銭湯に行く話 後編 華音町紀行前編 華音町紀行後編 霧島さんちの家庭の事情前編
朝方のカノエア〜 ごく、怠惰な一部 思い出回廊 帰宅 夢と肉まん アウトレットモールあるいは夢の続き
名雪の失敗 誤解されました。 霧島さんちの家庭の事情後編 病院へ言った日 病院その後 A DAY
最終回 結局 作者は何がしたかったのか。 それは読んでくれた皆さんに理解してもらおうと言うのはご都合主義すぎではなかろうか?
「祐一くん、お帰り〜」
「おう、ただいまな、あゆ」
「うん――あ、北川くんもこんにちわ」
にこり、と北川にあゆは笑いかけると心なし北川の表情が緩んだ。
ときめいたか?
「――やけに静かだな……おい、あゆ、みんなはどうした?」
「真琴ちゃんは名雪さんに拉致されて部活、秋子さんはさっきまでボクと買い物に行っていて……今疲れて眠っちゃてる」
「ほう」
秋子さんもやっぱり休みということで仕事とは別の疲れが溜まってるんだろうなぁ〜。
俺は軽く顎の辺りに手を当て、秋子さんの顔を思い浮かべてみた。
あの人、いっつもにこにこしてるから解らないんだけど――そりゃたまに厳しいけど。
春休み、旅行だけじゃなくって色々な雑務で名雪たちに付き合っていたし思ったより無理も祟るのかもしれない。
「そっとしておこう――で、あゆ、おまえは暇?」
「うんっ! ボクは家事手伝いだからね」
「むぅっ〜、それは自慢できる事ではなかろう」
「はは、まったくだ。 月宮さん、余り相沢に合わせるなって。
すーぐ調子に乗るから」
「そうだね。 うん」
あゆは頷く。
「ちぇっ。 まぁ、いいさ。 さ、上がれ北川。
水くらいだしてやるぜ」
「それじゃ、ボクがクッキー焼いてあげる」
「やめろ」
窓を全開にして風をいれると少し強めの2階の風がカーテンを揺らす。
「フフフッ、相沢、さすが揃えがいいな」
といいつつ、ベッドの下に収めた俺のえっちい写真集を北川が喜悦気味に眺めていた。
「ちゃんと元に戻せよ?」
「合点承知」
サムズアップをする北川から視線を逸らし、俺は机に向った。
別にどうってことないが真琴の部屋から奪ってきた雑誌を読んでいるのだ。
もう少しで、これも読み終わる。
春休みも終わる……。
ちょっと憂鬱だ。 ――次第に空は橙色に染まっていった。
「おい、相沢」
「なんだ?」
首だけ振り返った俺に北川は微苦笑を浮かべる。
「おまえ、春休みが恋しいからってポエムを言うなって」
「はぁ?」
「喋ってたぞ? 今」
「……そうか」
それほどまでに、俺は感傷的になっていたってことなのだろうか?
まったく俺ってば仕方が無い。
今更弁解の余地などないな。 俺はなんとなく北川をじーっと見つめた。
「……解った。 俺が悪かったよ」
と、数分後北川が俺に謝る。
「じゃあな、相沢」
「じゃ、またな」
北川はどうでもいいような足取りで歩いて行く……。
フラフラー、と疲労困憊で覆われたおぼつかない足取りの真琴は今北川の挨拶を無視した。
北川が振り返り、真琴をみる……数秒。
軽く頭をかき、にっと口もとを釣り上げ、踵を返すことなく真っ直ぐにまたアイツは歩き出した。
「ただいま〜〜〜〜〜〜〜〜」
真琴が床に伏した音が2階まで聞こえる。
――あゆだけじゃ支えられないだろうなぁ。
やれやれ。
俺は下へと向った。
「どーしたんだー、真琴ー、生きてるか?」
「うぐぅ、祐一くん真琴ちゃんをからかわないでよ」
「あぅ〜、あゆ、あたしが動けないからってお姉さん気取りするな」
きゅうううう〜……と情けない消沈ップリ。
思わず溜息すら漏れてしまう。 一体名雪は真琴をどう扱ったんだろうか?
