月宮 あゆはまだサンタクロースを信じてた。
そーんなことを平然と祐一と会話の間に話してしまったのは、まぁことの成り行き。
「近いな、クリスマス」
なーんて祐一が言い出すからだ。
においのある台詞ではないかッ!
で、……2人はコイビト? とんでもない.
祐一は恋愛思考には興味がない。 そして彼女たちも恋愛を意識しない。
このSSはそういうお話なのだ。 わかってくれ。
泡和さんは恋愛ネタは読むのは好きだが書くのは2の字なのだ……。
楽しくやる! それがこの話のわからんちーんなひとつのテーマ。
あわてんぼうのサンタクロース。 (前編)
水瀬 名雪は形容しがたい怒りからか学校から帰ってくるなりぷんぷんっ!
とただいまの挨拶もそこそこに部屋に閉じこもっていた。
祐一が悪い。 みーんな祐一が悪い。 名雪は当たり前のようにそう思う。
だが、名雪にしてみても昨日の祐一の態度は最悪の一言で片付けたくなるくらいに酷い有様だった。
”祐一はどこかで自分や彼女たちを裏切らない”――まるで呪文のように決め付けていた節があった。
そんな名雪にしてみれば昨日の態度は青天の霹靂の言葉どおり稲妻が頭上にどんぴしゃりと叩きつけられた気分だったことは想像に容易だ。
だが。
「祐一」
それでも名雪は信じている。 祐一が自分の部屋のドアを叩いてごめんね、と一言言ってくれることを。
部活もそこそこに、名雪はこうして部屋に閉じこもるのはそういう可愛らしい一面が見え隠れしているからだった。
あくまで従兄弟という感覚で信じるというのはとても難しい解釈かもしれない。
だが、名雪にしてみれば少ない血の繋がった肉親であることに祐一は変わりないのだ。
ただ、ゆっくりと時間が過ぎるのをまつ。
無論表情はぷんぷんっ! と怒ったままだけれど・・・・。
「……く〜」
祐一は下校時刻を過ぎても帰ってこなかった。
一体何処で寄り道をしているのだろうか?
次第につのるいらいらいらいらいらいら……とした名雪の気持ちのわだかまり。
矛先はまくら兼抱きぬいぐるみのけろぴーへと向けられるのだからけろぴーもたまったものではない。
意思があったら窓を突き破って”I am free!!”とかのたまって逃げてしまうことだろう。
生憎都合よくないのでそれはないが。
かくして名雪はけろぴーをぎゅぎゅっ、と抱きしめてべっどにダイブした。
ぎしっ、とベッドを軋ませたのは名雪が全体重を乗っけてベッドにダイブしたからだ。
「おそいよー。 祐一のばかー」
呟いても相手は居ない。 昨日はここで祐一と宿題をしたかな、他愛もない雑談をしながら・・・・・。
気がつけば名雪は浅い眠りへと埋没しきっていた。
がちゃり。
ドアノブが回った。 近所のコンビニで名雪が非常にこよなく恒久の愛を誓ったイチゴ牛乳(105円)を数個買った祐一は髪の毛をくしゃっと掻き揚げた。
「はぁ――せっかく謝ろうと思って帰ってきたのに。
なに寝てるんだ? こいつはよッ」
とかいいつつ、ビニール袋を手近なテーブルにすとんっ、と落とす祐一。
名雪の無防備な心地良さそうな寝顔に罪はない。
祐一は近づきつつ、ふと微笑を零した。
「毛布くらいかけろよ、眠り姫」
だらしなく転がる毛布を拾い上げ、名雪に掛けると部屋の電源を落とし、名雪の頬をぐいっと引っ張ると祐一は自室へと向かった。
――甘い夢、名雪は思わず涎を零してしまうくらいに舌でその夢の感触を思い出し、そして味わう……。
「いちごー」
夢の中で名雪は祐一や香里たちと仲良く百花屋でお茶をしていた。
お茶、といっても名雪だけイチゴサンデーなのだが。
不思議なことにそのイチゴサンデーは食べても食べても無くならない魔法のイチゴサンデーだった。
