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第31話
「あゆちゃんは、いつまでそうして殻を閉ざしているの?」
「……」
名雪のイチゴサンデーが半分くらいまでなくなった頃、そう、名雪はあゆに問いかけた。
電話の後、名雪とあゆは百花屋で落ち合うことになった。
話――というのは、もちろん祐一のことだ。
秋葉に誘われたという名目、遠野家へと招かれることとなった祐一に対しあゆは不安を抱いていた。
自分では到底処理できそうにないんその膨張しきった不安。
それを自分の最愛の親友である名雪に転嫁するのには気が引けたが、話くらい聞いてもらってもいい、
そう思ったのだ。
頼んだことを着々とこなして行くウェイトレスのオートメーション、
そこに感情のいさかいは存在皆無。
名雪もあゆもそんなことは知っているから、ありがとう、ともごくろうさま、とも当然投げかけない。
ただ、もらって、それを食べる。
いつからこんなに人は冷たくなったのであろう、か。
そんなことにも気がつかず誰もが無感情に応対をこなす。
そして、あゆもまた、頼んでいたミルフィーユにフォークをずぷりっと差すのだった。
「名雪さん。 ごめんね。 忙しいのに」
「ううん、気にしないで、あゆちゃんはわたしの妹みたいなものなんだから。
お互い様だよー」
「うぐぅ、名雪さんだけだよ、そう言ってくれるの」
フフフッ、と名雪は笑った。 その笑顔は高校時代の頃のまったく変化の無い、
活発さを内包した健康的な美少女。
まるで、そう。 時が彼女にだけ非常に緩やかに流れているかのよう。
あゆの心もそういう笑みにいつも癒される。
祐一くんもきっとそうに違いない。
だって、祐一くんは名雪さんのこと、大好きだもん!
……ボクのことは好き、なのかなぁ?
ぶんぶんっ、何だかあゆはき恥ずかしく頭をぶん回した。
あゆは祐一のことが好きに決まっている。
ただ、それは、もう過去のこと。
思い出というなのカノンに縛られていなくては生きていけない、という呪縛は今はもう無い。
今、こうして地に立って祐一のことをサポートできることは自分には幸福だし、
祐一のいない生涯など今更なにを、といった感じであった。
決して感慨なんかではない。 ただ、傍において欲しいというのは独占欲ではなく、
親しさ、というなの裏返しだ。
だから、あゆは様々な知識を学び、祐一の補佐を選んだ。
――……ボクはそれでも、この先に行くのを恐れている。
祐一くんが、帰ってこなくなるのが恐いから。
置いてかれるのが恐いから。
「最近、祐一どうかな?」
「……うんっ、いつも通り。 祐一くんは元気だよ」
「うわー、お盛んだねー祐一。 あゆちゃんも気をつけなよ〜、いつ襲われても可笑しくないから〜」
「わわっ、困るよ、それは……」
「えへへっ」
からかわれて心地良い。 動揺しながら、あゆは再びミルフィーユに手を伸ばす。
サクッ
「イチゴサンデーおいしいよー」
「……何もなく事ないんじゃ」
「そんなこと無いよー、自費で食べるんだし、もう感無量、見てるだけでお腹一杯な心持でいかなくちゃ」
ひょいぱく、ひょいぱく……。
その消化スピードは擬音とは裏腹に超ロースピードだった。
イチゴにしても、一個ずつ食べ方のバリュエーションを変えて攻めている。
あゆなんぞ、イチゴを今しがた一口で収めてしまったので、豪い違いだ。
「でもさ、あゆちゃんも変わらないねぇー」
「えっ?」
にっこり、と笑い名雪は突然話しを振って来る。
「だってさ、あゆちゃん電話越しだといつも何だか思いつめているみたい。
でもさ、会ってみると元気なんだよー、そういうとこ最近気がついたの」
「……」
「電話って不思議だねぇ」
「そう、かな」
どきりっ、として。 気紛れをしている自分にあゆは気がついたから、というよりも、
名雪にはそういう風に見られていたという羞恥からくる緊迫。
乾いた声であゆはいい、口を閉ざした。
「……ねぇ、あゆちゃん。 本当はわたしに話しておきたい事、ずーっと前からあったんでしょ?」
「・・・・・・・・・」
気がつけば、名雪のイチゴサンデーは半分くらいまで到達していた。
その、晴れ晴れとして笑みは、斉藤の回帰を無心に喜んでいる。
治療手術は問題なく成功だった。
どこにそんな道具が? と問いたくもなるが、あゆが自室として使っている部屋には、
簡易な道具が収められている。 簡易、といっても専門機具だから、腹の縫合くらい容易なのだろう。
「……すまない」
「そんな申し訳無さそうに言われると、照れるよ」
「月宮 、といったな」
「うん。 どうかしたのかな? えーっとv――」
「斉藤だ。 そう呼んで欲しい」
あゆは瞬き、一度疑問顔だったものの、すぐさま頷いた。
「完治時間は大体10時間後。 ボクは下へ行くから、暫く、寝てて良いよ」
「ああっ、そうさせてもらおう。――なぁ、月宮、お前は何でこんな事ができる?」
「うーんっ、副業だよ。 祐一くんのお手伝いだけじゃまともに食べていけないからね」
斉藤はあゆの存在について少し疑問を抱かざる得ない。
――副業でこれほどまでの……。
自分のような非人間は一体何人いるのだろうか?
