話は数日前にさかのぼる。



 その日、舞と佐祐理さん他、三年生の卒業式が行われた。

 まぁ、こういう日は俺のような他学年の生徒はお休みなんだが、舞や佐祐理さんとなれば話は別だ。

 で、家で勉強とか嘯いていた北川を拉致し、俺は卒業式に参列した。

 

 その後の話だ。

 
 昼すぎ、なだれ込むようにして俺達は舞と佐祐理さんを連れて百花屋に向かった。

 その日の百花屋は卒業生達でほぼ満席状態だった。

 ようやく席に座った俺達、思い出話に花が咲いて、しばらくたった頃――

 「祐一さん、1つお聞きしていいですかー?」

 「んっ、佐祐理さん、どうぞ?」

 俺は昼食に頼んだスパゲティーをフォークで巻きながらいった。

 


  

 「祐一さんって女好きなんですかー?」


 「ぷっ」

 「・・・・・・・・っ」

 北川が吹き出した。まだ、それなら解るさ。舞まで抱腹してるっていうのは一体、何事だ?

 取りあえず誤解を解かなければ……。

 「違う、断じて。その、たまたまだ」

 「あははーっ、水瀬さんも月宮さんも沢渡さんも美坂さんも舞もわたしもたまたまだったんですかー」

 「ああっ、そうだっ!」

 俺はやや声を強めて言ってやった。

 俺がここに来てからの思い出話、となるとこれくらいしか思い出せない。

 そう、たまたま偶然が重なって女性関係の関わりが多かったただそれだけだ……。

 「違うなっ 」

 「はっ?」

 「相沢、多分それ、違うと思うぞ、俺」

 「き、北川?」

 「はちみつくまさん、私も祐一もそう思う」

 「ま、舞?」

 「はぇ〜、舞もなんですか?」

 「えっ?」

 ドウイウコトダロウ。


 「――相沢、俺はこう言いたい。お前は女難だ。……いろんな意味で」

 
 
  その時は北川――というかその場の皆の意見は俺には不服だった。

  

 カノエア!
 
 第1話 

 
  

 リビングに入るとまず目に付いたのは、黄金色のさわり心地の良さそうな髪をポニーテールにした少女だった。

 「あっ、こんにちは」

 「―――」

 「にはは、こんにちはー」

 「―――」

 目があった。

 思わずじーっと見入ってしまう。それは半ば警戒心みたいなものだった。

 「わっ、祐一君が観鈴ちゃんに見とれて固まってるっ!」

 「ゆーいちー、真琴のせんせーに手を出すなー」

 騒がしい、だが、あゆと真琴の乱入により俺はようやくこの、美鈴、という少女の存在を把握した。

 ひょいっと真琴の軽いストレートを流すと、おまけでチョップでこつんっと真琴の頭に触れた。

 「あう〜っ、祐一、やったわねっ!」
 
 火に油だったか?

 「ったく、調子に乗るなって、ところで、あゆ、そちらは――」

 「あっ、祐一君、この子がさっき話た神尾観鈴さんだよ」
 
 取りあえず、ぶんぶんと手をぶん回している真琴の頭を押さえる。
 
 そんな俺を観鈴は興味深そうに眺めていた。

 「何かついてるか?」

 「えっ?いえ、何にも」

 「―――そっか、で、美鈴、俺は相沢祐一だ。相沢さんとでも祐一とでも適当に呼んでくれ」

 「にはは、じゃあ、祐一さん、改めてこんにちは」

 「ああっ」

 良く笑う子だな、というのが美鈴の第一印象で、それが俺に親近感と、僅かばかりの不信感を与える。

 まぁ、それはよしとして、いい加減疲れている真琴を放してやった。

 「はぁ、はぁ、祐一、覚えてなさいよっ!」




 「真琴、何が覚えておきなさい、なのかな?お姉ちゃん……そういう言葉嫌いだっていったでしょ?」

 「な、名雪――おねえちゃん」

 すっかりお姉さん顔の名雪は、リビングに入ってくるなり真琴にそう言った。

 最近、急に真琴、という義理の妹ができた事が余程嬉しいらしく、一人っ子だった反動からか真琴に関しては

 相当お姉さん気取りな名雪。

 よく、寝る前に俺に”真琴の前ではしっかりするよー”みたいな事を言ってからベッドにはいるようになった。

――無理だな。俺はそう思っていた。

 良くわからないがその効果が現れてきたらしい。真琴は名雪に順従。

 概ね成功、名雪は結構満足しているが……

 真琴、結構怯えてるようにすら俺は見えるが。


 
 「あらあら、こんなところに集まっていたの?」

 そんな時、その雰囲気を懐柔させるかのようにこの家の主、秋子さんがやってきた。

 「あっ、お母さん」

 「ただいま、秋子さん」

 「お帰りなさい、名雪、祐一さん。――真琴、だめでしょ?お鍋ほったらかしのままいっちゃ」

 「あっ!」

 「大丈夫です。でも、気を付けてくださいね。
 観鈴ちゃん、名雪、手が空いてるなら料理の手伝いして欲しいですが……」

 「わかったよ、お母さん」

 「にはは、了解」

 「あぅ〜、おかあさん、真琴は?」

 「ええっ、ゆで卵の殻むき手伝う?」

 「うんっ!」


 
 
 
 


