KAMIKUIKI4


「言っておくけど……振ってきたのはそっちだからね。 容赦しないわよ」

 留美は戦意を露にし、全身に力が放流するのを感じた。
 ごぅっ……と芽吹いた気配はなんだかわからない。 ここ数日間の迅速急なトレーニング。
 その荒削りが導き出したのはあくまでも、虚像ではなかったようだ。

 最悪の思考。 多分、仲間であろうしかも師事する香里の実の妹、美坂 栞に対し敵意を抱く……。
 今、拳を構えてもまったく抵抗を抱かない――自分が力に酔いかけていたこと、それを理解する。
 留美の人間だ。 何もかも、理解しているわけではない。
 だが、能力は一本道であることにようやく答えを見出した以上、後には引けなかった。

 自分が、自分でなくなる予感は無い。 ただ、自分の意思を通り越した”何か”。
 例えば能力が連なっては消え、余分な性能を削り、モノになっていく――そう予感した。
 
「宣言しちゃいます。 あなたは、わたしに触れる事すらできませんよ」

 見下したようなスナップを効かせ、栞は人差し指を突き刺す。

「そして……」

 栞の視線がなお、怒った。

「お姉ちゃんには近づかせない!!」

 冬花の社の開かれた庭園で戦いは始まった。 足元に雑草1つあり得ない地面を蹴り上げ、栞は走る。

――早い。

 相手も能力者――留美は能力者とマンツーマンの戦いをしたことが無い。
 だから、解らないのだが、栞の威圧にもにた加速が明らかに凄いものだということがわかる。
 
「おっと……」

 うかうかして入られない。 本当は観客として見蕩れていたい、そんな動きの可憐さだ。
 何しろ、年下とかそういう意識を振り払わずにはいられない。


 栞は留美に衝突する。 そのタイミングを見計い留美は栞を手で払いのけようとした。

「ぬかせぇ!」

「あちっ――」

 触れられない……っ。
 栞の背を叩こうとした瞬間まるで熱砂に触れるかのような躊躇が生まれた。
 反射的に留美は手をどかす、と栞の腕から赤いものが――。 紅蓮の炎が舞上がった。

「な、な、なぁっ……」

 留美は目を疑う――今昇華した炎が、真っ向自分へと目掛け落ちてくる。
 それは常識じゃない。

「あの炎は生きているんです。 それに、わたしの一部。 さぁ、七瀬さん。 敵は、わたし1人じゃないですよ?
 どうします?」

「――くっ」

「へぇ――」

 留美は後方へステップを踏み、炎との摩擦を軽減し、辛うじて直撃を避けたものの、肩がヒリヒリする。
 炎というだけに、大やけどを思い浮かべるも、あくまでも攻撃主体でありそこまでのダメージは生まれない。
 あるいは栞が手加減しているのだろう。 殺すまでは考えてい無い。 だから留美は今助かった。
 そう考えるのが順当だ。





○





「やれやれ、始まっちゃたけど、どうします? 川澄先輩」

「……別に、なんともしない」

 屋根の上に降り注ぐ日差しは雨上がりの雲の隙間から零れて、燦燦としてとても気持ちが良かった。
 庭が騒々しくなるのを逃れるため、一旦は町に出ようか、と考えたのだが、それの億劫だ。
 結局、屋根の上で顛末を眺める事で結論となった。

 俯瞰を眺めるかのように、高みからの眺めは結構楽しいものがある。
 何より、栞の能力は中々面白いものであった。 3Dの映画を間近でみているようなムードが漂っている。
 逃げ惑う留美もまた、真剣そのもので、かえって演技でないが故、高みの見物は本当に楽しかった。

 舞と佐祐理も、家に居る事に退屈を覚え、買い物に行こう、としたところ、そんな潤を発見し上ってきたのだ。
 最初、舞は不信な感じを漂わせていたが、佐祐理が仲立ちしている以上、警戒心は自然と解かれた。
 
 今は潤の話に返答してくれるまでになったのは大きな変化といえよう。
 逆に、佐祐理のほうが真剣に2人の戦いを見ているように思えた。



――七瀬さんの動きはやはりぎこちない。 でも、わたしと違い決め手があるし、美坂さんに頼んだのだから安心。
 
 佐祐理はこんな時だから、あの日と回想した。
 留美と助けたあの日を回想し、そして良かったと思った。 留美は真剣に能力を切磋琢磨している。
 仮にあのとき影月に捕まっていたのならば、今頃能力者として敵対していたという事実は余りにも悲しい。
 だから、良かったと思う。 そして――内通者となのる彼女に感謝をする。