こいつ、一応もと野生動物だぞ? 人間の何倍スタミナがあると思ってるんだ?
夜中にこっそりつまみ食いをするような奴なのに。
たまに夜行性だというのに。
「とにかく、祐一くんありがとう。 ボク1人じゃ真琴ちゃんを運べないもん」
「当たり前だ。 逃げ足以外は人並みなんだしな」
「そ、そんなことないもん!」
頭かんかんに怒ったのかあゆは頬を膨らませ俺をキッと睨む。
「ははっ、ま、さておき真琴を運ぼうぜ。 ちょっと水やった方が良さそうだ」
俺は脚を、もち、あゆは頭を抱え、真琴を運ぶことにした。
「ところで、秋子さん起きたのか?」
「とっくだよ。 さっき買い物に出かけたし」
「ふーん。 じゃ、ソファーに運んで問題ないな」
猫はコタツで丸くなる、ってよくいうのだが……。
「狐はソファーで背伸びする、ていうことか?
あゆ」
ドスッ、とあゆの肘鉄が俺の鳩尾に入った。
「祐一くん、なんて失礼な事をいうのっ! 真琴ちゃんはヒトだよ」
「むぅっ……」
ちょっと失言だったな、と俺は顔を歪める。
「スマン」
「もぅっ……ボクに誤っても意味ないってば。
――フフッ、かわいーい」
寝返りをうった真琴、ソファーに肘をつきあゆはそんな真琴を眺めていた。
――やれやれ。
こういうときくらい俺はお邪魔した方が良さそうだ。
警戒心が無い様に見えてすっごく険しい真琴。
その真琴があゆに無防備を許している、っていうのはなんかおかしかった。
でも、それだけ信頼されてるってことだろうか?
この前、俺が同じことしたらバって目を見開いた時にはさすがに沈黙したっけ。
――ちょっとマジックで落書きしようと思っただけなのに。
俺は極力、足音を立てないよう息を殺しリビングを後にした。
今、散歩がてらぶらつけば秋子さんに会えるかもしれない。
そしたら荷物持つの手伝ってあげよう。 5人分の食事だ。
ましてや成長期。
それを1人で持って変えるっていうんだから頭が下がるのだ……という携帯買ったんだから、たまには呼び出してくれてもいいんだぜ。
その辺、距離をおいているのがちょっと気持ち複雑かもしれない。
秋子さんに限らず、普通はそうなのだろうなぁ。
俺はそんな思いに耐え切れず家を出た。
「あれ、祐一だよ〜、どこいくの?」
「…………」
玄関で従姉妹、名雪に鉢合わせた。
理由はもちろんこっぱずかしくて言えない。
だが、中に今入れば、下手すれば幸せ一杯なあゆの平和を崩しかねない。
――う〜〜〜ん。
「ん〜〜〜」
「祐一、なに悩んでるか知らないけど丁度良かったよ」
「えっ?」
「お母さんのところ行こっ」
ジャージ姿の名雪、ちょっと汗のにおいと、それを打ち消すためのスプレーのレモンの香り。
名雪の手は汗がちょっと滲んでてじわっと俺の手を包み込むみたいに温かかった。
「……この表現、微妙だな」
「? なにいってるの? さ、行こう。 夜ご飯が待ってるよー」
「ったく、色気より食い気ってか? そんなことだともてないぞ?」
「いいよっ、わたしは今のままでも」
満面の笑みを浮かべ名雪は俺の手をぐいっと引っ張った。
当然その手にはすごく力が篭っているわけで……。
「全力ダーッシュだよ、祐一、明日から学校だねー」
「っっっっ……ごめんなさい」
「もうおそいよ〜」
なまりきった俺の体を鞭打つように名雪は俺を掴んだまま走り出した。
「……」
「どうかした?」
突然、名雪は走るのを止めた、かと思うと体を曲げ息を荒げる運動不足な俺に笑いかけた。
不意なことに俺は見当もつかず思わず尋ねる。
「もうっ――……。
祐一とこうやって歩くの久しぶりだね」
「あぁ――終業式以来だったっけな、そう言えば」
