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第14話
バランは欠落した冷静さの中で、自身の勝利を確信していた。
それと信じて疑わなかった。
生意気な娘め、と思った。
自分の僕として飼ってやろう、と我策した・・・。
その瞬間までは。
首元に舞は剣を構えた。
ガキッと危うく刃が折れ欠けそうな音が耳元に届く。
もはや、血を吸うこと、舞を僕にする、その2つしか脳に存在しない
バランの目は戸惑う。
「?」
疑問符しか浮かばなかったが、眼前の舞は勝ち誇った笑みだ。
「……まい」
どうっと舞から溢れる別の気配。 それは、自分と似ている、とバランは思った。
ぐいぐいっと、刃先は次第、次第、舞の首元に忍び寄る。
頚動脈から溢れた血をなめずるのはさぞかし気持ち良いだろう、などすでに想定の幅は大方凝り固まったバランは
押すのみしかなかった。
「黙せ・・・。 黒の裁き――発動」
舞は、バランに辛うじて届く程度の声量でそう呟いた。
小さな少女だった。 とことこと、舞の影から現れた少女、まいはすぐに気化する。
そして、舞の命令に従うが如く、黒い霧となってバランの影を支配する。
「はっ!!」
掛け声を発し、
舞は剣を放すとその場から飛び去った。
ドウンッ
影が消失した。
バランは舞の能力の一端である”まい”により、影を食われた。
影を失い、存在の定義に反したバランは消失。
満腹になり、満面の笑顔を浮かべたまいは舞の元へ駆け寄った。
カタンッ。
剣を拾い上げる。
すうっと舞の中にまいが戻るのを見計い、舞は立ち上がった。
「ねー、……今の何?」
音もなく、舞の後ろにアルクェイドは佇む。
どうやら傍観を決め込んでいたらしい。
「――わたしは、あなた達寄りの人間だから……」
「魔法?」
2,3、舞は首を横に振る。
「違う。 これは、わたしの能力。 ”侵食”その一端」
「ふーん」
舞はアルクェイドをどこまで信頼していいものか、判断がつかない。
祐一が世話を焼いているのであろうことは、まぁ、見ていれば舞も頷ける。
「ねぇ、」
腕組したアルクェイドは不適な笑みを浮かべている。
まるで全てを見据えているいるかのような笑みだった。
「いつまで、そんな顔してるの? 」
「――っ」
「ぶーっ、やっぱり、わたしのこと疑ってるわね。
まっいいけど。
――そんな心配しているくらいなら、あゆを助けに行くべきじゃない?」
「・・・」
「どうなの? わたしは勝手にやるからいいわ。
湯たんぽさえもらえれば何でもやったげる」
「――」
どうやら、一まずは信じていいらしい。 非常に邪だが、足は欲しい。
付け足すなら足かせは欲しくない。
「……邪魔しないで」
「当然よ」
タンッとアルクェイドは跳ぶ。
「困る」
舞は拭いきれない感情を抱えたままあゆを追った。
「待ちなさいっ!相沢 祐一」
「――げっ」
厄だ。 と祐一は思った。
自分の後ろで殺気をプンプンと漂わせ、詰め寄る秋葉、祐一があゆ捜索に手こずっている家に追いつかれたらしい。
祐一はとことん嫌な顔をするのに対し、秋葉は髪を紅く染め上げ、今にも手をかけそうな危うさがある。
「あらっ、逃げ腰ね、ここで、死んでもらうのだから、構いをしないけど、それじゃ、張り合いが無いわ」
「はぁ、冗談では無さそうだな。 秋葉クン?」
「あまりふざけると、瞬殺します。 どうします?
