The Last Moon


a prolog 人気のない公園にて 


 
 
 

 頬を撫でる風は暖かかった。

 今宵は満月。 その色に負けぬ美しさを誇る女性の瞳はサファイアよりも赤く、肩越しまで伸びた髪は風にふわりっと流れた。 吸血鬼なのに白が似合う。 可笑しな姫君、アルクェイド・ブリュンスタッド。 それが彼女の名前だ。

 アルクェイドは今宵、分け合って人を待っていた。 しかも誘ってきた方が遅刻するというとんでもない人間と。

 




「あーっ、アルクェイド・ブリュンスタッドっ! 本当にきたんだっ!!」
 
 この町では膝丈の短いことで有名な私立高校の赤い学生服を着た少女は、お気に入りの長い髪をくるっといじくり、どこか不適な笑みを浮かべ、公園の入り口に立っていた。

 これが、初対面のものに対する態度だろうか? しかも大遅刻。 おまけに溜め口。 少女の印象は最悪だった。

「こんにちはっ! アルクェイドっ! わたし、折原みさお、遊ぶ事と寝る事が大好きな15歳っ!魔法使いやってま〜す」
 
「……」

 魔法使い、アルクェイドはその部分にだけ反応を示した。 

「わわっ、爪なし!! 魔眼なしっ! わたしだって好きでここに来たんじゃないんだって! えっと、どこからだっけ……そうだ、秋子さんのところからだわねっ!」

 身長150cmとやや低めの少女、みさおは「わたしにはあなたと闘うつもりなんてまっぴらありません」という視線をおくり、これを流した。

「で、ね、わたし、秋子さんの使いなの。 お駄賃くれなかったらこんなとこ来ないって、あはは。 秋子さんっていうのはねすっごい能力者でね、炊事洗濯、家事全般OKっていう主婦の鑑みたいな人なわけ。 それでね、秋子さんは能力者を後天的に目覚めさせることができるの。 秋子さんはその能力を悪用しようとする追求者なんていう胡散臭い連中とどんぱちやろうとしたんだけど――人数不足なんだ〜」

「それで、わたしを?」

「うんっ! だってさ、もう寝るとこだったんでしょ? なんだっけ? とーのけ? 教会? だかがロアをばびゅーんと転生不能にしちゃったからさ、だったらその溜まった鬱憤を有効利用しようっ! てことなんだけど? どうかな?」

 アルクェイドは眉を寄せた。 ちなみに鬱憤が溜まっていないといえばそれは嘘だ。 かつて犯した自分の過ちがまさか自分以外の、しかも人間の手によって清算されてしまったなどとは今だ信じられない。 それが現状。 
 
 だが、秋子に手を貸す、となるとまた話は別だ。 アルクェイドと能力者なる存在は無縁に等しいのだから。 

「迷ってるわね。 できればあっさり即決、もう、ちゃちゃーと決めてくれた方がわたしは嬉しいな〜」

「じゃ、パス」

「がーん」

 心底がっかりとした表情をつくるみさおに一瞥もせず、踵を返すと、アルクェイドは軽い足取りで去っていった。

  





 能力者とは、人間とはかけ離れた、いわば、禁忌の領域に侵入した存在。 種の根底に反したその能力を、世界が認めるはずがないわね。 でも、先天的なものが多かったからその使用者の数も限られていた。 数年前、後天的に能力を使用可能にする実験がとある国で極秘に行われたのだ。 その席には、秋子さんのような先天的能力者も立ちあった。 実験は成功に終わった。 それでお終いのはずだった――。

追求者たちが現れるまでは。

 理想と現実  ”理想こそ現実だ” と論じ、その可能性をいかなる手段を使っても求めるのが追求者たち。

世界が自分たちの理想を理解してくれない……ならば、能力者を雇おう。 それが彼らの理論。
 
「ルール無用、自分たちさえよければいい……。 なんてわがままなのかしらっ!」

 お気に入りのフワフワウサギのケースにしまった携帯を引っ張り出すと、わたしは天野さんに電話を掛けるため短縮ボタンを押した。 今日の料理当番をサボれる、て、きかなければわたしはこんな難儀なことしない。 しかも大失敗だ。 はぁ……ひやひやするのはこりごり、後は天野さんに任せて温かいシャワーでも浴びよう。

 
 
「もしもし、天野さんですか? みさおですっ。 あの〜、すみません、アルクェイド・ブリュンスタッドの件なんですが失敗しちゃいました。 第2弾。 天野さんの方で、なんとかしてくれませんか?」

    







「はぁー、はぁー」

 深く抉られた男の脇腹からは止まぬ鮮血が滴り落ちた。 そして、抱え込むようにして小道に倒れこんだ。

「相手が悪かったな、能力者さんよ」 
 
 愛用のモスグリーンのブルゾンを整えると、深く、ブーツを踏み込み、相沢祐一はその場を去った。その瞳は淀んだ漆黒。 混沌が蠢いていた……。
 
「……今日は次から次へと。 お相手が尽きないな。 ……名前は」

 ゴツゴツのブーツと、教会支給のスーツを纏った黒髪の女性は、相沢祐一を電信柱の頂より眺めたいた。 ふっと宙を舞うと、そこがコンクリートの地面であることを忘れさせるような着地をし、女性は祐一をきつく凝視した。 

「不浄なる……。 48の王、相沢 祐一。 ここが、あなたの墓場です」

「――やなこった」

 タンッ

「くっ……」

 足音1つ、祐一の姿はその場から消えた。

 


   

   

  全ては、終焉の月の名のもとに・・・。


       The Last  Moon





 第1話に続く。      


あとがきなのさ。

 例によって突発的に始まったSSです。

 人間関係が見えてこない・・・、というのはプロローグだからご勘弁を。 

 第1話以降、少しずつ、やってきます。

 ちなみに1話1話、あんまり長くする気はないです。

感想とか頂けると嬉しいです

戻ろう。