よっと俺は背筋を伸ばし、軽く背中を叩いた。
「うんっ、たまにはこうして歩くのもいいよねぇー」
「んー、まっ、そうだな」
確かに、――といえばそうだ。
気心知れた名雪とならこうして歩いていても何も意識する事も無い。
ま、あゆや真琴もほぼ同義だけど。
従姉妹、という関係はある意味丁度いいのかもしれない。
仮に妹だったとしたらこういう風に仲良くなんてこっぱずかしいだろう。
何時もこの距離はとても黄金率だ……。
「はぁー、夕日が綺麗だな」
「もぅっ、突然ワケのわからないこと言い出さないでよ――。
そうそう、祐一、観鈴ちゃんから電話があったんだけど」
「は? 俺に?」
きょとんっとしている俺をみて名雪ははぁーとこいつにしては大きな溜息を吐いた。
「祐一、佳乃ちゃんだけに気を奪われてちゃダメだよ。
ううんっ――祐一はそれでいいのかもね」
「はぁ?」
名雪はまた、俺の腕を掴むと微笑、あるいは微苦笑を浮かべ歩き出した。
「おかあさーん」
「あらあら」
名雪が手を降る先に荷物を下ろしスーパーの前にたたずむ秋子さんがいる。
大きく手を振った名雪と対照的に小さく照れた俺の手振りは秋子さんにどう映っただろう。
手、握りっぱなしで歩くのなんて何だか子供みたいで照れくさい。
だが、決して格好悪いとかそういう思いはない。
「2人とも、今日は仲良しね」
――ああ、そういえば、昔こんなこと言われたっけな。
ふいに、昔が懐かしくなった。
「う〜、祐一ぃ重いよ」
不満を一杯に、俺を見る名雪に、ただ俺は息をつくと笑った。
「別に、無理しなくても良かったんだぜ?」
「う……。 えへへ、だめ?」
「もちろん」
俺が笑うと名雪ががくっと肩を落とす。 同時に両手に握られた膨れたビニール袋は軽く揺れた。
「あらあら、名雪ありがとう」
「……がんばるよ」
名雪は再びピシッと背を伸ばした。
――もとはといえば名雪が大元なんだが。
秋子さん抱えていた袋は全部だいたい均等な重さだった。
俺と名雪は当初これを俺が多めにもつ予定だったのだが……。
名雪は突如、じゃんけんでもつ数を変えよう、と言い出したのだ。
まぁ、面白そうだったので俺も秋子さんも従う。
そして運命の神様は順応で名雪に3袋を抱える権利を与えてくれた。
「名雪、じゃんけん弱いなー」
「フフッ、祐一さん、名雪をあまりからかわないでくださいね」
「えっ? はい」
秋子さんは俺の横を歩く。
ちなみに名雪は俺達のやや後ろを歩いていた。
「あの子、きっと気を使ったんですよ。 あのままだと私は何も持たなくて良かった」
「そうっすかね」
「悪いなぁ、という気持ち、そうですね、遠慮させないためでしょうか」
「う〜〜〜ん、そこまであいつって考える方だったかなぁ」
クスクスと秋子さんは俺の横で笑い声を漏らした。
「そんなことどうだっていいんですよ。 私の思い過しそう思って下さっていいです」
「はい」
「さぁ、今日は観鈴ちゃんも泊まりに来る事ですし腕によりをかけますよ。
期待しててくださいね、祐一さん」
「えっ? 観鈴、今日泊まりに来るんですか?」
「あら? 知りませんでしたか?」
「あっ、ごめん――祐一、言うの忘れてたよ、えへへ」
えへへ、じゃない。
リビングで観鈴とあゆ、そして真琴が寛いでいた。
真琴は残念ながら安眠を得られず大人しく風呂に入って来たらしい。
髪が僅かに濡れていた。
「秋子さん、こんばんわ。 名雪さんと祐一さんもこんばんわ」
こいつの笑い方、凄く愛想が良くて俺は嫌いじゃなかった。
「ああ、で、なんで観鈴がここにいるわけ?」
「祐一さん、あちらの地区はまだ観鈴ちゃんと一緒に学校に行くこはいないでしょう?
