第13話


 まったくもって不愉快だ。 と、死徒、バランは思う。

 追求者は実力が物を言う社会だ。 死徒でも強く、賢ければ、脅威。

バランは、死徒でありながら、それこそ、27祖に及ばずとも、欠番の埋め合わせをするのにはもってこい、の強さを有していた。

 真っ白な短髪のやせ細ったバラン、人間以上の貪欲さをかねそろえた中年男の風体。

「まだ、まだ見つからないのか、水瀬 秋子は」

 バランの苛立ちの原因はそれだ。

 ワザワザ、追求者として、名の通った自分が、こんなちんけな町で、小さな能力者集団の長を処刑するのに、時間を
かけている。

 その上、組んだメンツも最悪……。

「――、イライラする必要ないだろう? それとも、いい加減、僕の力を借りたいかい?」

「……」

 なんて、生意気な……。 銀髪の眼鏡を掛けた青年、の名は影月。 自分より遥か上位に見られる生意気なガキだ。

 と、いっても年齢的には祐一と同じくらいであろうか?

 
「君の死徒は全滅したそうだ。 そろそろ、君がいったらどうだい?」

「小癪。 ワッパの分際で俺に口答えするか?」

「ええっ、死徒の分際で図々しい。 それとなく女々しい。 まるで雌狗だ。 教会の糞びっちと何が違う?」

「―――――」

 その怒りを、覚ますが如く、そこに、雪が降り注ぐ。

「おやっ、氷棺の姫のお出ましだ」

「けっ」
 
 

 雹粒から姿を現したフリージア。

 一滴として滲み出ない、それほどまで気配を殺した仮面の下は、多分、思わしくはない。

「――何故、お前たちはこんなところにいる?」

「はっ?」

 バランは惚けたような顔をする。

 バランにしてみれば当然なのだ。 どうして、自分が愚なる能力者たちと戦わなければならないのか・・・。

 まったくばかげたことを言ってくる。 物分りの悪い女だ、と、バランは思う。


「くくっ、愚問ですよ、姫」

「愚なのはあなただ、バラン。 フフッ、解らないか? 所詮死徒などその程度、ということですか?
 
 死んでこい、と言っているんですよ。 死刑宣告だ。 ロアも、あの糞も、過信が災い死んだ……
 君も、失態は今回だけではない――そうだろ?」

「なっ……」

「驚く必要はない。 理想、それが叶えられないのは力無き物が跋扈するからだ。――私とて、”死”
 を望んではいない。 お前のその牙を、爪を……水瀬 秋子に向けろ」

「―――」

 それは、宣告だった。 死徒であるにもかかわらず、背筋が恐怖に震える。

 先ほどまでの強気は、バランにはすでに微塵もない。 あまりにも圧倒的な差が、そこには存在した。

「 水瀬 秋子には、我が直々に手を下す」

 くるっと踵を返し、彼は1人、その場から去った。

 何もない、その場は崩れる・・・・・・・。





「姫、僕も出撃させてくれないか?」

「・・・?」

「是非、殺しておきたい相手がおりまして」

「それは、お前の自由だ」

「ふふっ、了解、感謝する」

 影月は不気味な笑いを終始浮かべ続けた。














「相沢くんっ!」

 香里に背を向け、祐一は立ち上がった。

「悪いな。 感動の再会、とでも行きたいところだが、まだ、終わっちゃいねーんだよ」

「そうですね、まだ、終わってはいません」

「……、今はあんたの相手してる暇はないんでな。 アルクェイドや、舞も先に行ってるし……
 すまないが――」

 ひしひしと感じるシエルの殺気。

 先日の祐一のおさわりが尾を引いてることは確実。 この場で露見された日には日の目に当たるのが厳しくなりそうだ。

「まっ、今回は見逃してあげます。 装備が完璧なら相沢を殺せますが、黒鍵では心もとないのは
 立証済み。 まぁ、さっさと失せてください」

「あいよ」

 祐一は、足を一歩踏み出す。

「待て、相沢」

「何だ? 北川」

「礼くらい、受け取ってけ」

「そうよ」

「こんな男に礼なんていらない気もしますが?」

 潤にしても、香里にしても、不甲斐なく、後一歩で栞を死へと追い込むところだったのだ。

 香里にしてみれば、ここで祐一は栞の命の恩人。
 
 潤にしてみれば、まぁ、自分の失態を未然に防いだ、とかなんとか。

 当の本人、栞は祐一の一撃の強烈さに脳震盪を起こし、気絶中だが。

「ありがとう、相沢くん」

 香里は頭を垂らす。

「はぁ――んな、些細なことで畏まられてもこまる」

 本当に困っているのか、照れているのか、祐一は眉間を寄せ、頭をかく。

 そして、視線を栞にチラッと向けた。

「なぁ、香里?」

「何?」

「栞より、胸の薄い奴をついに俺を見つけた。 だから、後で、まな板の汚名は返上する、と伝えといてやってくれ
 ――それと、金返せ、と」

「つ、伝えとくは」

 心底、呆れた表情で、香里はそう言った。


 言うことは、全て言ったといわんばかり、満足気に祐一は走り出す。


 

 
 

