幕間
/1
「川澄 舞っ! いるのは解ってるんだぞ、とっととでてきやがれ!!」
「……はちみつくまさん」
黒のロングスカートに黒のカーディガン、そして、どこか冷めた表情の艶のある黒髪の川澄
舞は左手に愛用の西洋剣
を携え、白昼の航空機内、小銃を片手に身構える男と対峙した。
彼女の友達、倉田 佐祐理がわざわざチャーターしてくれた航空機は日本海上空で突如暴走しだした。
原因は強硬派の追求者の一味が舞の命を狙ってのことらしい。
舞は心情でうんざり、とした後、苛立ちを覚える。
この飛行機の乗員、何十人という命を犠牲にしてまで自分を殺そうとする、その腐った根性が許せないのだ。
「……、バカ?」
タンッ、とぐらつく床を蹴ると、舞は距離を一気に縮た。
「ちっ!」
男の放った銃弾が舞の頬を僅かにかするが、舞はなおも邁進する。
舌打ちした男はあろうことか、自分の横の客席の少女を盾に差し出した。
が、舞は動きを止めようとはしない――
むしろ、先程よりも加速をつけ、一気に男につめよる。その姿に乗員は非難の目向ける。
舞が男の背後に回りこむまでは……。
それはまるで透過だった。 舞は驚愕する男の即頭部に強烈な肘鉄を加える。
軽い脳震盪を起したのか崩れ落ちた男から少女を拾い上げ、元の席に座らせると、男の背中を封切に、操縦室目掛け走り出した。
「……助かった」
支給品が旧式なのか、それとも趣味なのか、連発しきでなかった小銃に舞は感謝する。
「こ、こここら、止まりやがれっ!!」
「……ぽんぽこたぬきさん」
操縦室へと繋がる通路には数人の男が群がっていた。
舞が拒否の言葉を吐くと、一声に銃声が通路に木霊する。
舞はその銃弾を全て、剣で捌くと、一人目の男に詰め寄った。
凄まじい勢いで突き出された舞の剣は男の肩を深く貫く。
うめく男を無視して発砲された銃弾を剣で宙に弾くと、銃弾は天井を貫いた。
ひゅうっと、上空の冷たい風があたりに流れ込む、が、この場はお構いなしだ、先程の男から小銃を奪い、何の躊躇もなく自分へと銃口を向ける男向かって突進した。
狭い通路、舞はジリジリと男達を端に押し寄せていく。
それに気付かず男達は弾が切れるまで連射し続ける。
その間、さすがの舞も左肩に被弾したが、その程度ですめば幸いだろう。
舞は片手に抱えた銃の使い方など知らない。
もっとも知っていても発砲する気などないのだろう。
「……」
ガツンッと凄まじい勢いで小銃の角が男達の頚椎を直撃する。
酷い嗚咽の声が漏れるも、暫く黙ってもらえればそれでよし、
といわんばかりにその男達の銃も取り上げ、
計7丁の小銃を携え、舞は操縦室にむかった。
「こここらっ、さっさと引き返せっていってんだろうがっ!」
「む、無理ですっ、私共はお客様をお客様を安全かつ時間内に目的地に連れて行くって役目が
あるんです、だから――」
「ああっ、たくっ、とと、とにかくさっさと離陸させろぉ〜、わたしに下を見せるなぁ!!」
舞は操縦室のドアに聞き耳を立てていた。
荒れている、すっごく……。 中にいるのは操縦士2人と声から女が1人どうやら、この女がこのハイジャックの主犯らしい。
舞は一度深い溜息をつくと、ドアをスライドさせた。
「着たわね、川澄 舞」
「……」
短いブロンズヘアの彼女は冷静な態度で舞を迎える。
聞き耳を立てていたときとは豪い違いに舞は彼女の性格の一端を見た。
なんだか悪い子ではない、そんな哀れみすら感じられる彼女に舞は容赦なく詰め寄る。
機長と、副機長はその鮮やかな身のこなしに嘆息した。
それは女も同じだ。 そもそも肝が小さすぎる彼女などに舞が打倒できるはずがない。
「――ごめん」
