シエルは第7聖典の引き金を引いた。
ぎしっ――と重たい感覚が全身の筋肉に負担をかけ、骨を軋ませ、そして一発の図太い針……杭、
転生批判の矛先”第7聖典の本体”を発射する。
一撃の衝動は深く、シエルの足は雪原深くに食い込んだ。
めりっ――。
シエルの腕自体びくんっと反動で揺れた。
「――くっ」
――暫くぶりの重さです。
まるで、感触に歓喜するかのようにシエルは微笑んだ。
秋子へと飛翔した杭――腕で防ぎようもなくその速度も尋常ではなかった。
しかも加速していた秋子はその計算外の速度に翻弄されるがまま、杭は腹腔に食い込む。
「っ――」
出血はあり得ない。
杭を防いだのは白い、秋子の能力の具現”うねり”だった。
衝撃を干渉し、さらには反動すら抑圧する。
ごとりっ――と杭は地面へと落下、羊皮紙へと姿を戻した。
「……本気のようですね」
「ええっ――次は、あなたの終焉です。 今宵の月は――あなたを葬る」
全ての安全装置は開放される。
その負担は尋常じゃない――だが、水瀬 秋子はシエルの全性能を駆使せずして倒せない。
まさに、領域侵犯の人外。
双方に奔る緊張は同等にして違和である。
「ALLセキュリティーロック開放」
バシュウッ――と湯気が充満し、シエルの第7聖典はその罪悪滅却の一撃を整えた。
超高温。 超衝撃――。 第7聖典をなおも、空白が包み込む。
その引き金は到底片手では引けないものであった。
両手でも手厳しい――。
「本来、これは、相沢 祐一に提供するものでしたが――、彼も必要としないでしょう」
漆黒の第7聖典を構えるシエルの腕には暗黒を思わせるベルトが幾重にも巻かれそれは霊的な光を放つ。
義手――。 腕の感覚をゼロにまで持ち込み、負担を相殺する。
それにより全身への負荷も異常軽減され、辛うじて渾身の一撃の発動が可能になる。
元は、祐一の聖刻の抑制のために、教会が提供してきた供物だ。
その威力は保障されたも同然。 シエルは銃身を秋子に向けた。
「わたしが――」
「私は――」
「「正等です」」
2人の声は重なった――衝突もまた、目を覆うほどの閃光によって重なった。
「まったく、手間がかかる」
未だびりびりと効き腕以降、半身には余韻が残る。
そんな肩を支えながら、白煙の中でシエルはぼそりっと呟いた。
袂は水溜りができているだけの、ただのアスフェルトへと姿を戻している。
それほどの熱量を消費しながらも、まだ、世界は白に包まれていた。
「雪――まだ、やまないんでしょうか?」
見上げた空は、まだ白い。
りぃぃぃぃん――。
りぃぃぃぃん――。
鈴の音は、留美を目覚めさせる――醒めた瞳で、ぼうぅ〜と天井を見つめた。
「何の音? 鈴?」
初めは、冬花がやっているのか? と思ったが違うらしい。
こんな時間にそうそう失礼なことをやるほど彼女はずば抜けた奇想は有してい無いことは知っていたから。
だが、この音は妙に耳をくすぐった。
あたかも、自分を導くかのように、音は響いてくる。
遠くない、そうまったく近くにすら感じられる立ち位置からその音は届いてきた。
月明かりだけが照らすこの部屋を留美は歩き出す。
鈴の音はまだ耳に届き消えそうにない。
「――お嬢さん♪ どこいくのサ」
「ひっ!?」
長い廊下だった。 よぅっ、と親しげに手を挙げた男に留美は唖然とする。
……何者?
何者、といわれても、心外ではない。
斉藤は余裕を余すところなく露呈し、相変わらず流れるような仕草で衣服に皺1つ作らず柱に寄りかかっていた。
樹齢200年はくだらないヒノキで作られた柱と半死徒斉藤。
そのニュアンスのバランスは月明かりが仲裁をしなければ最悪な代物だろう。
完全でない肉体には夜の足音と共に心音を擬似した機械音が共鳴していた。
「……あなた、何者?」
「何者、と聞かれたら斉藤と応えるようにしているヨ」
「あっ、そう」
付き合ってらんない。 腕組みし、眉元を曇らせ、留美は無視しようと思った。
何故なら鈴の音が近くにあるのを感じたから。
「ある、一定の人間にしか聞こえない共鳴を、君は感じたのかい?」
「――」
無視して留美は歩いた。
不法侵入の男など知るものか。 大体誰かの客人だろう、と思えばあまり気にもならない。
つい、先日、潤が来た時で既に慣れているので不本意な来客にはもう免疫ができた。
とにかく急がば直進だ。 曲がっている暇は気分的には存在しない。
「足、引っ掛けるぞ」
そんな留美に斉藤は右足を低く突き出した。
ホットパンツにTシャツ、という姿で留美は大仰に体勢を崩した。
どしんっ――。
「アホだなァ……」
「な、何するのよ。 あたしをなめると、痛い目に遭うって……」
剃刀色の目は留美の目をあっさりと射抜いた。
とろっ――と一瞬気の緩みが生じてしまうほどの余韻の心地よさに留美は意思を剥奪される。
ほんの一瞬の出来事だ。
間の抜けた表情で、留美はゆっくりと立ち上がった頃には斉藤は柱から身を起していた。
「――何者? あなた」
「斉藤だよ。 君は、なんて呼んだらいい?」
「七瀬 留美……それより、そこを退いて。 あたし、ちょっと用事があるの」
「例え、そこが死地であってもかい?」
えっ? と留美は硬直感に襲われる。
ゾクリッと来るほどに斉藤の言葉には真実が滲み出ている、にもかかわらず彼は笑顔を絶やさない。
それ故、感情が表に出ない。
正直に、留美はこの存在に僅かな畏怖を覚えた。
「僕はただ1つを伝えるためにここへ来た」
ゆっくりと斉藤は留美を通り過ぎる、まるで生命を感じないほどの歩行……。
はっとして、留美は振り返った。
ほぼ、同時斉藤も振り返る。
「君と僕は引き合う運命にある――本来なら、僕が君を殺すはずだったんだし。
でも、君は能力を手に入れてしまったようだ。
それではお手上げサ」
超越したかのように見透かされる気配が斉藤の正体だと、留美は理解した。
何か、先見をしているような孤独そうな感覚は居た堪れないものがある。
「おっと、足止めして悪かったね。 あっ、足をかけたのは僕だったかい?」
予告 今回はカットでT T