 ずしゃあああっ

 あゆは盛大にこけた。

 町の通りをひた走りしすぎたせいだろうか? あまりの盛大さに、先を行く名雪も思わず呆気にとられたようだ。

 名雪は、僅かな間を置いて、あゆに近づいてきた。


「あ、あゆちゃん、大丈夫!?」

「う、うぐぅ……、だ、大丈夫だよ。 ちょっと足痛いけど」

「わっ、大変だよ。 あゆちゃん、怪我、みせて」

 無理強いするあゆ。 ズボンをはいてはいるものの、めくってみると思った以上にそこは赤い。

「ちょっと沁みるかも。 我慢だよ」

 すっと、あゆの傷口に名雪は手当てる。


 ぼうっ


 暖かい光があゆの傷口を被った。

 ちくっちくっと、消毒液を塗られるような感覚にもあゆは慣れている。

 でも、沁みる痛さは、いつも変わらない。 不変。

 名雪も、秋子の子だ。 能力者であっても可笑しくはない。 その光は、”治癒”の能力、と言ったところだろう。

 


 光も霧消し、あゆの傷は嘘のようにひいた。

「――ッ」

 だが、自分たちに迫り来る足音は一向にひかない。

 追求者の標的は、見境がないのか、無関係、とは言い切れないものの、か弱い少女達にまで、その猛威は振るわれる。

「あゆちゃん――走るろっ、もうじき追いつかれちゃうよ」

「うんっ」

 名雪はあゆの手をとる。

「見つけたぞ、水瀬 秋子っ!!」

「えっ!?」

 ずんっ

 どこからか響くその声、途端、名雪の体は重くなる。

 思わず、名雪は膝をついた。

「な、何っ!?」

 ばさっ、とバランのマント宙に舞う。

 そして、その顔とは裏腹な華麗な着地を見せた。 だが、目は赤。 それも充血している。

「な、名雪さん、死徒だよ、どうしよう」

「……祐一」

「えっ?」

「祐一が、来てくれるよ。 だって、だって祐一は……」




「……、祐一じゃなくて、ごめん」

「っ!?」

 あゆは大きく目を開いた。

「説明はあと、早く、逃げて」

「えっ、舞さん……、怒ってないの?」

「――あゆのこと、嫌いじゃないから」

 そう言って、一閃、舞はバランを薙ぐ。


「ちっ――」

「はやくっ!」

「う、うぐっ!!」

 舞の怒声にビシッとあゆは立ち上がる。

「祐一が、きてくれると思ったんだけどなぁ」

 少し失望した、そんな感じの響き、名雪はのろのろと立ち上がると先を行くあゆの後に続いた。







 バランは腹を抱えて笑い出す。

 数度、舞の斬撃を交わしたが、どうやら、バランには遅い、と思えたようだ。

 それが、可笑しくてたまらない。 自分以下の人間にむざむざ牽制される、それはバランには屈辱ではない。

 自己満足というなの愉悦だ。

 バランはその差を楽しむのだ。 ねっとりと。


「くっ!」

 舞の剣は宙を薙ぐ。

体制の僅かなズレをつき、バランはその脚力で舞の首を掴むと、壁に叩きつけた。

 けほっと噴出す血交じりの唾液。

「ククッ」

 バランは舞の細っとした腹部を強く叩きつける。 そして、即頭部を手の甲で殴りつけた。

 吹き飛ばされる舞、だが、剣を地面に触れさせ、その軌道を僅かにずらす。

 迫り来るバラン。

 舞はギリギリまでその威圧に耐える。

「まだ、殺しはせんさ……」

 バランの脳内予想としては、ここで一気に舞の上着を剥ぎ取り、なおかつ、そのたわわな胸を露見、羞恥させる
予定だった。 が、それは破綻する。

 舞はタンッと一度足踏みすると、その姿を消失させた。

 はっと、後ろを振り向くバラン。 だが、舞のためらい無く振り下ろされた剣はざっくりと、頚動脈を引き裂き、
そのまま間髪いれず、心臓に空洞をあける、突きを繰り出した。    

「ちいっ、」

 その激痛に思わずバランは飛びのく。

 どうやら、何かしらの概念武装がされているらしい。

 血噴が凄まじいバランのその治癒値は著しく劣化していた。

「思ったより、楽しめそうだ」

 牙を覗かせ、満足げにバランは笑う。

「――っ!」

「血が無くなってきた。 もはや、理性が飛ぶ。 残念だっ!!」

 ドンッ、と舞の腹腔を深く、気迫が襲う。

 ブシュウッと舞の右腕が僅かに爆ぜる。

「――、かなり、嫌い」

「 醜いじゃないか、そして遅い、それで、よくも、心臓を抉ってくれたな!!」

 バランの攻撃は舞の目では到底追う事はできなかった。

 落胆と、殺意を兼ね備えたその声だが、それでも、舞は無視を決め込む。

 
 力量、というのなら、バランは明らかに舞より上だろうか?

 舞の表情に一遍の欠落すらない冷徹さが宿っているのだ、推して知るべし・・・。

「早ければいいって物じゃない」

 どうせ、狙うのは自分の首だろう。 それは、自明だ。

 次第に、バランの気配にもムラが出てくる。 我が正に消失しようとしているのだろう。

 そして、首元に喰らいつく。

 バランは気づいてなどいないのだ、全てが舞の策略どうりに運んでいたことを、

 自分がお膳立てされただけだったことを・・・。


 


あとがき

バランはオリジナル。 元ネタがお弁当のあれだったのは秘密。
 あると便利? 謎グッズその1
 名雪と秋子を間違えたのはたんにバランが阿呆なだけです。

 さて、舞戦を次でちゃちゃーと片付けて、さっさと影月戦予定。

 祐一くん闘います。 オチツキです。


ではっ。



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 とっぷ