僅かに涙腺を潤ませた舞、明らかな同情を他所に、舞の肘は無関係、即頭部を打ち付けると、軽く横にふっとんだ。
「……、きゅう」
「ふぅ」
どこか虚しさを残しつつ、川澄 舞はその場の男2人に拍手されると、僅かに照れた。 アナウンスが流れる。
もちろん航空機の安全が確保された報告をするためだ。
今頃、あの町にもこのニュースが流れているかもしれない……。
頬を滴る血を拭おうと手を上げると、舞はようやく左肩の痛みに気付いた。
/2
淡いブロンズの髪の青年の髪は少し、特徴的だ。
どうして、と聞かれるよりも見たほうが早い。
百聞は一見に如かずとはまさにこのこと……くせっけのある髪の青年、北川
潤ははにかみを浮かべると、自宅へと向かった。
「ただいま……、シエル」
「おかえりなさい、給料泥棒の北川」
「……」
頬にガーゼを貼り付けた彼女は先日祐一と争った僧衣の女性だった。
シエルは笑顔とは裏腹に潤に毒を吐く。
と、いうのも、自分の同じ教会の人間である、潤が働きもしないのに、今だ、この町で安穏暮らしている、という話を潤自信から聞いたからだ。
「はぁ、それが、助けたやった人間に言う言葉か?」
「わたしは、一度も助けなど望んだ覚えはありません」
「ったく、素直じゃないな〜、相沢ならもう少し感謝するぜ?」
「……あんな男と一緒にしないで下さい」
シエルは不満そうに眉をひそめる。
48の王とかいう祐一の2つ名以前にとどめにセクハラ的の所為がその嫌悪の原因らしい。
もっとも、祐一もそれくらいわかってやっているのだから性質が悪いかも知れない。
「とにかく、世話になりました、わたしはこれで失礼しますっ!!」
シエルは玄関を早足で飛び出すと、わざわざ足音をたてて帰っていった。
「やれやれ」
くしゃっと頭をかきながら、浮かぶ潤の顔はどこか皮肉が篭っていた。
「はぁ、ったく、性質の悪い部下をもつとやだねェ……」
ようやく玄関にあがると、潤はキッチンへと向かう。
キッチンには茹でかけのレトルトカレーが1袋……。
シエルがやったのだろう。 思わず、頬が膨らむ。
「ふぅ……」
潤は心身ともに満たされると二階へと向かった。
潤の部屋は2階にある。 一軒家であるこの家は潤がその昔、どうゆう伝か、ただで借りた駅から徒歩数分という好立地に立っている。
綺麗に片付けられた部屋にゴロンっと横になると、潤は数日前の出来事を思い出した。
その日も良く晴れていた。 学生でもなく、働いてもいない彼はいわば仕送りで生活するダメ人間、といったところだ。
先日は、よなよな町を徘徊し、死徒をこっそり狩ったりと、人目につかないようにシエルの手助けをしてやる、など先輩顔もみせるのだが、そういう時に限ってシエルはその場にいない。
これでは、給料泥棒呼ばわりされても仕方のない。
本人はそれでもいいらしいが――。
公園で読書に耽っていた潤の肩を1人の青年が叩いた。
聞けば、何度も声をかけたが、答えがなかったらしい。
眼鏡をかけた、最近の若者っぽくない黒い、大雑把な切り口の髪の青年は自分のことを遠野
志貴、と言っていた。
――ホント、変な男だったな。
普通、といえば普通なのだ。 ただ、普通とは言いがたい、そんな気配を醸し出す、何とも興味深い志貴に潤は虜となった。
別に怪しい意味じゃあない。単に色々面白い人生譚でも語ってくれそうだ、とか、三文小説よりおもしろい嘘吹き、そんなものをあくまで期待したに過ぎないのだ。
だが、それは過剰な期待。 志貴は単刀に用件を言った。
「その、申し上げにくいんだけど、秋葉……、あっ、俺の妹が北川さんに是非晩餐会に出席してもらいたい、
ていうんだ。 どうする?」
