第59話 



 ”闇思う故に、我あり”

 黒薙の破壊と再生は著しく速度を増し、元の形へと自身を再構築するのに時間を有しなかった。

 久瀬は笑いながらその力を提供してくれるため、黒薙は簡単に蘇生が可能なのだ。
 ――それは彼を堕落へと導いているなど愉悦の極地にいる彼は知る由も無い。

 久瀬はいうならば黒薙のパトロンだ。 能力を評価し、それ相応の供給を執り行う。
 黒薙の今回の祐一による損傷は半端なものではない。

 自分と同等? あるいはそれ以上のあり得ない力に押され壊死させられた部位はいざ知れず。
 その恥辱もまた反発となって彼をいきり立たせた。



 ほかならぬ慙愧の復活を月夜は蔭りによって讃えた。
 黒き彼を讃えるは漆黒と僅かに彼を照らす仄暗い月明かり。
 黒薙は手を開き、自分の存在の是非を見下しつつ、考えた。

”ここに、人間としての組織に依存する、惨めな悪鬼である俺がいる”

「俺は完全なる答えを求め悟る、いや悟ったのだろうか?」

 ぼとりっと彼の腕は暗闇に溶けて無くなった。

”完全なる答えとは……だ。 おろかなのは自分自身。 それゆえに自己愛は生じる”

 失われた腕は禍々しくも黒い塊となり集約を果たした。

 いや、それだけではない。
 血色の悪い土気色の肌は全て黒の侵食を被りだしたのだ。

 もうそこに人型は存在しない。
 人気の無い道に彼が躍り出た時にはすでに黒い塊”虫?”のような姿に変態した彼しか存在しない。



 黒薙は闇へと進化した――。










○










 悠久にすら思えた茜自身への恐怖は朝方になり、他方へと一人歩きを始める。
 ――その時、茜は恐怖の淵に心理を知ってしまった。

 どうして、自分はあの時、殺されたくなかったのであろうか? そう思う。

 自分は死にたくなかった。 それは恐怖などという下衆なものではなくもっと高貴な自己愛からくる迷い気だ。
 あの日、偶然にもにた因果は辛うじてそうであるように見せかけたものだということ。
 それすらも全ては仕組まれたものだというものを茜は悟った。

 須らくそれは解答Aへと結びつく。

 48の王。
 
 黒薙。

 神区域。

 ――??
 
 幾つもの複雑多岐にわたる物語の根幹を担う解答の1つに茜は到達した。
 思わずはっと息を呑む。

「全てができすぎていた。 だとすれば全ては帰結に達する」

 仕組まれていたら? IFの領域であるが今ではそれこそ正論だ!と茜は言い切れる。
 

 生きる糧、とまでは行かないもののそろそろ潮時だろう。
 茜は一度写真立てに写る自分に思いを馳せながら悲しげに笑った。



「里村 茜――なるほど、久瀬が始末を要請した理由はここにあったか」
「!!?」


 突然、朝方の光を多い尽くすかのように常闇の世界が茜の視界に広がった。
 かと思うと体が浮くような違和感を感じる。
 




「くろ――なぎ……」
 全身を完全に包む黒は呼吸をも支配し、その全てを阻む。 茜の意識は遠のいていく。

「闇に、飲まれるがいい――」



 ざんっ!!!


 
 まるで、世界が1つ、亡くなるかのような嫌な予感にあゆは走り出した。
 
「茜さんっ!!」

 ふわりっ――カーテンが朝焼けに翻り、光を享受していた。
 ――人の生活していた気配すら闇は食いちぎってしまったようだ。 どうやら。

 何がなんなのだろうか? 
 あゆは自体を整理し、理解するまでに数秒を要した。


――!
「たたた、大変だよ!!!」

 その日、里村 茜は姿を消した。



















○









 
 潤は舞のバイクが止まる姿を見ると、そっと姿を消した。

 朝方の空気はそれなりに涼しい。 だが、場所が場所だけに湿気も多く何かとじめじめとしる。
 社を歩きながら潤は晩のことや、自分自身への嫌悪を整理していた。
 舞の行動を大方理解したのはそこに舞の匂いがしたからに他ならない。