秘密裏に動く、というテーマはありつつも、それに関与しているのが、副業ときた。
それでは、自分が車の部品のようではないか。
まるで、そんな風にすら聞こえたあゆの声。
斉藤はあゆがいなくなった後、それを忘れるかのように目蓋を閉じた。
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小さな窓から入ってくる夕焼けに、秋葉の黒髪は橙色に染まった。
ふと、懐中時計に目を移すと、すでに4時を回っている。
先日から十数時間、ずうっと遠野家には戻っていない。
それに、志貴もいない。
一体どう説明すればいいんだろう。
甚だ可笑しいが、秋葉はそのことに参っていた。
琥珀は――、翡翠は――、どういう目で自分を見るのか……。
「困ったわね」
そして斉藤の存在。
苛立ちしか浮かんでこないのだが、よくよく考えれば自分の力の無さも要因ではないか。
だが、ソレは認めない。 何故なら彼女は遠野秋葉だから。
困ったわね、と20回ほど言った頃、玄関が開く音と、あゆが階段を降りてくる音が重なった。
祐一は秋葉が嫌いだった。
というのも無理は無い。 仕打ちが酷かったからに他ならない訳だし、
一触即発の火種を自分からだしては、すぐさま表へ出ろの準備が出来ているくらいに、
嫌いだ。
ただ……祐一の右腕は完全には治ってはいない。
聖刻、というなの不完全な力に惑わされず戦う祐一は恐らく天才というより秀才なのだ。
苦労して、苦労して……負債ばかりが残る昨今の株式のように按配も悪く、
負担ばかりが圧し掛かった。
それでも、祐一に抗う術はこれしかない。
だから聖刻を使い続けるのだろう、生命と引き換えに。
そんなこと、今の祐一にとっては余興だった。
つまらなそうに、そして退屈そうに祐一は秋葉を見詰める。
「あなたも、考えなさい。 どうすれば、私は琥珀と翡翠に説明ができるかを」
「さっきからずっとそればっかりじゃないか?」
多勢に無勢。 役立たずな面子ばかりが揃った事もあり、場は混乱を極めた。
秋葉だけだったが。
「それに、こっちも手一杯なんだぞ。 そんなことで悩んでるなよ。
……しかし」
本当か? と祐一に秋葉は問いかけた。
「ええっ」
秋葉は頷く。
「――志貴が禍々しくも狂いだす。 琴線の奏でる音は悪魔の序曲、といったところか?」
「兄さんがどこにいるか、もワカラナイし、影月が何を企んでいるかも今のところ、
解らないわ」
ふむっ、と祐一は考える仕草をして、目を瞑る。
そして、思い出す。 共通の目的である、ということを。
「影月の件だったら、俺も用があるんだ。 ……提携を結ぶか?
遠野 秋葉」
「・・・・・・・」
「そのほうが、俺もラクだしな」
すっと秋葉は立ち上がった。
「あっ――」
「月宮さん、お世話になったわね。 提携の件に関しては保留としましょう」
それだけ言って踵を返すと、秋葉は祐一の住処を後にした。
「……ったく」
「はぁ――いつ喧嘩になるか、と思うとドキドキしたよ」
あゆはほっと胸を撫で下ろす。
「祐一、一応、わたしも手助けはするつもりよ。
でも、遠野 秋葉とは
手を組んでおいた方が良いわ。 あの女が祐一に危害を加えるとなると、
あなたの死は、確実に侵攻するから」
「えっ――」
「いや、あゆには関係ないさ」
「か、関係なくあるもんかっ!!」
鬼気迫ってあゆは祐一にそう叫ぶ。
その気迫にアルクェイドはただ驚いていた。
この子、こんな顔するのか、と。
「ボクも、助ける。 祐一くんがどうなってるか、解らないけど……、
祐一くんを助けることくらいはできるんだっ!
だって、聖刻のことは、
ボクが一番良く知っているから!!!」
「名雪さん、答えてよ。 ボクは、どうすればいいの?」
「……あゆちゃん」
目の色は優しく、そして少しだけ冷たい。
カランッ、と乾いたスプーンの音がして、イチゴサンデーが無くなったことをアピールした。
「それは、自分で考えることなんだよ。 でもね、わたしが、教えてあげても良いよ」
「……」
「教えて欲しい?」
あゆは首を横に振った。
「そう……」
残念そうな顔を名雪は作り、その後申し訳なさそうな笑み浮かべる。
「ボクは、きっと子供だから、独占欲が強いんだよ……。
よく、わからないけどね」
「そうかな……」
「ボクなんか気にしなくても祐一くんは勝手に行っちゃうんだろうね。
だってさ、
祐一くんはとーっても自分勝手だから」
「……」
「決めた! 今日からボクも我侭になるよ! 祐一くんのことにだって我侭になって、
すんごく祐一くんを困らせてやるんだから!」
あゆは景気付けだ、とかなんとかいって、名雪にもう一杯イチゴサンデーを、
自分にもイチゴサンデーを頼んだ。
イチゴがたくさんあると、どれも味が異なることに気がつく。
自分と人とは違うのだ。 そう思うと、何だか少し気持ちが軽くなり俄然やる気が増した気がした。
そんなあゆの決意を歓迎してか、この後、能力者は水瀬
秋子を狩りに現れた。
あとがき
過去――現在――過去を通して、カオスをちょっと、という感じです。
下手でごめん<m(__)m>