「はっ? 晩餐会? 俺、その秋葉ちゃんと交わった事は愚か、キスしたことも……あっ、名前ならなんとか」
「前述二つならちょっと話が聞きたいけど、……、本当に何もないよな」
「ない」
訝しげな目で見る志貴にあっさりそう答えた。
自分とはまったく縁の無いものだ。 思わず、
「理由は、なんだ?」
「――、俺も知らない。 秋葉に、ていうのが嫌なら、俺の頼み、てことで、……だめか?」
「志貴、と言ったな。 夜は暇だ、最近はな」
潤が了承の意を込めた自慢のスマイルを浮かべると、
志貴はほっと胸を撫で下ろす。
どこか、温かみの篭った目で潤はその姿を見据えた。
他人のために無理をした、かつての誰かさんとその姿がシンクロしたのかもしれない。
――ただのシスコンかも、っていうのはその後思ったこと。
――はっと目を覚ますと、日が暮れていた。
……、やれやれ。
今日は一体何度この顔をするんだろう、と潤は自嘲じみた苦笑いをうかべる。
うっすら寝ぼけた視線にまっさきに飛び込んできたのは壁掛けてあるナイフだった。
”4” と荒々しく掘り込まれたそのナイフは2丁、教会支給のもので、今では潤のれっきとした私物だ。それが目に入る日は、必要になる日が4日以内に近づいていることを自然と暗示している――、らしい。
かつて、そんなことを上司から聞いた。
「また、かよ」
それも、潤の宿命、逃れる事の出来ない。
重い腰を持ち上げると、渇いた唇で軽くナイフの片割れにキスをする。
――久しぶりに旧友に電話がしたくなった。
バカやってた頃――高校時代の友だ。
名前は美坂 香里。 俺と美坂は卒業までずっと、友達って奴だった。
よくあるあれだ、仲のいい男友達。
その程度にしか見られていなかったんだろう。
俺がこの町に残っているのももしかしたらそれが心残りだからかもしれない。
俺は美坂が好きだ。 多分、今でも。
あいつは先日まで、妹の栞ちゃんとここよりももっと雪の降る国を旅行とかいって3ヶ月も旅していたらしい。
たいそうな者だ。
どこほっつきまわってるか解らないから、連絡もかけようがないが、何となく話がしたい。
ほんと、主にすがるつもりで俺は電話を掛けた。
/おまけ
アルクェイドとあゆ、そして、もう1人、長いかなりボリュームのある髪を二つに編んだ白衣の女性、里村
茜は苦悶の叫びを上げる。
祐一の姿を各々違う表情で見やった。
祐一の居住地より、4駅ほど電車で行った御音市の表向き開業医、というかなり怪しい研究所は本日都合により休業、そう立てかけられている。
そこは里村 茜という聖刻を唯一体現できるアーティストの自宅なのだ。
ほぼ一日をかけて、祐一の聖刻02はあゆのプログラミングに基づいて、茜によって新しく描き直される。
真夜中、麻酔が切れた頃、その激痛はピークに達する。
誰も、手を差し出さない。 それが暗黙のルールだった。
「相沢、そろそろいいですか?」
それにもかかわらず、茜は祐一にそう促した。
テストプレイをするのだ。 デバックが終わっても、試さなくては意味が無い。
あえて激痛が発する時にやるのは、多分、茜の嫌がらせだろうが、知らぬが仏、と言ったところ。
「の、望む、ところだ」
「では、庭に出てください。 すでに準備はできています」
祐一は右手を赤を基調にした聖刻02の描かれた右腕をダランッとぶら下げ、歩き出す。
おぼつかない足取りで・・・
あとがき
生まれて初めて集中してかけました。
ONEキャラはこれで打ち切りかもしれません。
気が向いたら七瀬でもだす、かも知れません。
じかいは聖刻02のテスト+アルファです。
1/6少し追加 加筆修正です。
感想とかもらえると嬉しいです。
とっぷ