相沢サン?」
・・・何気、乗りいいよ、こいつ。
祐一はダランっと右腕を垂らす。
聖刻、解放だ。 少し顔が赤いのは熱の所為だろう。
アベレージをいくらバランスよく割り振っても3発、それ以上撃てば
卒倒は確実――。
「あんまり、買いたい喧嘩じゃあないな」
「戯言は、買ってから言うのね」
「さっき勝ちました」
「あんなもの、認めるわけ無いでしょう!!!」
秋葉の背景に轟々と炎が見えた。
「・・・マジっすか?」
「あらっ、わたしがいつ、負けを認めたのかしら?」
ふうっ、と何か余分なものまで吐いてしまいそうな息をはく。
重い。 全身が凄まじく、重い。
想像以上に余計なことをしている暇はないようだ。
極限まで絞った右手を構えると、秋葉も祐一に挑発の手招きをする。
・・・紅いのトラウマになりそうだ。
意を決し祐一は疾駆する。 それは秋葉を飲み込むほどだ。
手負いの獅子は、とか言う言葉もあるが、
それは双方に当てはまる。 身体的不調の祐一。
恥辱を受けた秋葉・・・。
「はぁっ――」
「嘗めてもらっては困るわ」
檻髪と聖刻は衝突する。
”略奪”の能力のある檻髪を素手でどうにかしようとするのは多分祐一が最初で最後だろう。
ぶんっと薙ぎ払うような拳は檻髪の能力を殺ぐ。
空いた隙間に祐一は宙で身を屈し、蹴りを無理やり叩き込む。
秋葉は眼前に突如現れた蹴りに驚きつつも冷静に流し、巻き上げようとする祐一の足を掴む。
細腕からは想像できない握力で祐一は手近な電信柱に放り捨てられた。
押しつぶされそうな勢いがあった。 辛うじて上腕を犠牲に電信柱への正面衝突を避ける。
膝をついて安全着地すると、祐一は立ち上がった。
ぎりっと歯が軋む。 上腕が尋常じゃない痛みを発しているらしい。
「無様ね、最初っから歴然としたものがあった。
それを覆すことなどできわしないわ」
「――反吐が出る」
「同感ね、虫唾が走るの」
「言っておくが、負けるケンカなんてする気はないからな」
「そんな下衆な例えしかできない相手、こちらから願い下げです」
「ああいえばこういう……」
「めざわりよ、死になさい」
お互い火花が飛び散るほどに睨みつけあう。
だんっと秋葉は駆ける。
「来るがいいさ……っ!!」
秋葉の髪は残像が見えるほどの速さで祐一を通過する。
ドクンッ、と。
「どうかしら、これで、お分かりになりましたか?
害虫であるあなたには
わたしを凌ぐことなど出来ないのです」
がくんっ、どくんっ、どんっと祐一の体は震える。
膝が崩れ祐一は倒れこんだ。
「はぁーっ、はーっ」
ごぽっと溢れる血塊が、 祐一の臓器損害を物語る。
明らかな死は秒読みだろう。
それにも関わらず、祐一血染めの右腕でブルゾンに吐血を塗りたくっていた。
「思った以上に粘りますね。 でも、めざわりです」
秋葉の腕が祐一の肩に圧し掛かる。
「がぁ――っ」
朦朧とした意識を覚ますのにはあまりにも酷だ。
鎖骨が砕けた祐一はそれを歯噛みして耐える。
そして、また、ブルゾンに血を塗りたくった。
「――――っ」
そして、秋葉は違和感に気付いた。檻髪が次第に黒く染まっていく・・・。
「っ!!」
「血の差だ。 俺の聖刻使用者としての、血が、秋葉クンに勝っていたようだな」
「そんな理屈、通じるはずがありません!!」
「真っ黒になった――」
祐一は今さっきまで自分の侵入していた秋葉の髪を握る。
「こいつをみても、証明できるだろう?」
よろっと祐一は立ち上がる。
「このブルゾンに血〜塗ったくった。 もう、あんたの攻撃は俺には通じない。
俺の、勝ちだ」
祐一の歩みに、秋葉は焦りを感じていた。
理不尽すぎはしないか? それでも、自分の檻髪は破れた。
精神的な余裕は削がれた。
「嘘です、嘘に決まっている……っ!!」
「はぁ……頑固者め」
どんっ、と祐一の肉体は宙に舞った。
「なっ!?」
秋葉は愕然と前を見つめる・・・。
「見つけたぞ、相沢くん」
秋葉とは違う、炯眼を有した眼鏡、銀色の髪、ほっそりとした体躯。
佇む影月は嬉しそうに、笑った。
あとがき
予定は狂いまくってます。
苦戦する祐一に秋葉が助太刀〜みたいなこと考えてたんですがね。
だめでした。
と、いうことで影月戦は次回に持ち越しです。
ではっ。
感想とかもらえると嬉しいです。
とっぷ