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第13話
死徒の群れにいち早く気付いたのはシエルだけでは無い。
チッと舌打ちする香里もまた、浮かない顔で群れを眺めていた。
違い、といえば、シエルと、香里の死徒の殲滅方法だろうか?
シエルの頭の中には、漠然とした黒鍵によるやり方しかない。
対して、香里は……。
「北川くん、ちょっと、時間をくれるかしら?」
「?」
香里の頼みに、ウンッと答えたいたいのが、潤の男としての性だった。
「何言ってるんです? 時間なんてあるわけないじゃないですか――」
まるで、割り込むようにして介入してくるシエルが、潤の頷きを阻止する。
申し訳なさそうに潤は香里に「だそうで……」と言った。
「――あらっ、埋葬機関の7は、その程度?」
「――っ!?」
「あたしの商売相手の5を冠する彼なら、――これくらい、容易い、って言うんでしょうね?」
皮肉の篭った香里の嘲笑は、シエルをカチンッとさせるには十分だ。
「怒るの? でも、それこそ本末転倒じゃない?
10分、それだけあたしと栞に頂戴、
愚痴なら、夜通しで聞いてあげるわよ? ベッドの上でね――」
「えぅ〜、お姉ちゃんが言うとそれが冗談に聞こえないですぅ」
「右に同じく――さて、シエルどうする?」
「……ここまで言われて、黙っていられるほど、わたしは、落ちぶれてはいません。
――美坂さん? 10分、間に合わなかったら、夜通しで弄んであげます。
覚悟しておいたほうが、いいですよ?」
余裕で腕組する香里はシエルを鼻で笑い、あしらった。
悲しいのは、潤だ。 男の性には、所詮、逆らえない――。
栞に変体さんの称号をもらい、潤は走り出す。
「何なんです? あの女は……わたしを小ばかにするなんて」
シエルの手に握られた黒鍵は迫り来る死徒を葬り去った。
火葬式典、という魔術効果により、黒鍵は対象に刺さり次第、発火する。
えげつない方法ではあるが、いかにも、転生を批判する教会らしいやり方だ。
黒鍵によって黒焦げになった死徒、はなおも、立ち上がる。
「シエル――、言っておくが、こいつらはただの死徒じゃあないんだ。
半端な気持ちでやっていたら、こっちがお陀仏だぜ――」
そういいつつ、潤の2丁のナイフは深く、深く、死徒の眼球、さらにその奥を抉る。
「分かってます、でもっ、10分待てば、解決するんでしょう?
ふふ、ストレスの解消程度には
持って来いです。 失敗したらしったで、あの小生意気な女をひいひい言わせてあげますから」
「……」
「とっ、さすがに100、いえ、もっと増えてますね、ざっと200ですか?
そろそろ、北川の聖典を使っては?」
「冗談いうな。 俺は3日間もこいつらのせいで腰痛くするのは、ごめんだぜ」
ぶっと振り下ろされる死徒の爪、それを潤は薙ぐ。
ぼとりっ、と落ちた左手に「Amen」 と呟くと、瞳を閉じる……周りを囲む死徒は四散した。
「相変わらず、えげつないですねぇ」
「お前に言われたくはない」
そういいながら、潤は更に精神を集中させる。
潤の閉ざされた目蓋には光のようなものが断続的に流れているのが、捉えられた。
目を閉じた際、ナイフが潤の視界の変わりをするのだ。
ダランッと下がった両手、戦意を喪失した、と誤解したのだろうか、シエルと格闘していた死徒たちも、挙って
潤に攻撃の対象を変えていく。
シエルはその隙に、電信柱に跳躍、高みから、香里に睨めつけるような視線を送った。
「あと、6分、北川がやれても、精々30体が限界でしょうね。
それなのに、
なんで、あなたは、ただ、佇んでいるのですか?」
香里、そして栞の現在の行動は、シエルには理解不能だった。
「まだ、だな」
目は閉じてはいるものの、光のようなものが、自分に向ってより一層群がってくる。
ざっと30、歯噛みしながら、
死徒たちが自分に仕掛けてくるのを、潤はただ待っている。
一体の死徒が、潤の首元に手をかける。
土が乗ったような感じの乾燥した皮膚。
温かみのないそれが自分に触れる寸前、 潤は動いた。
あたりに充満したプレッシャーのようなものが、潤が、死徒の腕を薙ぐことによって破裂する。
その衝撃が、潤が動いたことで急襲に至る死徒の群れを押しのけようと強引に割り込む。
そして、もとが、脆い死徒たちは耐え切れず四散。
潤は行き着く暇すらない。 多少、身体的な負担はかかっているにしても、死徒は止まってくれないからだ。
先程、一蹴できたのは精々自分を囲んだ10体程だろうか?