――内通者である彼女とはあの日を境に連絡が途絶えてしまった。
 これは祐一さんにも舞にも黙秘で執り行っていたことだから誰にも永遠に喋る事は無い。
 
 彼女は言っていた。 あの日の夢を見る。 だから――忘れられない、と。

 決意ともいえる沈黙。 それはわたしの身に沈んでいた意思を際立たせる。
 自分には何もできないことを知っていた。 だからこそ、わたしは彼女を助けたかったのかもしれない。

 あはは……おかしい。 おかしすぎるね。

  ――、一弥にも聞いてもらいたい。



 告白しよう。
 
 わたしは、彼女の代理者。 偽りの内通者だ。 彼女の予言? を忠実に祐一さんに伝え、
 それとなく自分も動いた。 例外とすれば、影月、そう彼の暗躍以外は全て肯定的。
 
 祐一さんを影で操って、舞も留美さんも道連れにして、そしてまた偽り続ける。
 
 わたしは卑怯な人間です。 もう、引き返せません――。

 これからも、ううんっ、永遠に。







「おおっ、留美ちゃんが跳んだぞっ!!」

「……あまい」

「しかし、栞ちゃん、本当に強いなぁ……まったく能力者ってのは驚きモモの木だぜ」

「……さむい」

「はいはい、冗談は言いませんって。 まったく川澄先輩は手厳しい」

 かかっ、と潤は満足そうに笑い声をあげながら2、3舞の背中をたたいた。
 
「……あくまで、私は潤を信用したわけじゃないから」

「ハンッ、なんとでも言ってください。 俺だってあなたを疑いまくってやりまっす」

 舞は前髪をいじくる、ちょっとむかっとした。 なんて口の軽い男だろう。 祐一とはまったく違うタイプだ。
 そして、とても目を引く素質を持っている。 言うならばある種のプレイボーイ……。

「美坂〜」

 潤は不安で充満しきった香里の姿をキャッチした。
 
 ギロリッ――。

「あぅっ――川澄せんぱ〜い、美坂がぁ〜〜」

「……かなり、嫌いじゃない。 こういう展開」


 ここは、息苦しい――。
 2人に気付かれないよう、佐祐理はそっと席を立った。


 



○
 



――まったく、バカだわ。 この子……凄すぎ。

 留美は辛苦を舐めさせられる。 そのたび、栞の笑顔は狡猾に見えてきた。
 憎ったらしくてそれなのに、自分より優れているから拭えない。 留美はチャンスを待つ。

 ここで、偶然があるといえばそれは絵空事の世界。 ここは現実だ。
 栞を肉薄してまず、触る事すらできなければ留美は無力に等しい皆無だった。

「七瀬さん。 お姉ちゃんから手を引くといってくれれば、攻撃、止めてもいいですよ」

「――つまり、負けと認めろと? 冗談じゃない」

「ああっ、意地っ張りだこと。 それなら怪我してから後悔してください。 擦り傷じゃ済ませませんから」

「もぅっ、蚯蚓腫れよ!!」

 悔しいが能力以前の問題で栞は一日の長だと思う。 留美が直情的だとすれば栞は直情+α。
 先見的にみている、といった具合があった。 だから僅かに先を読まれるのだ。

 何より、経験の差――否定!!――。 留美は頑なにそれだけは否定している。
 それを認めた時点で負けだ。 いい訳なんて本当にくだらないと思う。

――だから、あたしは、まだやれる。

「届かないんなら、捻じ曲げてみせる。 それでも届かないのなら。 ちょっと考えてあげてもいいわ」

「今の言葉に、二言はないですね?」

「無いわ」

 栞は炎を解き放つ。 そして、同時に噴水するかのような水のうねりもまた、解き放った。
 
――……生きているんでしょう?

「たしかに、ちゅーちょしてたけど……やってみる価値はあるわ」

 留美は深く、かなり深く左拳を構えると、能力を開放した。
 熱いよりも、冷たいほうがマシだ。 結局どちらも反射してしまうにしても、そうそう”寒い”という経験をしたことの無い島国育ち。
 留美の判断は水流に委ねられた。

 迫り来る炎を横とびに避けると、背後に回り込み、自分を襲った水流に背を向けたままに留美は右に重心を捻った。
 そして反動に任せるがまま左エルボーを叩き込む。

「二度と、あたしに手をださないこと――それと、一まず、消えて」

「!!!!」

 留美の左肘の辺りに水流は凝縮された。 炎は留美へと突進してくる。 喰らう。 喰らわされる――っ!!

