けだるい。

 ぶぅーーーんっと流れて行く飛行機雲をみて、真琴はそう感じた。

 美汐の家に遊びに来たはいいのだが、美汐はどうやらテスト前で忙しいらしく、
 真琴はおいてけぼりを喰らっている。

 初夏だというのに、折角新調した水着を用意したというのに――これだ。


――あーあ、ついてないなぁ。


 自分の退屈さ、美汐がだしてくれたウーロン茶、流れの速い空。

 みんな、真琴のついてないを総括したような存在に感じてしまう。





 悲運の少女! 沢渡 真琴(年齢不詳)の暇を持て余した昼下がりは憂鬱そのものである。
 夏休みが近づくにつれ、アルバイト先の保育園は休みが多くなる。
 
 話す話は海外に旅行にでかける、とか食中毒の話。
 子供だというのにませているなぁ……つくづく思いながらも子供達は概ねかわいい。
 自分になついてくれる――。


 そんなある日のことだ。

 一足さきに祖父の家へと遊びに出かけた子供が、
 川に溺れて死んだ、という連絡が真琴の耳に飛び込んできた。 

 視界は暗転、何がどういうことだか解らない。

――だって、まだ節句も終わっていない子供よっ!?

 宥める祐一にも、あゆにも名雪にも、そして、母である秋子にも真琴はきつく当たった。
 まるで自分の片割が死んでしまったかのように隙間風が初夏を流れた。

 やりきれない怒り――なんて虚しいのかしら。
 初めて、真琴は人の死、について受け入れてしまうのは悔しかった。

 自分には何もできなかったことを悔やむのはなんておろかなことだろう。
 


 漫画のキャラクターのような生き方はかっこいい、と思う。
 真琴は当然あこがれている。

 でも、彼らは思ったとおりにしか動いてくれない偶像なんだ。 娯楽の欠片なんだ。

――死んだ、あの子も、漫画の一キャラクターみたいになっちゃうっ。

 秋子に抱きしめられた時、たどり着いたのは漠然とした堪え。
 だけど、真琴は泣かなかった。

 無く資格は自分には無いと思ったから。

 告別式にだけ真琴は出席する。
 
 秋子にそろえてもらっていた黒い衣装がこんなときに役にたつなんて凄く皮肉だ。

 写真たてに置かれた少女の顔はあどけない微笑みで一杯だった。

――・・・・・・。








 そんな涙が汗に変わったのだ。
 そう、今、美汐の家で真琴は思っていた。

 美汐は相変わらず教科書と参考書を交互に睨めっこしている。
 あぅ〜と、真琴が消沈の息をもらしたってお構い無しにモクモクモクモクモクモク……。

「ねぇ〜、美汐〜?」

「何です? 真琴」

「プール行こうよ〜、プール〜♪」

「……」

 はぁー。

 解っているのだけど、確認したい美汐の存在。

 寂しさなんてないのだが、30分に一度は美汐の名前を呼んでいた。
 美汐が応えてくれるのはたとて溜息だって嬉しい。

 だって、――だってなのだ。

 真琴はここに居るだけの孤独はさらさらゴメンだから、美汐を求める。
 居なかったら心底不安になる。

「み し お プール行こうよ?」

「だめだって行ったでしょう? 真琴……ほら、ブラ見えてますよ?
 はしたない」

「あ、あぅ、いいのよ! これは見せブラっていうの〜」

「ふぅんっ、相沢さんに見せるんですか?」

 ……ぼんっ!

――ううーろんちゃーーーー!!!

 ごくごく……。 美汐の爆弾発言だ。 真琴はぼんぼんそれこそ活火山みたいに顔を真っ赤にして、
 大慌て、何言っているの!?美汐。 いつからそんなにあざとく〜〜〜。

 

 コップ一杯では物足りない気がしたが全て飲み干して真琴は全身をクールダウンに努めた。

 かたっ、とシャーペンを置いて、美汐はにこりっ、と微笑んでいる。

「真琴?」

「あぅっ――」

「ふふ、相沢さんに頼まれたんですよ。 真琴の性格を何とかしてもらいたいって。
 そぅ、素直になれば相沢さんともっと友好的に付き合えると思うんですけど」

「ちょ、ちょっとタンマ! どうして、美汐が祐一に頼まれるのよぅ!」

「えっ? 掃除区域が一緒なんですよ、学校の」

 それはそれはしれっとした口調でそういうと、また、シャーペンを握った。

 してやられた。 ぐむむむ――歯がゆいぃ。

 
 祐一の顔を思い浮かべると、いつも、自分をからかう時の無邪気な笑顔が浮かんでくる。

 だが、最近、祐一とは話していない。
 くだんの少女の事故でいろいろ忙しかったからその忙しさと、堪らない気持ちで、
 あの夜、祐一にやつあたりをしていらい話なんてまともにできなかった――。

「ねぇ、美汐?」

「はぃ? なんですか? 真琴」

 ……何だか勝ち誇ったような口調で美汐は言う。
 何を聞くか解っているのだろうか??

――多分解っているんだろうなぁ、美汐あたまいいから。

「そのテストが終わったら、学校は休みなの?」

「相沢さんは受験生ですから、そうですね、夏休みは忙しいと思いますよ?」

 見透かされたき持ちより、今の美汐の発言後半は重要だ。
 忙しい――ただでさえ、今を持て余している自分にこれ以上の退屈さを提供してくれるのだろうか?
 夏は。

「――それって、すっごくツマラナイ予感がするわよぅ」

 






「あの、わたしが居ますよ?」

 あっ――。

「ついでに言ってしまえば、栞さんもお姉さんの都合上死ぬほど暇でしょうし」


――夏、か。

「プールに行きましょう」

「うんっ」

「少し足をのばして軽井沢にもいきませんか? 知り合いが居るんです」

「ええっ!?」

「――図書館で読書でも構いませんよ?」

「あぅ〜」

「相沢さんとずっと一緒に居られるかもしれません」

「!!!!!!!!!」

「さて、真琴? どう過しますか? 今年の夏は?」

「あ、あぅー♪」

 楽しそうで、そのせいで、目が回ってしまいそう。
 そんな予感は確実に真琴の心をくすぐっていった。
  
 
   




 真琴の初めての夏休みは近い。



 

 


あとがき

 事故はつきものな夏休み―死亡事故だって起きるかもしれません。
 でも、真琴は感受性がつよい半面で自分資本な感じをアクセントにおいて作ってみました。

 どんな大きい事でも、自分のことを優先してしまう――これはそんな話です。





 ばっく