腕や、臓器の垂れ下がった残りの死徒たちも含め、それほど、自分の手の内を晒す前に仕留めておかなければ
ならない。 死徒に、そんなことは不要かもしれないが、万が一、だ。
「ちっ、シエル、高みの見物は無しだろっ!」
「はぁ、あなた1人で十分じゃないですか? ソレくらい倒した程度じゃ、給料泥棒の汚名は払拭できませんよ」
「くそっ・・・」
ぶっ、と濁音の篭った息を吐き、ナイフをひたすらに振るう。
さすがに、潤の動きにムラが出てきた頃、シエルは黒鍵で潤の境界線を超え、香里へと向う死徒達
に黒鍵を止め処なく投擲した。
すでに、80体くらいは沈めたかもしれない。
だが、商店街は今だ死徒で溢れかえっている。
どうして、わたしが、能力者何かと相手をしてあげなくてはならないのだろう……。
みさおは鬱陶しそうに、数人の能力者と対峙した。
隣に立つ、美汐からは、警戒心のようなものが、ひしひしと感じられるのだが、みさおからは、むしろ、
余裕のようなものを感じる。
だるっ、そうに頭を掻くみさお。
それも、みさおにとっては無理のない話だ。
ようやくレンタルできた数年前に放送された学園ドラマ、しかも最終巻を半ばまで観て、ここに美汐に引っ張られてきたのだ。
「ぐすんっ、今頃、こいつ等さえ来なければ、わたし、ブレイク前の氷上シュンのわき役っぷりを堪能できたのにぃ」
みさおの言う、氷上シュンとは、某童顔大人製造事務所や、醜い争いを繰り広げる、芸のない美少女グループ集団
のようなコネの効かない厳しい演劇界から、彗星の如く現れた、最近の若手俳優のことだ。
みさおの観たがっていたビデオは、デビューまもない氷上シュンが、主人公の彼氏をあの手この手で落とそうとする
なんとも恐ろしい役どころである。
ちなみに、最終回劇的な死をとげるシーンがある。
このシーンが後の氷上シュンの出世の要因になったことを、
数日前、お昼のワイドショーで知ったみさおは、ハマりにハマっていよいよ・・・。
「とにかく、わたしはあったまキテルんだから、その身包みぐらいじゃ、償えないわよ」
「み、みさお」
「みさおの名に告ぐ。 あたり一面火の海にするから、適当にちゃちゃーっとできる炎よ、出てきなさいっ!!」
ゴウッ
能力者たちは押し黙った。 彼らは後天性だ。
どうしても、先天的な者達よりは劣る。
祐一のように、聖刻を使用する、という手もあるが、それは彼らには愚策にあたった。
みさおは身包みではすまさない、と言った。
それは嘘ではない。 勿論、殺生については、みさおも弁えてはいるだろう。
どこまでか、と聞かれてここまでです、とみさおなら答えそうだが、その辺はカットだ。
凄まじい、紅蓮のウネリは、能力者たちを焦がす。
「じゃんじゃん、行くわよ。 帰って半徹なんだから、これくらい調度いいんだからっ!!」
逃げることは、恥じか?