 あの場でタイヤの後と、死徒(斉藤)の匂いに混じって舞の匂いがしたのだった。
 当然、潤としては人格を疑われようと調査をしなければならない。
 しなければシエルにいびられるは教会から減棒されるはで痛手なのだから仕方ない。

 だが、あえて潤は姿を確認するだけにとどめた。
 信憑性は著しい。 潤もそこまで理解してやめた、それには決意が存在する。
 真情ともいうが、他人のプライベートに携わるのは嫌いなのだ。
 何時までも香里に奥手な人生を送っているのはこういった奥ゆかしさも所以していた……。
 
 思わず、潤は庭先でう〜ん、と唸ってしまった。



「北川さん、おはようございます」

「んっ――、あれ、倉田さん、早いっすね」

「あははー、そんな他人みたいな呼び方止してくださいよ〜佐祐理でいいですって」

 ……はは、

 潤は思わず辟易と肩をすくめた。

 佐祐理は高校時代、潤と何度か課外授業で世話になったという経緯もあってそれなりに顔見知りなのだ。
 だが――潤にしてみればもう何年前もの話しなのだが・・・。

 佐祐理は何気にその頃の話を引っ張っていて”倉田さん”呼ばわりされるのを遠慮ととらえていた。
 甚だ誤解だが、仕方ない。

 ちなみに”潤さん”と呼ばれるのはなんとなく称にあわないという理由で多数決の結果”北川”で決定した。

「佐祐理さん、おはようございます」

「はいっ、おはようございます。 舞、見ませんでしたか?」

「川澄さん――ですか?」

 潤は困ったような顔をして、首を横へと逸らした。
 頃合、舞が歩いてこちらへと向っている。 もはたタイミングは完璧だ。
 
 思わず潤はおかしくて自身を内心で褒めちぎった。

「舞〜、今日、わたしと朝ごはん作る日なんだから勝手に出かけないでよ」

「……」

 チラッ。

「?、どうかしましたか? 川澄さん」

「私に何か用?」

「用があるのは佐祐理さんですよ」

 一瞬だけ訝しげな表情を浮かべた舞だったが何分確証がない。
 視線を感じたよな気がしたのだが……舞にはそれ以上はわからなかった。
 何より潤の会話があまりにも偽りの無いものであったためかそれ以上問いたださず、「そう」と答える。

「それじゃ――」

「あははー、朝ごはん期待しててくださいねー」







○







「あっぶな〜〜〜〜〜……まじ、ばれるかと思った」

 潤はその場に力なく座り込み、深く息を吐く本の数分――緊張は一瞬で張り詰めた。
 そして消えたのだ。
 糸が切れた人形のように解れた開放感に潤は安堵を覚え、そして息を吸う。

――川澄 舞に言い切れることじゃあないだろう。 女性全般、感は鋭いんだよなぁ。
 鈍感だって男と女とこはすっげぇ違うからこぇーんだよ。

 しばし閉口気味に潤は手を顔で覆う。
 声なんてでない――むしろ食傷すら伴ってしまう。

 こういうときはポジティブな発想が必要だった――。

「さぁて、今日の朝ごはんは何でしょね〜♪」


 ちなみに食事すら彼、北川 潤は一緒にとることを許されていなかった。
 佐祐理さんの恩寵が無ければ食事すらも自炊――。

 ここは女が強すぎだ。

 女権男卑。それが相応しくさえ思えてくる。

 考えれば考えるだけ気が重くなるので、潤は取り合えず考えるのを――



 ――止めた。 


あとがき

 予告ミスったから反省文もかねてあとがきです<m(__)m>

 2パート進行なSSなので、どうしても両方の会話を進めるとなると(^_^;)
 次回は前話の予告の内容ですから〜〜^^;

 では!


 ばっく