イチゴを食べればイチゴがまだたくさんグラスの中にあって、クリームもホイップ上で柔らかくとてもおいしそうだ。
思わずかみ締めてしまう幸せ――今度百花屋へ行こうと名雪は夢の中で頷いた。
――夢から覚めると灯りがついてない薄暗い自分の部屋だったことに僅かに落胆し、名雪は肩を落とす。
夢だったんだなーという口惜しさからもう一度布団を被ってしまおうかと思った時テーブルの上に置かれたあるものに気がついてハッとした。
「あれ――?」
それは名雪が好物と言ってのけるイチゴ牛乳だったのだ。
秋子とは一緒に買い物に行かないし真琴やあゆがこういう風にたくさんイチゴ牛乳を買うなどとは思えない。
まして名雪の部屋に置くくらいなら冷蔵庫に置くだろうし――そう推測した。 結局、思い当たるのは祐一だった。
「・・・・・・・」
どうしても素直に喜べない。 といいつつ顔はにやけているんだろう。
でも気持ちが晴れなかった。 だって――。 昨日祐一と喧嘩をしたばかりだというのに祐一が素直にこういう風に自分の好きなものを買ってくれるという反応が余りにも陳腐でそれでいて心底嬉しすぎたから。
「……あれ?」
突然、目頭が熱くなった。
「欠伸、だよね」
そういえば祐一がこういうことしてくれたことが無い。
だからこそ衝動的に気持ちが昂ぶったのだろう。
バランスを崩すといつもこうだ。 どうして自分は泣き虫なんだろうな、とついつい叱咤でもしてあげたくなった。
幸いここに誰も人は居ない。
「祐一の・・・・・バカ」
壁掛けの時計が何時もの夕食の時間を指している。
ケロピーだけは名雪の涙を知っていた。
照れくささと、嬉しさの入り混じったなんとも微妙な感情をもちつつ名雪は階段を駆け下りた。
リビングには恐らく皆が待っているだろう。
――学校でも授業中うっかり眠ってしまったというのに、今だってうっかり寝てしまった・・・・・・。
ちょっと気恥ずかしい。 秋子にはなしたらきっと”困った子ね”と呆れられてしまうかもしれない・・・・・・。
困った名雪はリビングのドア一枚を挟んで思いとどまった。
このドアを開ければすごくいい気持ちでおいしく夜ご飯が食べられるはずだ。
秋子の料理はおいしいし、まず毒はない。
「うー、緊張する」
何に緊張しているのかわからない。 だけれど、名雪は生涯何度とかに緊張を味わっていた。
と、不意に、
「――お前、なにやってるんだ?」
「えっ!? わわわっ!」
後ろから声がした。 びっくりして慌てふためき、名雪は飛び上がって驚く。
後ろで祐一の溜息をはく声が聞こえた。
「なぁ、名雪、もう少し落ち着こうな」
「う、うん・・・・・・」
うっかりしりもちをついた名雪にすっと祐一は手を伸ばす。
大きな暖かい手。 例えるならばお父さんの・・・・・・。
父親という言葉を余り味わったことの無い名雪の心は複雑だった。
名雪は祐一を信頼している。 家族という解釈は正しいと思う。
だが、父親、という解釈は同年代の彼に余りにも可笑しいだろう。
「ぷっ――百面相してるぜ」
「う、うにゅ」
耳まで紅潮させ、名雪は照れた。
「あー、やれやれ、謝ろうと思って損したぜ」
「えっ?」
「ん? だってさ、俺、お前にひでーことしたじゃないか。
だからさ、謝ろう、って思ってた。 でも、お前はちっとも変わってないからなー。
がくっときたね、うん」
「うーん」
寝て、機嫌も治まったし、それに祐一はそれなりの誠意を示してくれた。
だからもういいや、と名雪は笑ってごまかす。
「じゃ、はいるべ」
「うんっ!」
今朝方の不機嫌さがウソのような名雪の変わりっぷりに隣に座っていた真琴の箸の進む速度はとってもスローモーションだった。
原因が祐一なのだから、答えも祐一になるのだろうか?