1人の能力者は思った。
相手が悪すぎた。それは、詭弁だ。 弁えなかった彼らが悪い。
悔しそうに舌打ちしたが、そんなのみさおの知ったことじゃない……。
「折原さん、これは、さすがにやりすぎでは?」
コンクリの壁をドロドロにとかし、地面の”止まれ”の標識を”上よれ”にした頃、みさおの怒りは収まった。
すでに、そこに先程の能力者の姿はない。
「ふんっ、だ。 ざまーみろっ、よ。 でもさーあのドラマの主人公って……なんだよねぇ」
「――それは言わない約束です。 あの子は自立しました。
こんな、くだらないことに、巻き込みたくないだす」
「できれば、わたしも巻き込んでほしくないなぁ――」
そんなことをみさお愚痴った。
その時だ。
ズガアアアアアアアアアアンッ。
思わず飛び跳ねるみさお、耳を塞ぐ美汐……。
「な、何? 今の……」
「しょ、商店街の方から聞こえましたね、あそこに、ガス屋なんてないと思うんですが」
「はいっ! わたし時々天野さんのその冷静さに尊敬します」
「腰が、据わっている、ってことでしょうか?」
「おば――、ううんっ、多分そだね」
「そうですか」
――危なかったー。あれ言うと、天野さん、ムキになるし、3日間くらい眼差しが冷たいんだよねぇ。
みさおは胸を撫で下ろす。
おそばせながら、と、生暖かい風がみさおと美汐の肌にも届いた。
商店街で何かあったことは確実だろう。
美汐は煙1つ上がらない彼方の空に、訝しいものを覚えつつ、ガス爆発はないか、と思った。
9割強の死徒は香里と栞の手によって再生云々で片付けられないほどに散り果てた。
ガラスというガラス、それらに根こそぎ、落ちているあたりから、香里と栞の技の広範囲さが、手に取るように
わかる。
シエルは懐中時計で、時間を量る。
勿論、雑居ビルの屋上からだ。 電信柱の上では巻き込まれてしまう。
「発動時間、2分。 それを差し引いて、ジャスト10分、誤差については、許可します……これも、能力者の力、
ですか? 敵には、回したくないですね」
「まったくですな」
「あらっ、北川くん、生きてたんですか
失礼な、と潤はむっとする。 防弾性が自慢のフロントタイプの僧衣は、千切れ、いまでは、その名残程度しか
残っていない。
黒の一張羅、と言う姿の潤は、はにかみを浮かべた。
「阻止、できたみたいだな」
「ええっ。 でも、――っ!」
どう、生き残ったのか解らない。
シエルが反応するより早く、伏兵の如く現れた死徒は、階下の栞、香里に襲い掛かる。
シエルは首を捻る。 後ろにいたはずの潤はすでにそこにはいない。
潤は商店街を駆けていた。
――でも、あれじゃ、……間に合わない。
俄かにただよう、悲壮感……。
「2人とも、避けろっ!!」
潤は吼えた。
香里、栞はそこで、ようやく、死徒に気付く――。
時既に遅し。
死徒は、まず、栞に喰らいつこうと、跳んだ。
「――っ」
「くうっ」
能力過多だった。 思うように、香里は動けない。
「栞ーっ!!!」
束の間の安堵は、一気に地獄へと転変する。
潤は、咄嗟にナイフの片割れを死徒の頭部へ投げ飛ばす。
栞に覆いかぶさるように乗っかった死徒の背中に、それはぐさっとささった。
だが、死徒に、痛覚など存在しない。 無意味だ。
「いやぁーーーーっ!!」
「……いつまで、乗ってるんだ? 死人」
栞の悲鳴が聞こえてきてもいい。 それなのに、聞こえてきたのは、どこか、間の抜けた男の声だ。
はっと、香里は、自分の足元を見やる、そこには今、死徒に食い殺されようとしているはずの栞がいた。
「じゃあ、あの中にいるのは……?」
「そのなっ、俺は、男に責められるのは、好きじゃないんだが、退いてもらっていいか?」
ビクンッと痙攣を起こした後、完全に動きを停止した死徒。
その下から出てきたのは祐一だった。
あとがき
やっぱりタッグマッチじゃなかった・・・。
香里はいろんな意味で最強かもしれないですね。
栞に関しては放火魔。
その上をいくのはみさおなんですが。
シュン、名前だけ登場。 出番は微妙ですが……。
第13話。
名雪は出番微妙、あゆヒロイン気味、アルクェイドの行動は邪だと思う。
みたいな内容でお送りします。