第15話

    

「何者……なの?」

 秋葉は怪訝そうな顔をし、影月に訪ねる。



「君に、危害を加える気は毛頭ない。 大人しくしていてくれれば、コトは済む」

 そういって、影月は祐一へと歩み寄った。

 かっ、と血交じりの唾を吐き出し、祐一は立ち上がる。

 影月を見つける祐一、祐一を見つめる影月。

 殺気に満ちた視線が交わる・・・。





「――お前、能力者だったのか?」

「ふっ……、そんなこと、どうだって良いだろう? 今宵は、君と戦うためだけに僕も動いた訳だ
 さぁ、殺しあおうじゃないか、満身創痍だからといって僕は手を抜く気はない
 ククク……君の屈辱的、死、それを僕は望んでいるからね」

「黙れ」

 びくんっ

「がぁ……」

 痺れる、それだ。

 祐一の全身に電撃のような痛みが走った。

 それは、聖刻の使用過多、さらにそれを酷使した代償の痛み。

 または、神経が千切れる痛み。


「だあああああっ」

 祐一は痛みを振り払うかのように右拳を影月に叩き込んだ。

 
 バシュウ……。


「――アーーーハッハッ、ばっかじゃないのか? 君、そんな拳、殴られたところで、まともに人を
 殺せやしないぞ、精々、か弱い娘に愛撫をするようなものだ」

「はぁ――黙れよ」

「フンッ、まさか、これほどまで弱体化するとはなぁ? 感謝するぞ、遠野 秋葉。 君のような人材は
 扱いやすくて、非常に助かるっ」










 ドクンッ、と、秋葉の頭を衝撃が走った。

――どういうこと?

「おやおや、遠野クン、君は本当に騙されてくれていたのか。 相沢くんがそんな尾恐れたこと、できるはず
 ないじゃないか? 君も違和感は抱かなかったのかい?
 それとも、恥辱で押しつぶされて、まともに考えることすら……
 
 あーーーっはっはっ、だったら傑作だぁ。 プライドだけなら、にこごりにもできる。
 そうだ、お前はにこごりだ。すくって食われるだけのなっ!!」


 ぎりっ・・・

「減らず口」

「――おやっ、相沢くん、決して、君を忘れていた訳ではないんだよ?」

 トンッ、と自分に対する怒りを露にする祐一に、影月は肩を叩く。

「だから、お前はだイッ嫌いなんだよ――」






「ああっ。僕も君が嫌いだ」

 そういうと、一蹴、影月の真空を薙ぐが如き回し蹴りは祐一の顎を抉った。


 グルンッと祐一は洗濯機で回されるようなきりもみをし、深く、地面へと堕ちる。


「無様だよ……、でも、死んではいない。 このくらいで死ぬのは精々老人と、女と、子供ぐらいだ」

 
「――ご、ご名答」

 ぐらっ、と祐一は立ち上がった。

 額を強打したのか、眉間が割れ、血が滴る。






「……」

 ふっ、と祐一は首を傾ける。





「何だ、まだいたのか」

「えっ――?」

 訳がわからない質問だ。 秋葉が逃げるとでも思っていたのだろうか?

 むしろ、先ほどから苛立って僅かに髪が朱に染め上がっている秋葉は戸惑う。





「……いっておくが、アイツのいってることは嘘だ。 実際、俺はあんたの思っているようなことを
 目論んでいるわけだし、それは、現段階でははてさて、いずれ、実現する」



「能力者のいない世界、がですか?」

「そうだ。 原理は良く解んない。 ただ、能力者、を排斥するのではなく、能力そのものを消し去る、
 ・・・ああっ、あとで、舞なり、あゆになり聞いてくれ」

「――」

――……。

「さてっ、最後の晩餐はすんだかな? もっとも鉄のだが」

「……」


 ジリッ。

 祐一は再び、聖刻を構える。

 ・・・すでに、肩は上がらない。





「聞こえるぞ、僕の勝利を讃える歓声が」






「違うわ。 あなたの、死を悼む、名もなきレクイエムよ」

 祐一を避けるようにして、そして、影月を射抜くようにして、朱は流れた。




「――っ!!!」


 


 息をつく暇すら無かった。 影月は本当に秋葉が手出しをしないと思っていたのだろうか?