納得がいかない。
何故、真琴がこんなにイライラしたままなのに名雪が上機嫌でちょっとほっぺをピンク色に染め美味しそうにご飯を食べているのだろう。
――正直、いつもは美味しいご飯の味がわからなかった。
今日は暖かいおでんだったのに。 よく煮えた秋子特製のつゆにつくった噛めばほぐれる大根なのに。
――だからもっとイライラは募ってしまう。
(あぅ、悔しい)
「――ごちそうさま」
そういうと真琴はとぼとぼと自室へと戻っていった。
「・・・・・・真琴、元気なかったね」
「あゆにいたっては下に下りてこなかった。
ったくどうしてこう――」
「祐一、女の子って複雑なんだよ。 それでね、すっごく我侭なの。
もー、どうして解らないかなぁ?」
「――いや、俺、男の子だし」
ぽりぽり、と頬をかきつつ、祐一はそう呟いた。
「もう・・・・・・。 まぁ、そういうところが祐一のいい所なんだからなんとかなると、わたしは信じてるよ」
「ありがと」
と、なにやら穏やかなほのぼのムードをかもし出す2人を通称お誕生日席かた見つめる秋子が笑いを零した。
「良かったですね、祐一さん」
「は、はぁ。 とはいいつつも、俺だけの勝手じゃ仕方ないし。
そう友達に教わっただけです」
これ以上不安要素が増えればそのつど、美坂姉妹は祐一を屋上へ呼び出すだろう。
そろそろ寒いのだ。 わざわざ屋上に行って風に当たるなんて自殺行為に等しいし栞のことだ。雪が降っても本気で決行しそうでうんざりだ。
それに美汐――余りにも来月の請求書が悲惨だ。
「・・・・・・、と、言うわけであゆに謝りたいんですが、まずは名雪と真琴に謝ろう、と思ったんです」
「建設的ですね。 それならば母親として、私も一肌脱ぎましょうか?」
にこやかに秋子は言った。
「ありがとうございます」
「じゃあ祐一さん。 先にお風呂に入ってきてください」
「え?」
「話はそれからです」
ふぅ――すっかり湯船の心地よさに浸りきった祐一はとろんとろんの酔いしれた感覚にマヒを起こしていた。
もちろん、例え方の一例に過ぎず、かなりの大げさな言い方だ。
事実、痺れては居ない。
ただ、暢気に鼻歌でも流しつつ、ゆっくりと浸かる。
それがお風呂の流儀というものだろう? と祐一は思うのだ。
何しろこの季節、一段と寒さは厳しくなる。
受験シーズンということを念頭に置くとさらに肝まで冷やしてしまいそうなとても居心地の悪い空気があった。
「しかし、――なんだぁ? 秋子さん。 一体、なに考えてるんだろう」
お風呂に入ってくださいといったのは秋子だった。
久々の一番風呂。 いつもは最後の方でのんびり浸かるという趣旨に変化は無いのだが――今日は湯加減熱かった。
「――」
突然、祐一は視線の先に不自然な光景を目撃した。
如何せん眠ってしまいそうな状況なので夢でもみたんじゃないだろうか?
そう思ってしまうのである。
「そうだよな。 真琴が俺を覗いてくるわけないよな」
そういいつつ、不安からか股間にタオルを巻く祐一。
ちょっと間抜けだ。
「――あぅ〜〜、祐一ぃ、タオル巻いたぁ?」
「――!!!?」
ガチャ。
ドアノブが廻る。
「やめてくれ」
祐一は湯船から手を伸ばし、真琴と拮抗を試みる。
「祐一、往生際が悪いわよぉぉ!」
だが、所詮は無駄足掻きに過ぎないことを祐一は無理な体勢から思い知らされた。
ガチャリッ、と完全にドアが廻り、祐一は気恥ずかしさと動揺でぜえぜえと息を吐きつつ、顔を紅潮させた。
その一瞬、祐一の時が止まった気がする。
とは祐一本人の主観的意見に過ぎない。
「――期待した?」
「いや、北川あたりなら喜びそうだが――」
セパレーツ付きの水着を着た真琴は湯船の湯を救い、床に膝をつくと水しぶきをあげて大げさに自分にかけた。
「あぅー気持ちいい」
のこのこと祐一の伸ばした足を押しのけ、真琴は半分を占領しだす。
ようやく、祐一は秋子のしでかしたことを理解した。
「――はぁ、ごめんな、真琴」
「?」
何はともあれ不思議そうにこちらを見る真琴に祐一は落ち着きを払うと目を瞑り、謝った。
毒だ。 目を開けると、真琴の谷間が見えてしまう。
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