 はぁ……、と溜息をつくと、シエルは明後日の方角を睨みつけた。
  








 


――なんだか、一本道になった。

 そして、階段を上りきると、分厚い鉄製の扉に差し掛かった。 天井に張り付くようにして錆び付いた扉はどうやってもあこうとしない。

「主人に似て、わからずやってか?」

――だったら、力ずくっ、か。

「はぁ――」

 祐一は本日2度目の聖刻を解放する。 聖刻の力を膂力に転換すると、扉目掛け、右拳を突き出した。





「あっ、祐一、お帰りー」

「んっ、アルクェイドと、……遠野家ズと、何故か、舞」

 ポカッ

「んっ、久しぶりだな、お前に叩かれるの」

「……、そんなことで、郷愁に浸らないで」

「あっ、すまん、すまん――」

 祐一の視線は秋葉に移る。 混沌の蠢く瞳は怒気におびていて、非常に荒々しい。

 秋葉はそんな祐一に余裕と、嘲笑の篭った笑みを浮かべ、「無様ね」と言った。

「はっ、なんとでも言ってくれ。 罠に引っかかったのは俺だしな」

 めんどくさいことが好きな奴なんて、どうかしているのではないだろうか? 祐一と秋葉は多分、同じ考えだ。

”気に食わない”秋葉の捻くれた正確が、祐一の一寸の余裕が……、口には出さない、ただ、目では、お互いいがみ合う。




「1つだけチャンスをあげます」

「まっぴらごめんなんだが・・・」

「遠慮はいらないわ。 あなたは、何をしようとしているんですか?」

「さっき、お前が言っていたことと同じだよ。 それ以上でも、以下でも――ない」

 釈然としない、どこか、曖昧な回答だった。 失望、秋葉の気分はその一言で表せる。


 舞は、覚めた目で、やはり、と思った。

――祐一は、何にも、変わってはいない。

   それにどこか安堵を憶える自分がいる。
 




 だが、実際はそうもいかない。 犬猿の仲とは良く言ったものだ。 志貴はそんな事を考える。

「あの、志貴さん、止めないんですか?」

「うんっ、何か膝が竦んじゃってね」

「……志貴さま、まさか」

「いや、別に体の方は異常ないよ」

 無理して、志貴が立ち上がろうとするので、琥珀と翡翠は肩を貸す。 志貴から極上のスマイルをもらい、
翡翠は頬を朱に染め、琥珀は珍しくむっとした表情を浮かべた。

「――っ!」


 始まってしまった。


 秋葉の髪がまるで、無重力であるかのようにフワッと持ち上がる。

 その色は朱。

 祐一は危険を顧みず、秋葉へと邁進した。

 檻髪は祐一の振り上げた拳を捕捉する。 違和感が祐一を襲った。

「少しくらい、顔に出してもいいのよ?」

「ざけんな」

 祐一は躊躇わず、聖刻を膂力に転換し腕を拘束する檻髪を強引に引きちぎる。 そして、お返しとばかりに放った蹴りが、僅かに秋葉の鼻っ面を掠める。

「くっ」

  脱力感が酷い。 祐一は思わず、膝をつくが、すぐに立ち上がった。
檻髪は、祐一の生命力を奪っている。 厳しい、と祐一は思わず歯噛みした。

「――」

 秋葉から嘲笑が消えた。 険しい目つきで、祐一を睨み、檻髪をさらに逆立てる。

「へへっ、さながら、ハブとマングースってか?」

 ちなみに、ハブが秋葉だそうだ。
 
 そんなに余裕などあるはずがない。 それでも祐一が綽綽としてみせる。

「1つ、やってみっか」

 フゥーーッ
 
 身をかがめ、対象を睨みつける。 獣のような威嚇の声を発し、間合いをとる。

 2足歩行の人間が、何故、4足に? 緊迫した、生死を分け得ない場だというのに、祐一のやっていることは他から見れば、戯言、明らかに馬鹿にしている。

 額に青筋が浮く、容赦する必要は無いと、秋葉は判断した。

 その場に生じた全ての檻髪は祐一目がけ、襲い掛かる。 髪の毛の1本1本が凶器であり、狂喜、無比なる能力。

「無理だ」

 冗談にも、ほどがある。 祐一のほうが言いたかった。 自分は素手なのだ。