 ならば、彼は相当なお人よし……または過信家に違いない。







「お、お前……」

「あらっ、勘違いしないでもらえます? ちょっと腹が立っただけです。
  それに、――信憑性に欠ける話は、信じはしません」

「あっそ……」

 祐一はそっけなく返答すると、影月を見やった。

 


 腕を組み、尚も余裕があるような仕草の影月、だが、秋葉の檻髪は確実に影月を蝕んでいく。

「ふっ……、もう少し、お手柔らかにしてもらいたかったよ」

「――」

 パンッ、と風船でもはじけるような音と共に影月は弾けた。

 そして、その片鱗は蒸発でもするかのように、消えていった……。









 



「……、何で、助けた?」

 さすがに、もう立っていることすら厳しいらしく、壁によっかかりながら、祐一は尋ねた。

 髪を梳く秋葉。 その顔は、自嘲、もしくは、僅かな、満足感を示す笑みを浮かべる・・・。


「勘違いしてもらっては困ります」

 第一声は棘のある言い回し。

「あなた達に関しての情報を、わたしが誤って認識していたことは、今回のことで理解しました。
 いえ、そうではないかもしれません。 だけど、……騙されたことに関しては、もはや、あちら方
 には弁明の余地は無いみたいですね。取り合えずは

 ――あらっ?」

 すでに、祐一の頭はかくんっ、かくんっ、と定期的なバイブレーションを起こしている。

 

 呆れて、もう、何もいう気にはなれない。

 ボロボロの祐一、どうせ、祐一の連れが見つけてくれることだろう、まぁ、野良犬にかまれても、死にはしないだろうし
……などと、ゾンザイな扱いを受けていることは、もちろん祐一は知らない。



「まぁ、琥珀を回してあげる。 感謝しなさい」

 その意味合いは別に深くは無い。
 
 秋葉は相沢 祐一の事実上の潔白を認めたわけではなくも、利用価値には滞りない、と判断した。

 身を翻し、秋葉はその場を立ち去った。











「――ち、祐一……祐一……、祐一っ」

 ぴくり、名雪の声に祐一は僅かな反応を示す。

 
 秋葉が去ってから、10分程たって、逃走中のあゆと名雪によって祐一は発見された。

 駆けつけた舞と、アルクェイド……っていうか、アルクェイドにおぶられて、住処に向ったのは祐一のプライドに関わるので
黙秘とする。

 住処には、かわいく欠伸をする琥珀と、顎にシップを貼った志貴が立っていて、すぐに治療に取り掛かる、とと言ってくれた。

 

 カラフルな液体を琥珀は注射器で祐一の体内へ流し込む。

 志貴は、その光景に鳥肌を立てて、思わず視線を逸らす。

 
 熱は、嘘のように引いて、祐一は、穏やかな寝顔を見せていた・・・。


 
「うぐぅ、名雪さん、こんな朝早く、どうしたの?」

「うんっ……、家に帰る前にどうしても、祐一と話がしたかったんだよ」

「? 何で? ゆっくりしていけばいいじゃない?」

 名雪は横に首を振る。

「ごめんね、あゆちゃん。 わたし、お母さんのこと、心配なんだ」

「……そうだったね。 それじゃ、ボク、お暇するから、早く、話して、ね」

「ありがとう、あゆちゃん」

 名雪はふっと微笑む。

 あゆは、とことこと、自分の寝室に戻っていった。





 真夜中に帰ってきたものだから、みんな住処で仮眠をとってもらうことにしていた。

 だから、あゆの部屋にはあゆ、舞、アルクェイド、琥珀がトコについている。

 
 ・・・ちなみに、志貴の寝る部屋は祐一の部屋だが、祐一は布団を使わない。

 寝袋を使用しているのだ。

 おかげで、志貴は生まれて初めて寝袋で寝る、という貴重な体験を果たした。



 





「ねぇ、祐一? 高校の頃、覚えてるかな? 祐一ったら、この町に来るなり、余計なことに手をだして、
 奔走しちゃって……、本当に、わたし、心配だったんだよ?
 でも、祐一は助けてくれた。 あゆちゃんも、真琴も、栞ちゃんも、川澄先輩も……そして、わたしも。
 祐一のこと、……不思議だね、みんな、祐一のこと大好きなはずなのに、好き勝手なことばっかり
 やってるんだよ? 信じられないよ〜。 だから、わたしだけは祐一のこと、誰よりも好きでいてあげる
 
 

 ・・・。 じゃあね、祐一」

 


あとがき

 さて、「風雲、遠野家編、秋葉さまは横暴だよもん編」これにておしまいです。

 次回は幕間2 祐一とアルクェイドのお話です。
 
 ええ、祐一と志貴の項はあっしが入れましたとも……。

 予想外の人気にびっくり。 それは、もう、みすずちんレベルに。

 投票していただいたみなさん、あっりがとうございました〜。



 
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