 さて、そんな名雪達を尻目に、あゆは1人ソファーでニュースを見ながらタイ焼きを食べていた。

 ちなみに真琴と名雪、観鈴は秋子さんの料理を手伝いに向かった。

さっき真琴が観鈴の事を”先生”と呼んでいたのは、どうやら料理のことらしい。

何やら向こうから女勢4人の楽しそうな話し声が聴こえて解った。


 「で、だ」

 「うぐぅ?」

 「何で、お前は料理に参加しないんだ?」

 「―――、知りたい?」

 「訳ありか」

 「うんっ、すっごく」

 是非聞きたい。……でも、なんとなく答えは出ているような気がした。

 俺は以前同じように1人ここで、まさにこれくらいの時間に同様のことをしているあゆを見た事があったから。

 「ボク、真琴ちゃんに追い出されちゃったんだよ」

 「―――」

 言葉も無かった。何ていってやったらいいんだ?こういう場合。

 まぁ、感想は――やっぱり。なんだが。

 「祐一君?」
 
 「ああっ、残念だったな」

 「うぐぅ…。このままじゃ、真琴ちゃんと差が開く一方だよ。何かこうせーてんの霹靂みたいなことでも起きないかなぁ?」

 「ああっ、いっそ天地崩落ぐらいのことが起これば――あるいわ」

 「それじゃあ余計に広がっちゃうじゃないかっ!」

 「ったく、それなら何で秋子さんに言わないんだよ」

 「うぐっ…、そ、それは」

 
 

 「あゆさん」

 「あれっ?観鈴さん?」

 「はいっ」

 美鈴はあゆに自分のつけていたエプロンを渡す。

 その光景は俺にとってすっごく斬新だった。

 それはあゆにも同じらしい。あゆは暫く予想外の展開に硬直していた。

 「あっ、あれ、だって美鈴さんは料理の手伝いを――」

 「わたしはもう十分手伝ったよ。だから今度はあゆさんに手伝って欲しいな」

 「っ!!」

 今、あゆの目はまばゆく輝いた。

 「喜んでっ!」

 あゆはエプロンをつけると早足でキッチンへと向かっていった。

 

 「観鈴…ちゃんって面白い奴だな」

 「無理しなくていいです。わたし、祐一さんがいない間、あゆさんと真琴ちゃん、それに秋子さんまで
 みーんな、祐一さんの話題ばっかりしてた」
 
 「だろうなー」
  
 そりゃ、休日はあいつ等や秋子さんと何かしらしてる事が多いし、まっ、話の種ぐらいには丁度いいかも知れない。

 まっ、真琴あたりは愚痴だろがさ…。

 「で、観鈴は実際の俺を見てどう思ったわけ?」

 「お、面白い人?かな」

 「面白いねーっ」

 「が、がお…、不味かったですか?」

 「いーや、別に。それより、美鈴は再開発区に越してきたんだよな」

 「はいっ。わたし、ちょっと前の学校でヘマやっちゃって――それがちょっと問題になって、
 それで、こっちに越してきたんです」

 ヘマねぇ……、まぁ、色々あるんだな。こんな子にも。

 なんかここだけ空気が重くなりそうだ。話題を変えよう。

 「そういえばさっ、あそこって臨海都市をイメージして作ったんだってな」

 「うんっ。わたし、もともと海の近くに住んでたから……」

 なんだか余計、場の雰囲気が重くなった気がする。

 だめだ、初対面の子に率直な質問は不味いだろうし……話題が尽きた。

 「祐一さんって、春休みの課題とかどうするんだすか?」

 「――えっ?」

 「春休みの課題、どうするんですか?」

 「ああっ、最後の日にでも……」
    
 「―――」

 何やら観鈴が思慮に耽っている。
 
 俺、何か不味い事でも言っただろうか?さすがにこれは大丈夫だと思ったんだが。

 「じゃあ――

 

 「ゆーいちー、観鈴ちゃーん、ご飯できたよー」

 「ああっ、今行く」

 「がお……」
 
 その時の美鈴のがっかりしたような声が聴こえたような気がした。 

 
 
 夕食時、余程自分が作ったのが嬉しかったのだろう。

 あゆは自分の切った野菜を盛り付けしたちょっとバランスの悪いサラダを得意げに俺に薦めてきた。

 それに乗じて真琴も何やらやたらイビツなゆで卵を俺に突き出すし……
……悪乗りして秋子さんまで俺に自作のてんぷらを薦めてきた。

 名雪は――我慢している。真琴と同じことをしては姉として示しがつかないと思ったらしい。

――少し反省だな、こりゃっ。

 

 夕食が済んで、1人、皿洗いをしている。
 
 働かざるもの食うべからず、と秋子さんも言っていたし、俺もこの家の一員だ。

 そういえば、明日から、みんな旅行に行ってしまうんだった。

 こういう日常がしばらくお預けかー。

 まっ、北川の家に泊まりに行ってもいいし、数日の間のことだ。そう、数日の。

 「はぁ、ったく、この家はどうして俺をセンチな気分にさせるかなー」

 「センチ?祐一さんもそういう気分になるんですか?」

 「のわっ!み、観鈴か」

 「にはは、どうしたの?祐一さん」

 「あっ、あの、今のは秋子さんや名雪には内緒だからな。
 てか、お前何のようだ?」

 「祐一さんが遅いから手伝いに来たの」

 「ほぅ、奇特なことをするなぁ」

 「――ちょっと違うかも」

 「まっ、今日は小皿が多かったから手こずってたんだ。頼む」

 「了解っ!」

 

 今日は観鈴は家に泊まるらしい。それって客、て言えるのか?
 
 なんか微妙なところだ。

 

 

 明日から春休み。能天気な俺はのんびりと過させてもらう。

 香里あたりに言ったら文句の1つでも帰ってくるだろうが
……なんつうか、今、そんな事考えられないくらい眠い。

 


 第2話


 

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