「はぁぁぁぁっ!!!!」

 水流はまるで留美のものであるかのようにいとも容易く眼前に移行し掌打を当てると邁進。
 そして炎と衝突し、はじけた。

 相殺されたため、一時的に栞の眼前に何も無い空間は生じる。
 留美は駆けた――。

「まったく、どさんぴんですぅっ!!!」

 栞は一瞬驚いたがその程度で動揺するような素人ではなかった。 経験をつんだ以上こういう展開も多々とある。
 むしろ、この機会を待っていたといわんばかり肉薄してくる留美の前に栞の第3の武器は姿を現した。

 驚くべきは地面が憤土し壁となった事。 そして、土砂が留美を飲み込んだ事――。
 地上3メートルほどまで浮き上がった土砂の威力は凄まじい。 石とガレキ混じりの衝撃を留美はまともに喰らった。
 まずいっ――と思う隙すらない。

「解りましたか? 無駄なんですよ――」


「――なめないでよね」

 ごぅっ――。

「……潔く無さすぎですぅ〜」

「あたしは、七瀬よ? そう、簡単には諦められない。 諦めたら自分を見失っちゃいそうだもの」

「それなら、一生そうやって這いずり回る人生を送るって言うんですか……?
 呆れちゃいますよ」

 留美を覆っていた土は栞が掘り起こした地面へと戻って行く。 当然であるかのように留美に着いた土までも。
 土は生きている。 もともと栞の作用が無くても、生きているから栞の能力ではない。
 ただ、その生命を栞の能力によって働きかけただけに過ぎないのだ。 だから、ちっとも留美は恐くなかった。

「あたしがかったら、クリーニング代払ってくれるかしら?」

「それどころか、デザートにバニラアイスをつけてあげます」

「そうっ――なら、試す価値はありそうね。 ……試させてもらうわ。 あたしの力」

 動じず、焦りもするはずがない。 栞は留美が能力を使おうが使うまいが先をある程度読んで行動している。
 だから、この程度、どうってことない――その時点で勝敗はとっくに喫している。

 大は小には絶対に勝ち得ない。 その均衡を崩さない限りは。
 そういう点でも、留美には圧倒的に不利だ。 だが――早くも第2ラウンドは幕をあげた。

 留美は確かめるように両腕を握り返す。 それを続けた。 ――いける。
 留美は判断した。

 そして、疾駆――。





○

 



 秋葉と琥珀が森に着いた時、それに合わせるかのように一台のバイクは自分たちを妨げた。

――あと少しだというのに……。

 乗ってきた車はとっくに降りてここまでは電車と徒歩できただけにこの男はどうやってここまでこれたのか疑問だ。
 整理された道は無いはずなのだが……。

 秋葉は思わず苛立つ。

「どうして、また、邪魔をするんですか? あなたは――」

「この先へ、行かせたくないからさ」

 斉藤は真っ黒なフルフェイスヘルメットを外し、剃刀色の瞳で露骨に秋葉を――そして琥珀をみた。
 琥珀は何故? と戸惑った表情だ。

「悪いな。 琥珀……俺はこの先へ行かせるくらいなら、あんたともども、ここで足止めさせてもらう」

「そんなっ――」

「そういう男さ。 俺は――」

 バイクから降りる斉藤の四肢には金属の輪が装着されており、新たに首に金属の輪がまかれている。
 それは、斉藤の藤香への忠誠の証だ。 そして、斉藤の真の目的の答えの証明でもある。

 金属が、りんっ――と斉藤の意思に反応し、彼を性能的にも――死徒へと変える。
 その最たるは紅色の瞳だ。

 高圧的なその瞳に、動じる様子もなく秋葉は一歩進み出た。
 
「邪魔、しないでもらえるかしら?」

「俺の意思は、もう変わらない。 これは、久瀬への抗いだ―― 答えなんだよ」

「――どきなさい」

「方法はあるだろう。 この先に行きたければ、俺を殺していけ。 口先では俺は折れない。
 
 下手な威嚇は身の破滅だぜ」

 
 



To Be Next


The Last Moon!!

「俺は、人じゃない」

 秋葉対斉藤の構図はより確執的になっています。 ただ、兄を思うが故邪魔を排除する秋葉。
だが、斉藤の意思は堅い。 そして彼自身秋葉を凌駕した力を持っていた。
彼の余命は余りにも短い――だからこそ急ぐ。 自分のやるべきこと。 久瀬への抗い。

 秋葉の檻髪と、斉藤の死徒能力、再び対峙する。



 ばっく