 キンッ

「に、兄さん?」

「だめだ」

 眼鏡の未着の志貴はぼそっと呟いた。

 
 バサッと檻髪は地に落ちる。

「だめだ……こんな意味の無いことで、命を粗末にするなんて――っえっ?」

「甘いな」

 志貴の出現で一瞬怯んだ秋葉、その隙を突くかのように、祐一は秋葉に突進した。 4足で……。

 そのままの勢いで繰り出された祐一の手刀は秋葉の頭部に振り下ろされる。
咄嗟の事態に檻髪を発するまもなく、秋葉は頭をそらす。 地面に、秋葉の白いヘアバンドが落ちた。

「ひ、卑怯ものっ!」

「何がだ、たまたま、志貴がお前の赤いのをぶった切っただけだろ」

 秋葉が挙げた手を祐一はあっさり掴む。 そして、軽く捻ると、あっさり秋葉は転倒した。

「はいっ、俺の勝ち……ギャラリーの視線が恐いんでな」

 祐一は踵を返すとアルクェイドと舞の元へ向う・・・・・。







「へっきしっ!!」

「……風邪?」

「ああっ、たく体力落ちてるからな。 油断するとすぐこうだ。と、言うことで、
俺は家に帰って湯たんぽのぬくもりの中眠りにつく」

 風邪であることを得意げに言う祐一に舞は申し訳なさそうな顔をした。

「祐一、まだ、寝れない」

「はっ?」

 この坂道を降りれば、そこは追求者たちが屯する、戦場だ。 その旨を、舞は祐一に2、3軽く伝えた。

 祐一の顔は曇る。 秋子は自分で切り抜けられるだろう。

 問題は、あゆや、名雪といった能力者ではない面子だった。

「ちっ、余計なことしてくれるよっ……」

 誰ともなく、祐一は睨みつける。

「まったく」

 同意するように、舞は頷いた。



「と、言うわけだ。 アルクェイド、悪いが、解散だ。 あっ、湯たんぽはお勧めだぞ。
 電気を使わないであったまれる、人類の知恵の結晶だ」

「祐一、湯たんぽってどういうの?」

 アルクェイドは必要以外の雑学など有しているはずが無い。

「――人類の知恵の結晶だ、んなに見たけりゃ、ついて来い、
涙流して人間の素晴らしさに感服するっ!!」

「ついて行けば見れるの?」

「なんと、使用方法まで教えてやろう」

「じゃ、ついてく」

 祐一はぬかるんだ地面を一気に駆け抜ける。 その後をアルクェイドと舞が追った。 






――なんて、屈辱。

「秋葉、大丈夫かい?」

「……」

 恥辱で言葉も出ない。

「秋葉??」

「殺すわ」

「なっ、どうして、そんな――」

 むくっと秋葉は立ち上がった。 すでに檻髪が逆立っている。

「兄さんたちは、暖炉にでも当たっていてくださいな、決してゆたんぽなんて使ったら承知しませんから……」

「秋葉っ!!」

「遠野家の当主たるわたしがこんな恥辱を味合わされたんです……、
相沢 祐一に、制裁を加えるのは当然でしょうっ!?」 

 秋葉は激昂する。

「――琥珀さん、翡翠」

「っ……邪魔、するんですか?」



「間違ってる。 俺は相沢 祐一も認めはしないけど……」

「……」

 沈黙が、流れる。

 秋葉の結論は……。

 ぐぅだった。

「秋葉さまっ!」

「ごめんなさい、翡翠、……琥珀、そんなに睨まないでよ」

 志貴を卒倒させ、秋葉は走り出す。



「はぁ……、どうして、秋葉さまって不器用なんでしょうね」

「まったくです」

 双子の姉妹の溜息とともに、夜は更けていく――。 
  


あとがき


 祐一最初はB級ホラーな登場だったんですが、まるっとカットしました。

 はっきりいいます。 自己満足です。 すみません(汗)


 はぁ……次回は唯我独尊、みさおさんやら、物腰上品、美汐さんも出てくる予定。
 キャラが増える、=会話が増える=???

 第12話 タッグマッチ 




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