それで、私、晴子さんと話し合って初日だけこういう形にしてもらったのよ」
「なるほど」
さりげなく結構ぐさっとくる一言を言ったにも拘らず観鈴は平然とちょっと照れたように笑った。
「はぁ〜、疲れたなーもう。 祐一、わたしお風呂入ってくるから除いちゃダメだよ」
「任せてよ、名雪さん。 ボクがそんなこと絶対させないからね」
「うんっ、あゆちゃんよろしく〜」
やれやれ、と俺は小さく肩をすくめテーブルに腰掛けた。
「それじゃ、私の御飯の支度に取り掛かるのであゆちゃん、手伝ってくれる?」
「うんっ!」
「あぅ〜、あたしも……」
「真琴は休んでなさい。 明日、手伝ってもらいましょうね」
「うんっ♪」
あゆがいなくなったので真琴はごろん、と観鈴に足を向けてソファーに寝転がった。
特に話題もないので明日以降のことを考えていた。
そういう時間も思えば貴重だ。 蒲団に入ると直寝てしまう性分だしな。
ぼーっとただ、ぼーっとしている……。
「ね、祐一さん、わたしプレゼント持ってきました」
「ぎょわっ!!」
目の前に突然観鈴の顔が現れた。
あぶなく仰け反るところだった。
「クスクス……。 えっと、わたし、春休みすっごく祐一さんにお世話になりました。
だけど――祐一さんにお礼とかちっとも言ってないよね。
お母さんに聞いたかもしれないけど、わたしは――臆病です」
「あー……そんなこともあったっけ」
「うんっ――だから、ありがとう、と、これからもよろしくのプレゼント。
受け取ってくれるかな?」
「ああ、もらえるものはもらっておく」
ひょい、と俺は観鈴に掌を突きつけ、さっさとおくれのポーズをとる。
嬉しいらしい。 嬉嬉した観鈴はポケットから何か取り出した。
紙に包まれていてなんだかわからないけど……キーホルダーか?
そんなサイズのものだろう」
「はい」
「ありがと――やっぱりキーホルダーか……羽?」
「うん。 幸運を呼ぶ羽。 祐一さん苦労性っぽいから」
「うわっ、すっげえ余計なお世話だぞ、それ……」
「にはは、すっごい余計なお世話です」
やれやれ――。
恙無く、時間は過ぎていった。
春休み――当初の希望は何であったかとかそういうものはどうだっていい。
一人間である俺はそういう目的もなく過した。
当然あまり進展はない。
そうして――俺の春休みは本当にあっという間に終わろうとしていた。
――真夜中――
「――カウントダウーン」
寝てないから疲れ果てたあゆが気力なさげに呟いた。
あと、数分で0時――春休みが終わる。
突拍子な企画だったが春休み終焉をカウントダウンすることになった。
メンバーは俺、あゆ、真琴、観鈴。
名雪は張り切って9時にノックアウトしたのはお約束だ。
「3 ・ 2 ・ 1――終了〜〜はぁ……お疲れ、そしてお休み」
音頭をとったあゆがよろよろと自分の部屋へと去って行く。
「あぅ〜……祐一だるい。 とまってもいい?」
「ダメ」
「ちぇ〜」
お前がいると、下手すれば夜中に散歩するかもしれないからパスだ。
「にはは、祐一さんおやすみなさい」
「お休み〜……」
………………。
…………。
………。
……。
…。
・。
。
〜さぼりまくってごめんなさい……小さくカノエア!更新終了!!〜